「あなたがちゃんね?」

玄関に入った途端、美人なお姉さんに声をかけられる。
ははん、この人がマリアンさん。すごく別嬪さんだ。

「うん。えっと…マリアンさん…?」

「はい、メイド長を勤めております、マリアンです。宜しくね。ちゃん。」

「こ、こちらこそ宜しくお願いします」

思わず緊張してしまう。
でも、マリアンさんの優しい笑顔に、私はちょっとだけ安心することができた。
お姉さんっぽいマリアンさんは、きっとみんなの人気者なんだろうなー…。















■夢幻泡影■
2話 プロローグU













「ここがちゃんのお部屋よ」

マリアンさんがとある部屋の前で立ち止まり、言った。
私は胸を躍らせながら扉を開けてみる。
そこはお城のお姫様のお部屋のような広い部屋だった。

「す、すっご〜い!こ、ここ、本当に私の部屋ですか!?」

「ええ、そうよ」

マリアンさんは驚愕している私を見て楽しそうにクスクスと笑った。
笑われてしまったことに、少し恥ずかしくなる。田舎者丸出しだ。
でも、本当に見たこと見ないすごい部屋だ。
本当に私が使っちゃってもいいのかと、躊躇ってしまう。
でも、ふかふかそうなベッドにダイブせずにはいられない。

「きゃあー!!ベッドふかふか〜!!」

見たことの無い部屋に心躍らせる私は部屋の奥にあるベッドにダイブして奇声を発した。
マリアンさんはしばらく、私の様子を見てクスクスと笑っていた。
もう、開き直ろう。私は田舎者なんだから。

「そういえばちゃんはリオンの妹になるのね?」

「うん…そうなんですけど…。なんだかまだちょっと仲良くなれなくて。」

我に戻った私はベッドから降りて姿勢を正した。
兄になったリオンと仲良くなれない不安がよみがえる。
つい、自然とため息が出てしまった。

「ふふっ。ちゃんはプリンは作れるかしら?」

「作れます…けど。本か何かを見れば。」

「リオンはプリンが好きなの。作ってあげたらどう?早い話、餌でつってみたらどうかしら?」

「…そ、そうですね。私、頑張ってみます!」

マリアンさんはちょっぴり黒いようだ。
でも、きっとそれは私のためにアドバイスをしてくれたんだ。
マリアンさん、とてもいい人…!










早速、私は厨房を借りて、手際よくプリンを作った。
牛乳、生クリーム、卵黄、グラニュー糖、バニラエッセンスを混ぜ合わせる。
そしてカラメルを作ってそれらをマグカップに入れた。
プリン生地は火にかけたので熱く、そのまま冷蔵庫にいれず、少し冷ました。
そして冷蔵庫に少し冷めたプリンを入れたときだった。

「きゃーーーー!誰かーーー!リオン様が!!!誰か!!」

庭から聞こえた誰かの悲鳴。

「え!?」

私はキッチンからすっとんで庭へ向かった。

私は庭を見て驚愕した。
それは血だらけのリオンと、オロオロしているメイドたち。
マリアンさんは生憎買い物で留守中だ。

「ど、どうしたの!?」

「り、リオン様が剣の稽古をしていて…足を…!」

一人のメイドが顔を真っ青にしながら言った。
リオンの足の傷は深そうだった。どんどん血が流れている。

「まともに防具もつけないでやるから!」

「…だ、まれ…お前など……くっ」

私はメイドたちを押しのけてリオンの隣にしゃがんだ。
そしてリオンの足の傷口を見る。
なるほど、これは早く止血しなければ命が危ない。

「強がり言ってる場合じゃないよ!誰か!包帯をあるだけ持ってきて!早く!!」

「は、はい!!!」

メイドは駆け足で玄関へ向かった。

「うわ、出血が酷い。血が出すぎると死んじゃうらしいし…。どうしよう。」

「僕に構うな…」

「強がらないでよ!死んじゃうかもしれないのよ!?
せっかく新しい家族ができたのに…そんなの、やだっ!」

「…………。」

リオンは黙ってしまった。

絶対にリオンは死なせない。
まだ仲良くもなってないのに死なせてたまるか!

私は自分の服を脱いだ。

「な、何を…」

それを目の前で見たリオンは焦った。
当然、女の子が今自分の前で服を脱いでいれば驚くだろう。

そしてそれに構わず私は脱いだ服をビリビリと音を立てて裂き始めた。
裂いた服をリオンの足に巻きつける。

「これ、とりあえず止血。ちゃんとした清潔な包帯が来るまで…ね」

リオンは自分の足に裂いた服を巻いている私を見ていた。
私も、必死に包帯代わりの布を巻きながらリオンに微笑みかける。






その後、メイドが持ってきた包帯を付け換えてリオンの流血はとりあえず止まった。








「止まったみたい。よかった…。」

私は笑った。
新しい家族が…リオンが死ななくて、本当によかった。

「なんで僕なんかを助けたんだ」

「え?」

「なんで僕なんか助けたんだ!放っておけばよかったっじゃないか!
僕は…お前に酷いこと言ってきたのに…どうしてこんな奴を家族だと思える!!」

リオンが涙目で私を見て、必死に訴える。
私はそんなリオンを見て、不敵に微笑んでやった。

「だって。私達、もう他人じゃないでしょ?」

私が答えるとリオンは相変わらずの涙目でふん、と鼻で笑った。

「…僕の名前、初めて呼んだな。」

「あ、じゃあ、リオンだって私の名前まだ呼んでくれてないよ?」

リオンは一瞬クスっと笑った。

「そうだな、……ってな、なんだ?」

リオンが笑った。
初めて笑った顔を見せてくれた。
それが見れて、私は嬉しくなって、

「…リオンが笑ったーーー!!めっちゃ可愛い!!」

私はリオンに抱きつく。
まるで子供がぬいぐるみに抱きつくように。

「な…やめろ…!」

リオンの顔は一瞬で赤く染まった。
しぶしぶと私はリオンから離れる。

「じゃあ、改めてよろしく!リオン!」

微笑みなながら手を差し出す。

「ああ、よろしく、

リオンと私はがっちりと握手をした。


固く絆を結ぶかのように…








執筆:03年3月16日
修正:06年10月21日


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