大好きなサレが女王様から任務を依頼された。
各街や村で一番美しいヒューマの娘を城に連れてくるという内容。
それはトーマも一緒だけど、あいつがヒューマの娘の顔を区別できるわけがない。
つまり、連れてくる娘はサレの好みで選ばれるわけでしょう…?

「なんか、妬ける!」

胸がモヤモヤとして、いてもたってもいられなくて、枕を抱きながらベッドの上でゴロゴロと転がる。

「何がだい?」

ソファーでワインを飲んでいたサレがグラスを置いた。
今日はサレの仕事がないから二人でまったり過ごそうってことだったんだけど、
任務の話を聞いたらもうまったりどころではなくなってしまった。
任務の内容に不安を感じまくりな私はむくりと起き上がり、サレを見つめる。
うう、すっごくカッコイイ。大好き。だからこそ、不安なのだ。

「任務のこと!だって、サレ好みの美しいヒューマの娘を連れて来るんでしょ?
もし、娘がサレに惚れちゃったらどうしよって思って!
サレの好みで選んだ美しい娘ってだけでもう私に勝ち目がない気がするんだよねっ!」

サレは性格がアレだけど外見はすっごくカッコイイから、中にはサレに惚れちゃう子もいるんじゃないかと。
そうなったら私はどうしたらいい…。
私は一応サレの彼女だけど、サレのことだから私よりいい子がいたらきっと簡単に乗り換えるだろうよ。

「私、くじけそう…まだ何も起きてないけど妄想だけで」

俯きながらため息をついた。
ネガティブな思考がどんどん膨らんでいく。
まだ見ぬ美しいライバルに大好きなサレを取られてしまう…もう、泣きたいよ。

「アハハ、はバカだね」

それまで黙って私の話を聞いてくれていたサレが笑い出した。
笑い事じゃないよ、私にとっては大問題なんだから!

「な、何よう!!」

私はベッドから降り、サレの前に立った。
サレは余裕の笑みを浮かべながら私を見上げると、再びグラスを手に取る。

はもっと自分に自信持った方がいいんじゃない?十分美しいと思うよ?」

サレの言葉を聞いて、顔に熱が篭るのを感じる。
まさかサレにそんな風に言われるとは思ってなかったから恥ずかしい。

「サレにそう言ってもらえるのは嬉しいけど…各所の一番美しい娘に比べたら私なんて」

月とスッポンだよね。
はぁ、もっと美しい女性になりたい。
今まで美意識完全皆無だった自分がとても恨めしい。
しかも、サレ以外にモテたことがないから、サレと別れたら一生恋愛なんてできないと思う。
サレの隣に腰掛け、じっとサレを凝視する。
よく私みたいな女を彼女にしてくれたよね。
…なんて思っていると、サレが私の肩をぐっと抱き、自分の身体へと引き寄せる。

「大丈夫、僕が愛するのはだけさ。それでも僕を信じられない?」

違う、そうじゃない。
サレのことは信じてる、でもそれ以上に…。

「サレを信じられないんじゃなくて、私がサレに好かれ続けられる自信がないだけなの。
私は自分の容姿に自信が持てるほど可愛くないの。本当に不甲斐ないよ…」

本当言うと、どうして今こうしてサレが私と付き合ってくれているのかさえ不思議なんだ。
特別可愛いわけでもない、何の取柄もない私と付き合っていて、私だけが幸せみたいで。
それに、勝手に嫉妬して一方的に不安をぶつけているのも迷惑だってわかっているのに、止められない。
私はなんて最低なのだろう。

「なら、僕がの所有物だって印しをつけようか」

サレが私の首筋に顔を埋めてくる。
くすぐったくて笑ってしまった。

「ふふ、よくあるよね。キスマーク、とか?でもそんなのすぐに消えちゃうよ?」

「消えないものさ。僕だって、留守の間にが他の男に取られないか心配だからね」

そう言ってサレはポケットから小さな箱を取り出し、それを私に手渡してくる。
箱を開けると、大きさの違う同じデザインのリングがふたつ並んでいた。

「これって…?」

サレは小さいほうのリングを取り出し、私の左手をとった。
そして、薬指にリングをはめて、その上に唇を落とす。

はずっと僕だけのものだよ」

嬉しくて、目尻からじわじわと涙が溢れてくる。
私は嗚咽でうまく返事が出来なかったけれど、こくこくと何度も頷いた。
そしたらサレが満足そうに微笑んで、私の頭をそっと撫でてくれた。
どうしよう、幸せすぎて死んでしまいそう。

「ほら、も」

サレが、もう片方のリングを私に差し出した。
私はそれを受け取り、サレの左薬指にそっとはめる。

「サレはずっと私だけのもの…!」

私の言葉を聞いて、サレは私を抱きしめた。







誓いのしるし












(私、今以上に美しくなれるように努力する!)
(これ以上美しくなったら今以上に他の男を追い払うのが大変になるからやめてほしいなぁ)



美人さんなのに男が寄って来ないのは全てサレの陰謀。

執筆:12年1月21日