夜明け前。ストレイライズの森の入口周辺。
リオンと私の二人はセインガルド王の命により、レンズハンターを待ち伏せていた。
リオンは先程から私の頬を引っ張っている。私はリオンの顔を睨みながら項垂れた。

「…リオン。」

「どうした?

「…さっきから頬が痛いのですけど。」

「気のせいだろう。」

「じゃあこの手は何!?私の頬、伸びちゃう!!!」

「よかったな。」

「よくないっ!」

平然とかわすリオンをよそに、私はリオンの手をパチパチと叩きながら怒声を上げた。
リオンは機嫌悪そうに私の頬を開放すると、ソッポ向いてしまった。
そんなリオンの様子に、私は首を傾げる。

「ねぇ、私何かした?もしかして寝坊したから?それだったら謝るから、機嫌直してよ、ねー?」

「…べつに。」

リオンはさらに顔を引きつらせる。
私はうーん、と唸ると、両手を合わせながらリオンに懇願した。

「機嫌直してよ。この任務が終わったらプリン作ってあげるから。」

「…仕方が無いな。べつに機嫌が悪いわけではなかったのだが。」

「プリン」と聞いて、リオンの顔が先程より緩んだ。
私は影で「してやったり」のポーズをとると、微笑んだ。

その時、向こうから話し声が聞こえたような気がした。
私は一旦その場に立ち止まり、耳を済ませる。

「どうした?」

リオンが不振に思ってかリオンもその場で立ち止まり、私を見る。

「…リオン、あっちの方から人の気配がする…。」

「…奴らかもしれないな。よし、行くぞ!」

「あいあいさー。」

リオンの声を合図に、二人は走り出した。






人が、いた。

私とリオンは木陰に身を潜めながら様子を覗い始めた。














■夢幻泡影■
4話 運命の任務













「スタンッ!よそ見してるとやられるぞ!!」

「わわっ!」

金髪の少年の背後に現れたモンスターを一撃で斬る女剣士。
モンスターは肉の塊と化し、微動だにしなくなる。

「たっ、助かりましたっ。」

スタンと呼ばれた青年は、額に汗をかきながら軽く頭を下げた。
すると、女剣士が少し楽しそうにスタンさんに言う。

「背後には常に気を張っていろ。敵は何処から襲ってくるかわからないからな!」

スタンさんは襲い掛かってくるモンスターの応戦をしながら、女剣士の戦いを閲覧する。
女剣士は素早くモンスターを斬り倒していく。まるで無駄な動きが見られない。
スタンさんは照れくさそうに女剣士に言った。

「マリーさんてほんと戦い慣れてるっていうか…なんかスゴイですよね!」

「スタンこそいい腕を持っているじゃないか。」

「俺なんて…まだまだですよ!」

マリーと呼ばれた女剣士がスタンを褒めると、
スタンさんは頬を微かに赤く染めながらモンスターを真っ二つにした。

あれがマリーさん…。ということはあの向こうでレンズを回収しているのがルーティさんか。
じゃあ、あのスタンさんという人は…新しい仲間か何か?




そこで、私の隣で様子を窺っていたリオンが突然ずかずかと前へと歩みだす。
私は慌ててリオンの後を追った。





「ああ、僕の比じゃないな。」





「…誰?」

スタンさんとマリーさんが倒したモンスターからレンズを回収していたルーティさんがリオンに問い掛けた。
するとリオンはルーティさんを見下し、答える。

「僕はリオン・マグナス。」

「えと、私は・マグナス。リオンの妹です。」

「は、はぁ。こんなところに兄妹?もしかして君達、迷子?」

スタンさんが半分呆れ顔で訊ねた。
それを見たリオンは額に青筋を立てて怒声を上げた。

「違う!!もむやみに余計な事を言うなっていつも言っているだろ!」

「ごっごめん!」

私はしゅんとし、リオンに向かって手を合わせる。
リオンはため息をつくとスタンさんたちに向きなおした。

「改めて言うが、大怪我をしたくなければ大人しくするんだな、盗賊共。」

リオンの発言に、スタンさんが驚きの声をあげる。

「と、盗賊!?」

ルーティさんはリオンを睨むと、ふ、と鼻で笑った。

「言ってくれるわね。子供が何の用よ。」

「…随分と威勢のいい女だな。」

「あら、子供扱いされて頭にきたの?」

「…フン。」

ルーティさんとリオンの間に一触即発の雰囲気が漂う。
しかし、私は構わず話した。

「違いますよ!あなたたちがセインガルド領の古代遺跡から宝を持ち出した挙句
遺跡の調査にあたった兵士達に怪我を負わせたって報告があって私達はきたんですよ!」

「…ということは、私たちの敵ってことね…?」

ルーティさんが怪訝そうに言うと、私は「そういうこと」と言ってコクリと頷いた。

「悪いけど、捕まるわけにはいかないの!!…ディープミストっ!!」

ルーティさんは言い終えると同時に腰に掛かっていた剣を取り、呪文を唱えた。
すると、あたりが霧に包まれ視界が悪くなった。
リオンと私は背中を合わせ、構える。

晶術だ。
ソーディアン使いしかできない術。

「これは…あの人、ソーディアン使い!」

私は驚いた顔で言ったが、すぐに表情を引き締めてリオンに向き直る。

『…アトワイトですね。』

シャルティエが呟いた。
ようやく霧が晴れ、私たちはスタンさんたちが向かったと思われる
山の谷間にあるストレイライズ神殿を見下ろした。









スタンさんたちを追い、私たちはストレイライズ神殿にやってきた。
そして、異変に気づく。静か過ぎる。まるで人の気配がない。

「…血のにおい。」

私は表情を歪ませ、小さく呟いた。
するとリオンが怪訝そうな顔をした。

「まさか…あいつらがやったんじゃ!?」

「え!?こんな短時間で?」

「あいつらはソーディアンを所持している。それくらい、容易いことだろう。」

リオンが静かに答えると、私はリオンの腰元にあるシャルティエに目をやった。

まさか、…ソーディアンがただの人殺しの道具に使われるなんて。

私はそう思いながらリオンの後を歩いていった。




リオンは聖堂の前で突然足を止めた。
そして、目の前のものを睨みつける。

「そこまでだ!」

「リオン!?」

「やだ!もう追ってきちゃったの!?」

リオンが睨みつけたもの・・・スタンさんたちは驚きの表情で振り返った。
ルーティさんの下には死体が転がっている。
リオンは「ちっ」と舌打ちをする。

「お前たち、大変なことをしでかしてくれたな…何の目的で神殿を襲った!」

その言葉を聞いて、スタンさんたちは驚愕した。
スタンさんは首を振って必死に否定する。

「お、おい!俺たちを疑ってるのか!これは俺たちじゃない!」

「他に誰がいる。」

否定するスタンさんに静かに吐いた。
それを聞いてルーティさんはリオンを見下す。

「いいがかりは止してほしいわね。
だいたいあたしたちだけでこんな大規模の神殿を襲えるわけないじゃない。
それに、ここにくるまでにあんたとどれだけの時間差があったっていうのよ。」

しかしリオンはニヤリと不敵に笑った。
そして小さく笑う。

「ああ、人間じゃ無理だな。だが、ソーディアン使いなら話は別だ。」

リオンのその発言にルーティさんたちが身を引いた。

「どうしてそれを!?」

「シャル。」

リオンはシャルティエを抜く。するとシャルティエは楽しそうに話し始めた。

『やあ、ディムロスにアトワイト。もう僕のことを忘れちゃったのかい?』

その言葉にスタンとルーティさんの腰元から声が響く。
ディムロスとアトワイトだ。

『シャルティエか!?』

「ソーディアン…なの…?」

『昔の仲間よ。』

「昔の仲間…。」

スタンさんがディムロスを見つめると、リオンはわざとらしくため息をついた。
しばらく沈黙した。そしてリオンが脱力したように首を振った。

「何を安心しているんだ。シャルたちがどうであれ、
僕たちは王の命令通りお前たちを捕まえる。今度こそ覚悟するんだな。」

リオンがシャルティエを構える。

しかし、私は見た。向こうで動いている人影を。

私は間に入って「ストップ!」と叫んだ。
しかし振り下げられたシャルティエは止まらない。
けど私は必死にシャルティエを止めた。
スタンさんたちが驚いているのとは裏腹に
私は冷や汗を掻きながら驚いているリオンを見つめた。

「り…リオン。あそこ!生存者がいたよ!」

「何!?」

リオンはシャルティエを収めてすぐに私の指差した方へと向かった。
後に私とスタンさんたちも続く。

「う…うぅ…」

「大丈夫か!?」

スタンさんが声をかけると傷を負った神官がゆっくりと上を見上げた。

「アイルツ司教!!」

「お…おぉ…。あなたは様と、リオン様…。ゴホゴホッ。」

アイルツ司教は口から血を吐いた。血が床に飛び散る。
ルーティさんは私たちを退けさせるとアトワイトを構えた。
そしてアトワイトに手をかざす。

「これじゃあまともに話せないわ。ちゃんと喋ってもらってあたしたちの
身の潔白を証明してもらわなきゃね。・・・ファーストエイド!」

するとアトワイトが輝き、アイルツ司教の傷を癒した。
アイルツ司教の傷がみるみるうちに消えていった。
アイルツ司教は驚愕で目を見開いて見とれている。

「おぉ…。」

しかしルーティさんはため息をついた。

「止血程度にしかならないわ…。」

アイルツ司教は微笑み、ルーティさんに軽く頭を下げた。

「いえいえ、だいぶ楽になりました。ありがとう、お嬢さん。」

アイルツ司教が落ち着くのを見て、スタンさんが眉をひそめながら訊ねた。

「何があったんですか?誰がこんな…。」

するとアイルツ司教は両手で顔を覆った。
そして悔しげに話し出した。

「私にも何が何だか…。突然大司祭…グレバムがモンスターどもを連れて…。
私たちに成す術もありませんでした…。」

「大司祭の造反といったところか…。」

リオンが腕を組みながらため息をつく。
ルーティさんはふん、と鼻息を鳴らすとリオンを見下した。

「ほ〜ら!あたしらは無実よ!」

「そのグレ…えっと…。だ、大司祭はどこへ!?」

スタンさんは横目でルーティさんたちを見つつ、アイルツ司教に優しく訊ねる。
するとアイルツ司教は下の階に続いていると思われる階段を指差した。

「あの地下通路の中へ。あの中には神の眼が保管されているのです!」

「何だと!?」

リオンが神の眼、と聞いて顔を引きつらせる。
さらに、スタンさんとルーティさんの腰元からも驚愕の声が聞こえた。

『神の眼だと!?どういうことだ!!』

『あれは人の手に委ねるべきものではないわ!』

「神の眼?」

スタンさんがディムロスに手を添えて訊ねるとディムロスは焦った声で答えた。

『ああ、あれは天地戦争に使われたものだ。まさかこんなところにあったとはな…!
神の眼があれば世界を一瞬にして破壊させることも可能なのだ!!』

「破壊…!?」

スタンさんが大声を上げた。
すると一瞬にして全員の表情が強張った。

「そ、それじゃあ早く神の眼が無事か確認にいかなきゃ!!」

「わかってる!」

リオンはすぐさま階段を降りだした。私もそのあとに続く。
スタンさんたちも慌てて私たちの後を追った。










「石像…?」

地下にあった一番奥の大きな部屋にたどり着くとそこには
無残にも崩された壁と女性の石像があるだけだった。
リオンは石像を凝視するとしばらくして目を見開いた。

「いや、これは人だ!」

「この石像が人!?冗談だろ?」

スタンさんが苦笑交じりに言うのに対して、リオンは真面目に反論した。

「冗談なんかじゃない!、パナシーアボトルを貸せ。」

「う、うん…。」

私はリオンにパナシーアボトルを手渡した。
リオンは素早くそれを石像にかけるとその石像はみるみるうちに人の姿に変わっていく。
スタンたちは驚きながらその人を見つめていた。

やがて、完全に人になると、その女性は勢いよく前へ飛び出した。

「グ…グレバム様!おやめください!そんな…!!いけませんわ!」

女性が取り乱しているのを見て、私は脅かさないように声をかけた。

「あの?大丈夫ですか?何があったんですか?」

「まさか…グレバム様にかぎってそんなこと…あぁ!でも…!」

しかし女性はボクに気づく様子もなく、ただ一人でオロオロとしていた。
それを見ていてルーティさんは女性の前に飛び出すとパン、と女性の頬を殴った。

「いい加減にしなさいよ!」

頬を殴られた女性は今私たちの存在に気づいたという顔をして呆然とした。

「痛そう。」

スタンさんは自分が殴られたわけでもないのだが、自分の頬を抑えた。

「お前は誰だ?ここで何があったんだ?」

リオンが冷静に訊ねると、女性は一息ついてゆっくり口を開いた。

「私は…フィリア・フィリスと申します。この神殿で司祭をしている者です。
あの、それで私は大司祭であるグレバム様が神の眼を持ち出していたのを見て…
止めようとした瞬間、何だか意識が遠くなってしまって…。」

「何だと!?」

リオンがフィリアをにらみつけた。
フィリアはビクッと体を振るわせた。

「それってヤバイんじゃ…。」

リオンは踵を返し、後ろにいた私に言った。

「…まずは王にこのことを報告する。、こいつらも連れて行くぞ。」

「りょ、了解。」


リオンは踵を返し、後ろにいた私は早速スタンさんたちに同行を願った。
するとスタンさんたちは快く受けてくれた。



しかし、このとき私は嫌な予感がしてたまらなかった。





執筆:03年12月
修正:06年12月2日


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