「どんどん新しい人が増えていくな」
腕を組みながらニッと微笑むリッドの横で、私は無言のまま小さく頷いた。
このまま人が…女の子が増えることが恐ろしいと思った。
いつか、リッドが、自分以外の女の子を好きになってしまったら?
新しく来た女の子がリッドを好きになってしまったら?
考えるだけでイラッとするし、悲しくもなる。
人手が足りない為、人が増えることは喜ばしいことだけど、
私とリッドの関係のことを考えると、複雑な気持ちだった。
友達以上、恋人未満。それが今のリッドの関係。
「……ふぅ」
私は、悩んでいた。告白して、リッドを自分のものにしたい。
でも、拒まれてしまうかもしれないという不安。
「は嬉しくないのか?」
リッドは、私の顔を覗き込んで、首を傾げた。
「え?う、うん。まあね」
無意識のうちに顔に出してたのかな。
私はポリポリと頭を掻いた。
「リッドは、嫌じゃない?人が増えれば食事の配分が少なくなるんじゃないかな」
「あ、それは嫌だ」
苦笑するリッドに、私はホッとした。
しかし、それはすぐに焦りに変わる。
「でもさ、は何が嫌なんだ?」
リッドがそんなことを聞いてくるから、私の心臓はドキッと飛び跳ねた。
上手くかわすんだ。本当のことを言うにはまだ早い…!!
「私は…人見知りだから、仲良くできるか不安で」
実際、私はどちらかというと人見知りだ。
交友関係も狭く深いと自分で思ってる。
「ふーん…」
あまり納得のいかない答えだったのか、リッドの怪訝そうな顔。
私の額から頬にかけて、冷や汗がたらりと流れる。
「なら、オレがついててやるから。一緒に仲良くなればいいんじゃねぇの?」
「ありがとう、リッドは優しいね」
内心、別にいいと思いながら、私は笑顔を作った。
早速新しい人が入ってきた。
リッドはもうその人と仲良くなったみたいで、私に紹介してくれた。
「俺、ロイド!よろしくな!!」
手を差し伸べられて、私はおずおずと手を伸ばした。
その瞬間、がっしりと繋がれる、ロイドの手と私の手。
どうしてそんなにガツガツしてくるんだと、少しだけ不快に思った。
でも、ロイドの手はとても温かだった。なんだか、安心する。
「わっ、手ぇ冷たいんだな。なんかヒンヤリして気持ちいい」
ロイドは私の手を握ったままだった。
「ロイドの手は温かいね」
私の手が、ロイドの手の体温を奪っていくような感覚がなんだか面白かった。
「なぁ、いつまで握手してんだよ」
リッドの呆れた声に、私はハッとした。
そうだよ、いつまでやっているんだ私は。しかも、初対面の人と!
「ご、ごめんね、ロイド」
反射的に手を引っ込めた私。一瞬、ロイドの手が行き場をなくして宙を舞った。
「いや、オレこそ…さっさと放せばよかったから」
なんとなくぎこちない雰囲気の中、私はちらっとロイドを見れば、
ロイドも私を見ていて、私とロイドの目が合った。
すると、ロイドは顔を真っ赤にして、ぱっと目を逸らす。
え、この反応は何。
「おいおい。イチャつくなら他所でやれよ」
そう、リッドが苦笑する。
私はショックを受けた。後頭部を鈍器で殴られたような…とにかく大打撃だ。
リッドに勘違いされた。それは私にとって大事件だ。
「リッドこそ、ファラと仲がいいんだろ?なんなら俺、応援するぜ?」
更に、ロイドの一言でサァっと血の気が引いた。
私の前ではそれは禁句なのだよ、ロイド君。
リッドとファラは幼馴染で、すごく仲がいい。
ファラがリッドをどう思っているか、私は手に取るようにわかる。
何故なら、ファラと私はリッドに同じ想いを抱いているから、すごくわかりやすいのだ。
「ん、どうしたんだ?」
「別に!!」
ロイドは私の敵だ。
恋敵の肩を持つなんて、酷すぎる。
私だって、リッドと対等になれるように色々努力してきたつもりだ。
リッドに気にしてもらいたい。リッドに振り向いてもらいたい。
その一心で頑張ってきたんだから。
料理だって剣技だって、魔法だって。それなのに…。
「やっぱり、キミとは仲良くできそうに無い!」
私はそう言い捨てて、部屋を飛び出した。
よく考えれば、あの場で飛び出すなんて最悪だった。
リッドを取られたくないってことがバレバレな行動だったと後悔する。
私は甲板で頭を抱えながらため息をついた。
リッド、気づいちゃったかな。
私、なんてアホなんだろう。
青い海と空をを見ながら考える。
恐らくバレちゃった私の気持ち、これからどうしようと。
「よぉ。」
後ろからリッドの声が聞こえて、振り向く。
「う…リッド」
聞き間違えだったらよかったと思いながら、私はまた視線を海に戻した。
恥ずかしくて、リッドの顔が直視できない。
それでもリッドは私に構うことなく、私の隣に立って海を眺める。
少し沈黙した後、リッドが口を開いた。
「ロイド、相当落ち込んでたぜ」
やっぱりその話かと、私は落胆する。
でも、もう過ぎてしまったこと。
もしかしたら、「迷惑だ」って言われるかもしれない。
「オレもファラのことが好きだから」とか言われるかもしれない。
結果がどうであれ、私は現実を、リッドの答えを受け止めようと思う。
「うん、そうだろうね…。」
覚悟は決まった、さぁ、どんと来い…!
「オレがからかったせいで、悪かったな」
「…うん?」
あれ?何か違う方向に話しが進んでる?
「恥ずかしくなって飛び出したんだろ?」
私は苦笑しながら肩を落とした。
どうやら、リッドは私がロイドとのことをからかわれて恥ずかしくて飛び出したのだと勘違いしているらしい。
「…まぁ、そうだね。」
それはそれで良かったのだけれど。
一度決めた、私の覚悟は音も無く崩れ去っていった。
何だろう、この虚無感は。
「何だよ、その曖昧な返事」
「や、脱力しただけ」
リッドはなーんにもわかってないんだろうね。
私はリッドのことが好きなんだよーだ。
心の中で叫んでみる。本人が目の前にいるだけあって、ちょっとだけ恥ずかしかった。
「でも、良かった」
リッドが安著の笑みを浮かべた。
「何が?」
私は首を傾げた。
すると、リッドは私をじっと見つめてニカっと笑う。
「とロイドがくっついちまうんじゃねーかって怖かった。
初めて会っただけなのに、あんなに仲良さげだったから不安だったんだ」
「それって」という私の言葉を遮って、リッドは照れくさそうに私から目を逸らした。
「は知らないだろうな。オレって、のこと好きなんだぜ」
リッドの突然の告白に耳を疑う。
相手、間違ってないよね?私に言ってるんだよね?
「リッド、何言ってるか…よく聞こえなかったよ…」
そんなのは嘘だ。ちゃんと聞こえた。はっきり聞こえた。
だけど、あまりにも突然すぎたから、嬉しさに浸れなかったから、もう一度聞きたくて。
リッドは目を瞬かせて「え」と呟いた。顔が真っ赤になっている。
「い、いいか!?今度こそよく聞いてろよ!!」
緊張しているのか、声が裏返りながら、すごく必死になっているリッドの姿がとても愛しかった。
すうっと息を吸って、リッドは大きく吐き出す。
「オレはが大好きだーっ!」
「ひぃぃ!?」
私は慌ててリッドの口を手で覆った。
もう遅いとは頭の中では解っていたけれど、そうせずにはいられなかった。
バンエルティア号の中にもしっかりと聞こえているはずだ。
きっと中ではリッドの大告白の話題で持ちきりのはず。
「な、何してんの!?」
「はオレのものって宣言も兼ねて、に聞こえるように言った」
真っ赤な顔で照れくさそうに微笑むリッド。
私の頬の熱も急上昇だ。
リッドにここまで言わせてしまっては、私が言わないわけにはいかない。
ぐっと拳を握り、私は意を決した。
「リッドだって知らなかったと思うけど…私だってリッドのことが好きなんだよ…っ」
本当は私から言おうとしていた愛の言葉。
次の瞬間、リッドは「よっしゃ!」とガッツポーズを決めて、私を抱きしめた。
程よいリッドの筋肉が私を締め付けて苦しいけれど、
念願の両想いになれたことで私は舞い上がっていた。
今、死んでもいい!
(ロイド、キミとはいい友達になれそうだ!)
(…俺、一目惚れだったんだけどな)
執筆:09年7月3日