なんとか落ち着いて、リオンの顔を見ながら話ができるようになった頃。
きちんとした分かりやすい現在の状況説明と、
私の剣…カーレルについて、リオンに話した。
リオンがため息をついてカーレルを見つめる。

「…まさか、7本目のソーディアンが存在していたとはな。」

『世に知れているソーディアン・ベルセリオスの人格は
ソーディアンを作り上げた科学者…私の双子のハロルドだ。
ハロルドが「兄さんだけ人格投影しないのは不公平だ」と聞かなくてね。』

カーレルが苦笑する。
するとシャルも「たしかに、あの人ならそう言いそうですよね」と苦笑した。
ソーディアンを作り上げた、天才科学者ハロルド・ベルセリオス。
一体どんな人だったのだろう…。

「それにしても、どうしてそのソーディアンをが持っていたんだ?
確かその剣はお前が記憶喪失になる前からもともと持っていたと聞いたが、
記憶が戻ったのならわかるだろう?どこで手に入れた?」

リオンが険しい表情で訊ねた。
私はカーレルを見つめ、父さんの顔を思い出そうとした。
…だけど、父さんの声も顔も、頭の中に浮かびはしなかった。
しかし、父さんの口癖のようにいつも言っていた言葉ははっきりと思い出せる。

「いつも、父さんが言ってた。この剣は我が家の家宝で、
私が一人前になったら、この剣を私に託すって…。
でも、私が一人前になるまえに父さんも母さんも死んじゃったけれどね。」















■夢幻泡影■
14話 過去の真実













私の言葉に、リオンが言葉を詰まらせた。
どうやら、私に対して何て言葉をかけたらいいのかわからないらしい。
代わりに、私の頭をそっと撫でた。
きっと慰めようとしてくれてるんだろうな。その気持ちが、とても嬉しかった。

、それなのだが…。』

重々しく口を開くカーレル。
カーレルのその雰囲気に、私は首を傾げた。

「何?どうしたの…?」

一瞬、カーレルが沈黙する。
そして、意を決したように、再び口を開いた。

『…の両親を殺したのは、ヒューゴだ。』

その場にいた私たちは、カーレルの言葉に絶句した。
ヒューゴさんが…私の両親を…殺した?
何で?だって、ヒューゴさんは両親を失った私に優しくしてくれて…
帰る場所のなかった私を娘として出迎えてくれて、いろいろと良くしてもらって…。
どうして、ヒューゴさんが私の両親を殺す必要があったの?
それに、私の両親を殺したのは、確かに盗賊だった。ヒューゴさんではない。

「どういうことだ。」

リオンがカーレルを睨んだ。
カーレルは怯むことなく、淡々と話を続ける。

『私は確かに眠りについていた。だが、意識が全く無かったわけではない。
10年前、の両親は旅をしていたが、それはヒューゴの手から逃げ延びるためだったのだ。
ヒューゴは私の存在を知り、私を我が物にしようと、狙っていた。』

カーレルの言葉が、どうしても信じられなかった。

「…嘘…!だって、母さんは、旅をしているのは私に世界を見せるためだって言ってた…!!
私、覚えてる。旅に出る時、母さんは…っ…!」

母さんは、どんな顔をしてた?
母さんの顔も思い出せない。
だけど、母さんがどうしてか、悲しそうな表情をしていたということが、酷く印象に残って。
不思議に思ってた。
母さん…どうして?
ヒューゴさんに狙われてるとわかっていたから、悲しい顔をしていたの?

「………っ。」

私は言葉を失った。リオンが優しく抱きしめてくれる。

たちがリーネを出た後、ヒューゴは腕の立つ盗賊を雇い、の両親を殺した。
がヒューゴ邸にいた頃、私はの両親を殺した盗賊とヒューゴが
一緒にいたのを見たことがある。だけ殺さなかったのは…
恐らく、を私のマスターとして利用するためだったのだろう。』

子供であるを一人残し、私を持たせて、ヒューゴがと私を拾ったのだろう。
そうカーレルは言った。
確かに、カーレルの話は筋が通っている。
ヒューゴさんは最初から私とカーレルを利用する気で私を拾ってくれたのかもしれない。
だけど、私は信じたくない。
目を閉じれば思い出す、ヒューゴさんと過ごした日々。
父さんと母さんの顔も声も、もう思い出せないけれど…
その代わりに、父親代わりだったヒューゴさんの笑顔を思い出す。

…ヒューゴさん、どうして。

そう思うと、自然と涙があふれた。

「そういう、ことか。」

リオンが静かに呟く。
私を抱きしめている腕に力が入れられたのを感じる。

『…坊ちゃん?』

「僕は、何故をつれて来たのか疑問に思っていた。
確かに、の剣の腕はよかったが、はたしてヒューゴは
それだけの理由でこんな小娘を連れてくるだろうかと。」

小娘って…。と、突っ込みを入れたかったが、
リオンの話を遮るわけにもいかなかったので心の中で突っ込みを入れた。

「ヒューゴは…僕を使い捨ての駒としてしか見ていなかった。
もしがあの時スタンとフィッツガルドへ行っていなかったら恐らく
…僕と同じく、お前もヒューゴに利用されていただろう。」

もし、ヒューゴさんに利用されていたら。
それを考えると、怖くて、悲しかった。
だけど、私があの時フィッツガルドに行かなかったら、変わってたかもしれない。
マリアンさんだって、私とリオンが力をあわせて守って、人質に取られなかったかもしれない。
あくまでもそれは「もしかしたら」だけれど…悔しい。
だけど、どうしてヒューゴさんはこんなことをするの…?
一体、何をしようとしているの…?

「…リオンは、ヒューゴさんが何をしようとしてるのか、知ってるの…?」

私が訊ねると、リオンは俯き、目を伏せた。

「…空中都市群やベルクラントを復活させ、地上を破壊しようとしている。
1000年前の…天地戦争のようにな。」

天地戦争って…昔、天上軍と地上軍が戦った戦争だよね?
その戦争でシャルやカーレルが作られたのよね…?
ベルクラントというのは…天上軍の武器であって、
一発ぶち込めば島ひとつぶっとぶって聞いたことがある。
ヒューゴさんは…そんなものを復活させてどうしようっていうの…!

『なんということだ!シャルティエ、どうして止めなかったんだ!』

突然カーレルが怒鳴りだす。
シャルは驚いて『だ、だって…』と言葉を吃らせた。

『坊ちゃんはマリアンを人質に取られたから…ヒューゴには逆らえなかったから仕方なく…。』

ポツリとシャルが答えた。
…そうだよね。逆らえるわけ、ないもんね。

『…あのメイド長か。の恋敵の。』

「うおおぉぉおぉおおおい!!カーレルさん!?何を仰ってるのかなぁぁあ!!」

爆弾を投下したようなカーレルの発言。
私は即座にカーレルを踏みつけた。
リオンが今の言葉を聞いていなかったことを祈って…。
しかし、リオンの耳にもしっかり届いていたのか。

「…まったく、お前は可愛いな。マリアンに嫉妬していたんだからな。」

可笑しそうに微笑むリオン。
私は真っ赤になって「知らない!!そんなの知らない!!」と
リオンから離れて背を向けた。

「そ、そんなことより!これからどうするかだよ!
もちろん、マリアンさんを助けに行くよね!?」

『恋敵を助けに行くのかい?』

カーレルがクスクスと笑っている。

「カーレルは黙ってて…?」

再びカーレルを踏み潰し、リオンに視線を向ける。
リオンは口の両端を上げて、こくりと頷いた。

「当然だ。マリアンは僕にとって大切な…母のような存在なのだからな。」

シャルがリオンの腰元で呟く。

『恋人はだからね。マリアンは母親なんですよね、坊ちゃん。』

そんなシャルの言葉に、リオンが少しだけ頬を赤く染める。
リオンは「お前…」と声のトーンを下げてシャルを威圧した。
シャルは怯えた声で「すいません…」と苦笑した。
そんな光景に、ふと懐かしさを感じた。
昔はよかった。こうして、シャルがリオンをおちょくって、リオンがシャルに怒って。
私はリオンの隣でそれを見ていて、マリアンさんが微笑んでいて。
もう、昔には戻れないんだなぁと、そう思った。

そのときだった。ラディスロウの入り口の方から話し声が聞こえてきたのは。
次の瞬間、扉が開かれて、私とリオンは目を見開く。

「あ…。」

と…リオン…?」

扉の向こうにいたのは、スタンさんとルーティさん、フィリアさんやウッドロウさんもいる。
スタンさんが、こちらを見て、口をパクパクしていた。
その後ろで、ルーティさんが「どうしたの?」と行って、スタンさんを押しのけた。

「あんた…たち…!」

ルーティさんの目には涙が浮かぶ。

「…無事だったんだな!!」

そう言ってスタンさんが駆け寄ってきて、ぎゅっと私を抱きしめた。
きつく抱きしめられて、とても苦しい。
だけど、思わぬ再会に、自然と笑みがこぼれる。

「スタンさんたちも無事だったんですね、よかった…!」

後ろでリオンが困ったような表情でルーティさんを見つめていた。
ルーティさんも、リオンをじっと見つめている。

「…どうして、あんたたちがここにいるのよ。散々心配したんだから!!」

「ルーティ…」

ルーティさんの目尻には涙が溜まっていて。
リオンはつかつかとルーティさんに歩み寄った。

「心配を…かけたな」

リオンの言葉に、ルーティさんがこくんと頷く。
頷いた瞬間に、目尻から涙がほろりとルーティさんの頬を伝って流れ落ちた。
ルーティさんはリオンを抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。

そんな感動的な光景に、私の視界が涙でじわりとぼやけた。





執筆:07年3月19日

前話 / 次話