ここ、セインガルド王国の首都、ダリルシェイド。
その中のとある大きな屋敷・ヒューゴ様の屋敷の中庭で私とリオンは剣を交えていた。

「リオン!今日は負けないから!」

剣を構えた直した私はリオンを睨みつけながら言った。
私はリオンの妹であり、部下あった。
歳はリオンと同じ(誕生日が少しだけリオンの方が早い)。

「38勝472敗のくせに粋がるな」

フン、と鼻で笑い、皮肉を言うリオン。
そんな彼は若干16歳でセインガルドの客員剣士であり、
じき七将軍の最有力候補とも言われていた。
私たちはセインガルド内では有名であり、二人の名を知らない者は少ない。

「だ、だから今日は負けないんだってば!!見損なわないでよ!」

いつものようにリオンに皮肉を言われ、ムっときた私は
タンっと軽快に地を蹴り、リオン目掛けて長剣を振るった。
しかしリオンは軽やかに避け…たが。
私は長剣の重さのせいか、バランスを崩して転んだ。

「うへぇ…めっちゃ痛い」

「…だから言っただろう。ほら、立てるか?」

にへら、と笑った私はリオンの差し出した手に捕まり、立ち上がった。
溜息をつくリオンではあったが、ついに耐え切れずに笑ってしまった。

「ありがとリオン。じゃあもう一回…」

「やめておけ。本当に怪我するぞ。休憩だ。」















■夢幻泡影■
3話 兄と妹と剣と














「リオン、牛乳あげる」

剣の稽古の合間、私はリオンに牛乳を勧めた。
理由はカルシウム不足なリオンにカルシウムをとらせて
もう少し穏便になってもらおうとする私の野望。
そしてもう一つ。
女である私と身長が同じなリオンの身長を伸ばしてあげようという親切という名の皮肉だった。

「何故牛乳なんだ。」

もちろん、私が牛乳を勧める理由を知らないリオンは眉間にしわをよせる。
一方私は、にしし、と笑いリオンの反応を楽しそうに見ていた。

「いいじゃん。つべこべ言わないで飲んでおきなよ、159cmなお兄様?」

「何故お前が知ってるんだ。」

私は右手を上げて笑顔で答えた。

「それはあなた様の妹ですから〜?
16歳の男児にしては少々小さいのではないかね?お兄様。いや〜ん。
そんな乏しい身長じゃいつか私に越されますわよ?
…うーん、目測だけど…上から72、54、81…か?ほそっこいモヤシだねぇ。」

「な…、そこまで…ッ!」

シャルティエを振り回すリオン。
悲鳴をあげながらリオンに許しを乞う私。

リオンの手の中にあるシャルティエが、レンズのシャッターを開けた。
シャルティエのコアレンズが美しく光りだす。

は坊ちゃんをおちょくるのが好きだね。
ていうか、何で坊ちゃんのスリーサイズがわかったの?』

リオンの剣、シャルティエはくすくすと笑った。

「一応私も、医者の免許は持ってますから…ねぇ?」

「……付き合いきれんな。」


リオンは顔を歪ませて、踵を返す。そして部屋を出ようとした。
……そのとき。


バァン!!



突如部屋のドアが開かれ、若い兵士が慌てた様子で入室した。
私は口に手を当て「あ…」と小さく呻くが遅かった。

「リオン様!様!陛下が至急城へ来てほしいとのことです!!
……あれ?様お一人ですか?リオン様は何処に?」

兵士が部屋を見回し、リオンを捜す。
と、突然ドアがひとりでに動いたと思いきや、リオンが顔を手で抑えて出てくる。
ちなみに黒いオーラを携えながら。

「ああっ!!り、リオン様……!!失礼致しました!!お、お怪我は…?」

慌ててリオンに謝罪する兵士。だが、なおもリオンは黙り込んだままであった。
そしてリオンの指の間からたらたらと血が流れたのを私は見た。

「あ!血ぃ出てる!」

私はポケットからティッシュを取り出し、急いでリオンに駆け寄る。
おろおろと立ち往生していた兵士に丁寧に御礼をし、部屋から出るよう促す。
そして兵士が部屋から出るのを確認するとリオンに手をどけるように言った。

「ほら、手ぇどけて!」

なかなか手をどけないリオンにじれったさを感じ、私は自らリオンの手を引いた。
するとリオンの鼻から真紅の血が流れ出ていた。

「い、いい!放っておけばそのうち…」
「何言ってんの!早く止血しないと!
陛下からお呼び出しもあるんだしそんな顔じゃ行けないでしょ!
それとも、鼻血客員剣士という肩書きでも欲しいわけ…?」

私の言葉に、リオンは絶句して、おとなしくなった。
そして、リオンの鼻にティッシュをつめる。

鼻血が止まるのを確認し、私は剣を腰に提げ、リオンにシャルティエを手渡す。
そして二人は城へ向かった。

















「おお、遅かったではないか…珍しいな。」

セインガルド王に頭を下げ、私は事情を話した。

「申し訳御座いません、陛下。ちょっとしたアクシデントが…
あ、でももう心配は御座いませんよ。解決いたしましたので。」

「それで、陛下。僕らは何故呼ばれたのでしょうか」

リオンは私に「すまない」という合図を送りながら話を促した。
陛下はそうであった、と呟き、表情を引き締める。

「ジェノスの近くにある神殿に賊が侵入したことは聞いているな?」

「はい。最近出回っているルーティ・カトレット、
マリー・エージェントという二人のレンズハンターによるものですね。」

それはジェノスというセインガルドとファンダリアの国境の町の近くの神殿での事件であった。
レンズハンターのルーティ・カトレット、マリー・エージェントによるもので、
神殿の宝を盗んだあげく、神殿を見回っていた3人の兵士に
危害を加えたという凶悪な事件があったのだ。

「そう。実は今そやつらがストレイライズ神殿に向かうと聞き及んでだな。
そこで、だ。貴公ら二人にそやつらを護送してほしいのだ。
一般の兵では全く歯が立たないらしいのでな。」

話し終え、ふぅ、と溜息をつく王。
断る理由も無いので、リオンと私は了承した。

「わかりました。では、僕達は夜明けと共に兵を引き連れストレイライズ神殿に向かいます。」

「うむ、頼むぞ。」













「ふぅ、夜明けかぁ〜…つらいな〜…。」

城からの帰り道。私は溜息をつく。

「お前、そういえば最近寝ていないようだったな。
悩み事か?そのいつもお気楽そうな頭でか?」

「うわぁ!ひっどいよ!!私だって悩み事するもん。」

ぱたぱたと手を上下に振る私を見て、リオンはクスクスと笑い出した。

「何を悩んでいるんだ?」

「…最近視力が落ちたな〜…って。」

「そんなことか。」

「『そんなこと』とは何!目が見えなくなったら大変なのに!!」

泣きまねをしながら私は「こんな可愛い妹が苦しんでると言うのに」と呟いた。
リオンは微笑みながら私の頭を優しく撫でてやった。

「まぁ、とにかく…メガネになってもお前は僕の妹だ。何の変わりもないだろう。」

「…メガネだと何かと苦労しそうで嫌なのになぁ。」

僕の妹…。
そう、まだ私がリオンに恋しているということは、伝えてはいない。
だって、リオンはマリアンさんのことが好きなのだから…。




執筆:03年1月13日
修正:06年12月2日



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