ずっと好きだった。
この気持ちを伝えよう。

そう決意をして、私は彼の元へと向かった。
青空の下、いつもの場所で彼、リッドはぼんやりと空を仰いでいる。
すー、はー、と深呼吸をしてぐっと拳を握る。

(よし、行こう…!)

平常心を保とうと努めながら、一歩一歩リッドに近づいていく。
さて、なんて声をかけたらいいかな。
こんにちは?ボンジュール?アンニョンハセヨ?
今日もいい天気ですね?…いや、この手の会話は次に繋げにくいな。

。」

「ぎゃっ!」

突然振り向いたリッドが「よぉ」と右手を上げて私の名前を呼んだ。
まさか私の気配に気づいていたなんて、驚きだ。

「何驚いてんだよ。」

バカだなぁ。
そう言いながらリッドは私に歩み寄り、私の頭を小突いた。
うわわ、リッドに小突かれちゃった。それだけでもう幸せだ。

「あ、あのね…ユニークな声のかけ方を考えてたらリッドが先に声をかけちゃったから驚いちゃって…。」

てへへと笑いながら私ははにかむ。
すると、リッドは可笑しそうに微笑んだ。

「いつもみたく、普通に声かけてくれればいいじゃねーか。」

リッドはそう言ったけれど、今日は特別だからいつものようにはいけなかったのだ。
いつもできることもできなくなるくらい、大切なことをするのだから。

「………。」

「………?」

話題が思い浮かばず、黙り込んでしまった私と、心配そうに私を見つめるリッド。

「大丈夫か?なんか、今日の、様子がおかしいぜ。熱でもあるんじゃねぇか?」

私の額に触れたリッドの手がひんやりとした。
私は慌ててリッドから離れ、ぶんぶんと首を横に振る。

「ちっ、ち、違うのっ!今日はリッドに言いたいことがあって…!!」

「言いたいこと?」

私は俯き、息を飲んだ。
今が、チャンス。言うなら絶対このタイミング…かもしれない。
ぎゅっと唇をかみ締めた後、私は口を開いた。

「私、リッドのことが好き!」

言ってしまった…。ついに、言ってしまった…!
リッドが今どんな顔をしているのかわからない。
見るのが怖くて、私は俯いたままだ。

「……。」

リッドが私の名前を呟く。だから私は反射的に顔を上げてしまった。
私の目に映ったのは、リッドの困った表情。
ショックだった。気持ちがどんよりとして、重さを感じた。
もしかして、私の気持ちはリッドにとって迷惑なものだった?
リッドには他に好きな人がいた?私のことなんか、嫌いだった?

「…っ!」

重たい雰囲気に耐え切れず、私は逃げ出した。
心のどこかで、期待していた。リッドは私を受け入れてくれるんじゃないかって。
だけど、現実はそう甘くは無かった。















私は悩んでいた。

「はぁ…。」

、どうかしたのか?」

机に突っ伏して唸っていると、キールが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
果たしてこの悩みをキールに伝えるべきかどうか…。

「この手の話はキールの専門外だろうから言わない。」

「な、何だよ。いいから言ってみろよ!!」

キールは頬を膨らませて不機嫌そうに目を細めた。
やれやれ仕方がないというため息とともに私は苦笑した。

「私、昨日リッドに告白したんだけど逃げてきちゃって。」

思い出せば顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった出来事。
あの何とも言えない緊迫した雰囲気とか、リッドの困った表情とか。
極めつけは答えも聞かずに告り逃げした私の行動。
せめて答えを聞いていれば、いつもみたいに接する努力はできたはず。
でも、逃げだした罪悪感と羞恥心でリッドに会うことすらできない。
いっそ、なかったことに出来たらいいのに。告白なんかしなければ良かったのだ。

「はぁ…なんだ、そんなことか。」

呆れたようにため息を吐いたキールに、カチンとくる。

「そんなことって!私にとっては死活問題なの!」

このままずっとリッドと会うことができなかったらどうしよう。
ああ、どうしよう、どうしよう。
ずっと好きだったのに、今更リッドのことを忘れるなんてできそうにない。
ずっと、こんな苦しい思いをしていなきゃいけないのは嫌だ。

「単純なことだろ。リッドに会って話をするだけじゃないか。」

キールは腕を組み、またため息を吐く。
どんだけ私のこと呆れてるんだと思いながら、私はキールを睨んだ。

「あのねぇ、それができたら悩まないから。乙女心は複雑なの。」

「そう言っては現実から目を背けて逃げているだけだろう。
何が怖いんだ?ダメな方向に考えるから怖いんじゃないのか?」

キールの言葉にグサリとくる。
確かに、私は逃げているだけだ。実際、リッドの答えも聞かずに逃げた。
正直、図星だ。リッドが私を受け入れてくれないという不安。
あの時の、リッドの困った表情が脳裏に焼きついていて、どうしてもネガティブな考えになってしまう。
ちゃんと答えを聞いたわけではないのだから、まだ可能性はあるのに。
それに、もしもダメだったとしても、仕方が無いじゃないか。男はリッドだけじゃないよね。
私は立ち上がった。

「…キール、私を殴って。気合入れて欲しいの。」

キールの前に立ち、ぐっと目を閉じる。

「なっ…何言ってるんだ!は一応女なんだぞ!」

「大丈夫。キールだから頼んでるの。」

キールになら殴られたってそんなに痛くないはず。
だけど、とりあえず他人の一撃が欲しいのだ。

「…。」

そろそろ来るだろうか。
そう思っていたら、がしっと両肩を掴まれた。
私は咄嗟に目を開き、すぐ目の前にあるリッドの顔に驚愕した。

「り、リッド!?」

身を捩じらせ、リッドから離れようとしたものの、
リッドはガッシリと私の肩を掴んでいて、離れることができない。
いつの間にかキールは部屋からいなくなっていて、助けを求めることもできなかった。

「な、何でここに…。」

とりあえず目の前にいるリッドをなんとかしよう。
そう思い、私はリッドに問いかけた。

が昨日逃げるからだろ。あれからずっとオレのこと避けるしよ…。
だからキールに協力してもらったんだよ。タイミングを見て捕まえようと思ってな。」

ふと、昨日のリッドの困った表情が頭を過ぎった。
フラれる…。そんな恐怖心が私を襲った。
私は逃げようと、必死に抵抗したが、リッドの手を振りほどけない。

!おい、聞けよ!逃げるなよ!」

ぐっと身体を引き寄せられ、私はリッドに抱きしめられた。
程よい筋肉のついた胸板。
私は今までこの腕の中に収まるのを何度夢見てきたことだろうか。

「オレも、のことが好きなんだぜ…。なのに、何で逃げるんだよ…。」

優しく耳元で囁かれたリッドの言葉。
身体全体で感じるリッドの体温。
リッドは、なんて温かいのだろう。

「でも、昨日…リッドは困った顔をしてたよ?」

「ばーか。オレから伝えようとしてたのに先に言われちまったからだよ。」

何でお前から言うんだよ。
リッドはそう言ってニッと笑った。
私は逃げ出してしまったことがすごく恥ずかしくなった。
やっぱり、逃げないでちゃんと最後まで答えを聞けばよかった。

「ありがとう、リッド。」

嬉しくて、涙を流せばリッドが私を抱きしめながら涙を拭ってくれる。
そして、そっと口付けをしてくれた。




もう、逃げないよ






(リッド…いつまでこうしてるの?)
(放したら逃げそうで放せねぇんだよ。)
(に、逃げないってば!!)





†+Starry*Nights+†の碧海様に捧げます。
最後だけ苦し紛れで糖度高めの甘々です。
ごめんなさい、これで満足して頂ければ幸いですorz

執筆:09年10月20日