スタンさんが、リオンに向かってディムロスを振り下げる。
リオンは避けきれずに肩を負傷する。
鮮血が、あたりに飛び散った。

…リオン、もうやめようよ…?

ふと、リオンの視線が私に向けられる。
私と目があうと、悲しげな顔をした。
そして、シャルを振ってスタンさんに斬りかかった。

「僕にはもう…マリアンだけなんだ!!」

リオンがそう叫んだ瞬間。
言葉もでなかった。

…その言葉には、きっと私に裏切られた悲しみが込められている。
今までは私も…リオンの”大切な人”に含まれていたということ。

だから、リオンは私の顔を見て悲しげな表情を?

…ごめん、リオン。
思えば、リオンはいつも私のこと、大切にしてくれてた。
マリアンさんだけじゃなくて、私にも優しくて…。
いつも私の傍にいてくれてて。

どうして私はそんなリオンを裏切ってしまったんだろう。

私を裏切ったのは、リオンじゃない。裏切ったのは私なんだ。

…ねぇ、リオン。
私って、ほんと醜くて愚かだと思う。

スタンさんが、リオンに斬られた箇所を押さえながらディムロスを振った。
しかし、それはリオンに当たることはなく止まる。
そう、それを止めたのはリオンでもスタンさん本人でもなく…私だった。
そして私はスタンさんを斬る。
油断していたのか、驚いていたのか。
スキだらけになったところを私に斬られたスタンさんは血を吹き上げながらその場に倒れた。

「……?」

スタンさんの顔がみるみるうちに青くなる。
ルーティさん、フィリアさん、ウッドロウさんは絶句した。
しかし、ルーティさんは急いで回復の詠唱を始めた。

「……ありがとう。守るって言ってくれて嬉しかったです。でも、私ももう昔の私とは違うんです。
スタンさん、貴方が変わったように私も変わったんですよ。変わったのは貴方だけじゃない。」

「嘘、だろ?嘘だと言ってくれよ!っ…!!」

ルーティさんの晶術で一命を取り留めたスタンさんが、悲しそうに嘆く。
それでも私はスタンさんに剣を向けるのをやめない。

「ごめんなさい、スタンさん。私は…どうやらリオンの傍じゃないとダメみたいです。」

…」

絶対、マリアンさんに何かあったに違いないんだ。
だからリオンは…。

たとえリオンがマリアンさんのことが好きだろうと、関係ない。
やっぱり私はリオンのことが好きだから、彼を忘れることもできないし、戦うこともできないんだ。

「へっ、リオンだって私がいないと何もできないくせに…。
それと、心配かけてゴメン。ちょっと父さんと母さんに挨拶してきただけなんだよね。」

リオンの怪我をグミで回復させ、私は微笑んだ。

「…。まさかお前記憶が…?」

私は静かに頷く。

「…それでも、私は・マグナス。リオンの妹。お願い、最期まで…リオンの妹でいさせて…?」














■夢幻泡影■
12話 裏切りと別れV














死闘が続いた。
やっぱり、4人と2人じゃ分が悪く、私たちは血だらけになって倒れた。
スタンさんが私とリオンの前に立ち、私たちを見下ろす。

「もう、こんなことやめろよ…マリアンさんに何かあったんならどうして俺たちに相談しなかった!?
俺たち友達じゃないのか!?俺たちじゃ信用できないのかよ!!」

「…友達…?」

しばらくして、リオンは自嘲するように吐き捨てた。

「僕はお前のことを友達とは思っていない。」

「リオン…」

リオンの言葉に、スタンさんは悲しそうな顔をした。
しかし、リオンはそんなスタンを見て、微笑した。

「そうだ、僕たちは仲間だ…。すまない、どうして僕はお前たちを信じられなかったのだろうな。
僕には、とマリアンしかいないと思い込んでいたんだ。」

「…ごめん、リオン。私が勝手にに勘違いして、リオンに嫌われたと思って飛び出したから…」

「ぼ、僕がお前を嫌うはずが無いだろう!僕はただ、お前が………ッ!」

リオンはそこまで言いかけて、顔を赤くしながら黙り込んでしまった。

「お前が何よ?」

ルーティさんがスタンさんを押しのけてリオンの前に立つ。
ルーティさんに、先程の動揺した様子はもう微塵も残っていないように感じられた。

「あんた、ファンダリアでスタンとが仲良くしてたのを見てから可笑しかったわよ?
いつもは、ふざけ合いながらもを大切にしてるあんたが、を突き放してたわ。」

「……ルーティ。」

リオンはルーティさんを見上げる。
すると、ルーティさんはその場にしゃがみこみ、リオンの頭を撫でた。

「リオンは、のことが好きなんでしょう?スタンに嫉妬してたんでしょう?
ほんとバカよね。好きな子のこと、突き放すなんてほんとバカ。」

ルーティさんは優しく微笑んだ。

「もう、何があっても突き放したらダメよ。だって、あんたのこと、大好きなんだからさ。」

私とリオンはルーティさんの言葉に、目を丸くした。
一瞬、何が起こったのかが理解できなかった。
ルーティさんに、私がリオンのことを好きだということを言われてしまったのだ。
そして、リオンが私のことを好き…?何かの勘違いだ。
どこをどう見たらそう見えるんだ。

「ちょっ、ルーティさん!!」

「勘違いじゃないわ、だって、あんたたちとずっと一緒に旅してきたんだからわかるわよ。」

「ね。」とフィリアさんに向かってウインクするルーティさん。
フィリアさんも「そうですわ」とにっこり微笑んだ。

「リオンさんもさんも、お互いを大切になさっています。これは兄妹だからというよりも、恋ですわ。」

「…俺もそう思うよ。悔しいけれど、はリオンを選んだわけだしな。」

さらにスタンさんまで。
私はまともにリオンの顔が見れずに俯いていた。

「…僕は…」

リオンが、口を開きかけたときだった。
洞窟全体が揺れだし、洞窟の奥から、水音が聞こえてくる。
これは間違いなく、濁流だ。

「まずいぞ!みんな!!」

いち早く、ウッドロウさんが避難するよう呼びかける。
しかし、その瞬間、私たちが来た道の天井が崩れ、道が塞がってしまった。

『しまった!道が塞がってしまったぞ!』

『これではみんな死んでしまうわ!』

『ぬう、なんとかできんのかの…!?』

ソーディアンたちが口々に言う。

『あそこを見ろ、非常リフトだ。』

そして、私の手にしている剣、カーレルが口を開いた。

『その声は…!カーレルか!何故お前が…!?』

ディムロスがいち早く反応した。
すると他のソーディアンたち、そしてスタンさんたちやリオンも反応し、カーレルを凝視した。

『久しぶりだな、ディムロス。だが、今は話しているときではない。』

カーレルは照れくさそうにしたが、すぐにリフトに乗るように言った。
全員が急いでリフトに乗る。しかしリフトはまったく微動だにしなかった。

「動かない…どうなってるんだ…?」

「…リフトを操作しなくてはならないんだ。待っていろ、僕が操作する。」

リオンがリフトから降り、レバーを指差し、
リフトから少し離れたところにあるレバーの場所に向かって走り出した。
リオンが私の前を走りぬけた瞬間、リオンが私だけに聞こえるように呟いた。






「好きだ」







私は目を見開く。
…今、リオンは何て…。

リオンが、レバーを引いた。
その瞬間、リフトが動き出す。
私たちを乗せたリフトはどんどん上へと上昇して行く。

「ちょっと、リオン…!?」

リオンを残したまま。

「リオン!リオーーーン!!」

「何考えてるのよ…リオン!リオン!!!」

ルーティさんとスタンさんがリフトからリオンの名を叫ぶ。
私は、考えるよりも先に体が動いていた。
無意識のうちに、リフトから飛び降りていた。

!?」

ルーティさんの驚愕の声が聞こえる。
私自身も驚いていた。
ここに残れば、どんな結果が待ち受けているのか、理解していた。
だけど、私の本能がここに残れと…。

私がリフトから飛び降りたことに気づいたリオンが、私に駆け寄る。
もう、リフトは見えなくなるくらい上に上がっていた。
あんなに大きかったスタンさんたちの声も、もう聞こえない。

「バカが!何故飛び降りた!ここに残ればどうなるかわかっているだろう!?」

「…いや、足が滑って…というか。」

私は、勇気を振り絞ってリオンに抱きついた。
リオンに、真っ赤になった自分の顔を見られないように。

「…私の答えを聞かないで、一人で残ろうとしたリオンの方がバカだから。」

リオンをぎゅっと抱きしめる。

「好き…私、リオンのことが好き。
ずっと、リオンはマリアンさんのことが好きだと思ってたから諦めかけてたけど…。
私ね。リオンに嫌われたと思ったとき、もうダメだって思った。」

気づけば、私の目からは涙が流れていた。
ずっと、こうなることはないって思っていたから、嬉しくて、嬉しくて。

「僕だって、お前がスタンと仲良くしていて、もうダメだと思った。
お前が、スタンに気があると感じるたびに、お前に辛くあたってしまった…。」

リオンの腕が、私の背中に絡まる。
こんな日が来るなんて、思ってもみなかった。
リオンが私のことを好きだったなんて、ちっとも気づかなかった。
私のこと、妹としてしか見てないって思ってた。

「最期に、伝えることができてよかった。」

「僕もだ」

私たちは、互いの手を取り合う。
ぎゅっと、何があっても離れないくらい、強く、強く握り締めあう。
その後、突然、濁流が私たちを襲った。


さようなら、みんな。




さようなら…リオン。





執筆:04年3月
修正:06年12月9日


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