The fate is changed



「フンフンフーン。今日の運勢はどうかなー」

毎朝同じ時間。テレビをつけて、運勢をチェックするのが私の日課だ。
そんな私の趣味はもちろん、占い。
女の子なら誰でも…ってわけでもないけど、そこそこ興味のあるものだとは思う。

「…は?人生最悪の日?」

テレビの画面を見て、私は固まった。
そこに表示されている、私の星座の運勢はどうやらよろしくないらしい。
あまりにも納得ができなかったので、私はファッション雑誌を引っ張り出した。
しかし、結果はあまり変わることが無かった。最悪。それどころか。

「片想いの彼が死の危険にさらされる…可能性もあり?」

うふふあはは。
現実逃避をし、私は雑誌をぶん投げた。
所詮は占い、なのだけど。

「私のせいで、スタンが危ない…かも」

スタン・エルロン。
私の幼馴染で、片想いの相手。
よし決めた。今日は一日中スタンの傍にいよう。
そうすれば災厄から守ってあげられるかもしれないし、大好きなスタンと一緒にいられる。
一石二鳥とはこのことだ。





「おはようございまーす!スタンくんいますかー!あーそーびーまーしょ!」

朝早くからで申し訳ないかなぁとは思いつつ、私はスタンの家を訪ねた。
私の大声を聞いたリリスちゃんが扉を開いてくれた。

「あ、おはよう。どうしたの?お兄ちゃんなら今寝てるけど」

呆れたようにため息を吐くリリスちゃん。
いつものことではあるけれど、スタン…お前はどんだけ寝るんだ。
リリスちゃんが起こさないでいたらずっと寝ているんじゃないのだろうか。
もしかしたら、今日一日ずっと放置してても問題ないのでは…?
いやいや、それじゃあ私はスタンと一緒にいられないではないか。

「暇だから遊びに来ちゃった。そしてリリスちゃんのご飯もたまには食べたくて。
とりあえず、スタンを叩き起こしてもいい?」

私は笑顔で尋ねた。

「丁度お兄ちゃんを起こそうと思ってたの。助かるわー」

リリスちゃんはニッコリ笑った。
お玉とフライパンを私に手渡しながら「ご飯作って待ってるね。」と台所に向かった。
私は「おじゃましまーす」と言いながらエルロン家の敷居を跨ぐ。
リビングではトーマスさんが新聞を読んでいた。
私に気づいて軽く会釈してくれたので、私も会釈した。
その後、スタンとリリスちゃんの部屋に入る。
二段ベッドの上で、すやすやと気持ちよさそうに寝ているスタンがいた。

「くぅっ、寝顔も可愛いぜ!」

ボソリと誰にも聞こえないように呟く私。
深呼吸をした後、二段ベッドの梯子を上ってスタンの横に座っってスタンを揺すってみる。

「んー…。くかー」

全く起きる気配がない。
仕方が無いので、再び揺すってみる。

「スタ~~~ン。起きろ~~~~」

「んぅ~。んが~」

スタンはまだ眠っている。
リリスちゃんのようにお玉とフライパンを振るう勇気なんて持ち合わせていないし。
さて、どうやって起こそう。

「スタンちゃーん。起きないとえっちなことしちゃうわよぉー」

いたずら心に火がついてしまい、今度は体重をかけてスタンの上に乗る。
スタンの耳元で声色を変えて囁いてみた。

「ん…っ」

流石に少し重いのか、スタンは寝返りを打った。
同時に、私はスタンの腕の中に収まってしまった。

「ちょっ!?」

あまりにも突然のことに、私の頭の中は真っ白になる。
しかも、きっちりと固定されているので動かない。
な、なにコレ!寝ぼけてるだけだよね?起きてないよね!?

「スタン!バカ!起きろ!」

私は必死に抵抗してみせる。
蹴ったり殴ったりしてどうにか脱出を試みるも、なかなか抜けることができない。

「イタッ…あれ、?」

ようやくスタンが目を覚ます。
スタンが慌てて私を放すと同時に、スタンを睨みつけた。

「す、スタンに殺されるところだった…」

「なな、なんでここにがいて、オレはのこと抱いてたの!?
…はっ!!まさかオレ、に変な事してないよな!?」

流石純情青年スタン。

「変な事はされてはないけど」

残念ながら、と心の中で付け足す。

「よかったー。でも、何でがここに?」

「今日一日暇だからスタンと遊ぼうと思って!たまにはいいよね?」

「へ?な、何で?」

「ま、まあ。色々あるのよ!」

まさか自分が死ぬかも知れないなんて知ったらスタンは絶対落ち込むだろう。
私はとりあえず本当のことを言わないでおいた。

「でも、今日はお使いでノイシュタットまで行かなきゃならなくてさ。
だから今日は遊んであげられないんだ。ごめんな、

ノイシュタットまで、お使い。
それを聞いて私はピンときた。
このリーネからノイシュタットまでは距離があるし、モンスターだって出る。
危険なことに変わりはない。
もしかして、占いは当たっているのかもしれない。
このままスタンを一人で行かせてしまったら…と思うとゾッとした。

「私も行くわ!!」

「ダメだよ!町に行く途中道のりは長いし最近じゃモンスターも出るんだぞ!!」

だからこそ、だ。

「私はスタンが思ってるほど子供じゃないよ!!それに今年で16よ!!」

「…でもなー」

「お願い!スタン!!」

様必殺上目遣い。
この上目遣いをされたら可愛すぎて誰も断る事はできなくなる。
…といいな。

「…しょうがないなぁ。今回だけだぞ?」

「やったぁ!ありがとう、スタン!」

私の押しに負けたスタンはやれやれと頭を掻いた。
ふぅ、これでスタンを守ることができる。
よーし、頑張るぞ!












村を出て坂を下ったときだった。
鳥形のモンスターが出現した。

「モンスター!!、下がってろ!!」

「え…、うん!」

そして、モンスターはスタン達に襲い掛かった。
スタンは剣を振る。

「たああああぁ!!!!」

スタンの振った剣がモンスターを斬り裂く。
しかしモンスターはあと2匹もいた。

「スタンには触れさせないいいい!」

スタンを後ろから攻めようとしていたモンスターに銃を向け、発砲する。
弾はモンスターに直撃し、モンスターは倒れた。

「さんきゅ、!」

スタンはそう言って後ろを向き、もう1匹のモンスターを斬った。

「あと1匹…」

スタンが呟く。
だけど、スタンを守るのはこの私だ。

「チェストーーー!!!」

どこかの島国の掛け声と共に引き金を引く。
再び弾があたり、モンスターは倒れた。
私は銃口に息を吹きかけてニヤリと笑う。
そんな私を見て、スタンは微笑んだ。

「相変わらずすごいな、のその武器」

「遠距離からこっそり攻撃できるから大好き」

幼い頃に死別した両親の形見であるこの銃。
一体どこの国で作られたのかとか定かではないけれど、
身を守れるから重宝していた。ただ、弾は私のお手製である。
その時、は怪しげな薬をモンスターに投げつけた。

「弾もね、特製のモンスターに効く薬を使用してて…」
「い、いいよ!そういう話、苦手なの知ってるだろ?」

「そうだったね、ごめん」

スタンが困った顔をしたのを見て、私は肩を落とした。
やっちまったなー。
スタンを困らせちゃったよ。

「でも、は何でも一人でできるからすごいよな。オレも見習わなきゃ」

にこっと笑うスタン。
ああっ、やっぱり私はスタンが好き!
この笑顔が大好きだ!










ノイシュタットに着き、スタンと私は港の市場へ魚を調達しに行った。
今晩のおかずに使う為リリスちゃんに頼まれたのだとスタンは話してくれた。

「兄ちゃん達、セインガルドかファンダリアの方から来たのかい?」

魚売りのオジサンは魚を袋に詰めながら訊いた。
接客の上手なオジサンだ、と私は心底感心していた。
その質問にはスタンが答えた。

「いえ、フィッツガルドですよ。リーネの村からです」

それを聞くとオジサンは口をポカリとあけたまんま一瞬固まった。

「リーネって、あのド田舎の!!?」

「田舎田舎って、それ言わないでくださいよ。リーネはいい村ですよ」

スタンが苦笑すると、オジサンは豪快に笑う。

「そりゃ悪かったな。ところで、兄ちゃんと嬢ちゃん、恋人同士かい?」

オジサンがそんなことを言ってきた。
私は目を丸くして、ちらっとスタンを見る。

「ち、違いますよ!幼馴染というか、兄妹みたいなものですよ」

スタンが顔を真っ赤にしながら必死に拒否した。
私は少しふくれたが、とりあえず頷いた。
ちぇ、やっぱりそう思われてたんだなーと改めて認識する。

スタンとオジサンが談笑をしているのを横目で見て、私はこっそりと歩き出した。
二人は私に気づかないまま続けている。
スタンのバカー。

「はぁ、もしかしてとは思ってたけれど…妹みたいにしか思われてないのか」

フラフラとある続けた私は公園のベンチに座り込んだ。
ふと、周りを見るとカップルでいっぱいだった。

「うぐ、もう帰りたいけど…ここ何処だろう?」

魚を売っているオジサンとスタンの会話に傷心して適当にブラついて公園に来た。
それはいいけれど、市場まではどうやって戻るのだろうか…。
道を覚えていない。ノイシュタットなんて、滅多に来れないから地理なんて全然わかんない。

「不覚。迷子になっちゃった」

とりあえず公園を出ようと立ち上がる。
適当に歩いていくと、海のよく見えるところに出てしまった。

「またしても迷った。そういえば私、スタンの護衛してたんだよね。ダメダメじゃーん」

自己嫌悪に陥り、海を眺める。
ぼんやりとしながら、私は海を見て現実逃避を始めた。











ー!」

スタンの声が聞こえた。
私は振り返って、現実逃避を強制終了させる。

「スタン!」

私の姿を確認したスタンが駆け寄ってくる。
少しだけ、怒っているように見えた。

「もう、心配したじゃないか!!」

「あぁ…ごめんね…」

私はスタンを見て苦笑した。

「何かあったのか?」

「んー。別に何も無いよ?海を見てたら感情的になっただけ」

「嘘。何かあるだろ。それともオレじゃの相談にのれないのか?」

「…聞いてくれるの?」

「もちろんだよ!オレはのことが好きなんだ。好きな女の子の相談に乗る事くらいオレにだってできるさ!」

スタンのいきなりの告白に私は目を見開いた。
スタンの頬は薔薇色に染まっていた。

「その、悩み事というのが…スタンが私に振り向いてくれない。
妹みたいにしか見てくれていない、だったら…?」

私も頬を真っ赤にしながら呟いた。
その言葉にスタンはさらに顔を赤くする。

「そ、そんなことない!オレはいつだってを1人の女性として、ずっと好きだったんだ!
さっきのは、その…まだ告白するには早いと思ってたから…。
でも今はこうして二人きりだから…その、ごめん!!」

そしてスタンは私を自分の方へ引き寄せて抱きしめた。

「マジで?」

突然の事に、私は目を丸くした。

「大マジだよ!」

「ありがとう、スタン!私もスタンが好きなの!」

ああ、神様。
私は今とても幸せです!









その夜。
寄り道で遅くなってしまった私たちがリーネ村のスタンの家に戻るとリリスちゃんがカンカンに怒っていた。
リリスちゃんはスタンに包丁を向け、そして怒鳴り散らした。
スタンはリリスちゃんを見て苦笑した。
そして私はそんな二人を見て笑って、自分の家に帰った。

「あーあ。別に今日、スタンが死にそうになるなんてことなかったじゃない。占いはずれちゃったのかなぁー?」

スタンが崖から落ちたり、モンスターに襲われたり、を予想していたのだけど。
私がついて行ったから占いの結果が変わったのかな。

「でも、スタンが無事でよかった。それに…えへ」

私はスタンの告白シーンを思い出した。何度思い出してもニヤニヤしてしまう。



執筆:03年2月20日
修正:10年11月3日