私たちはダリルシェイドに帰還すると、
まずスタンさんたちがソーディアン使いだということ、
そしてストレイライズ神殿に安置されていた神の眼が
グレバムによって盗み出されたことを陛下に報告した。

すると、スタンさんたちと私とリオンは神の眼を奪還する命を授かった。


何だか、とても嫌な予感がした。

何か、大事なものを失ってしまうような…。
















■夢幻泡影■
5話 不器用な恋















スタンさんたちはヒューゴさんの屋敷に連れてこられた。
フィリアさんは少し別室で休ませることになり、スタンさんたちは
ヒューゴさんと謁見することになった。


「ヒューゴ様、連れてきました。」

ヒューゴ邸の客室に入って、私とリオンはヒューゴさんの頭を下げた。
するとヒューゴさんは優しく微笑んだ。

ヒューゴさんの笑顔ってなんだかホっとするんだよね。

まるで本当のお父さんみたい。そんな感じ。
だけど、たまに違和感を覚えることがある。ほんと、たまになんだけれど。
私は昔からそれが不思議だった。

「うむ、ご苦労であった、リオン。君達もよく来てくれた。」

ヒューゴさんはスタンさんたちにも笑みを向けた。
しかしルーティさんはヒューゴさんを睨みつけて

「あたしは荷物を返してもらいにきただけよ!」

と、ソッポ向いた。

リオンが私の横で「あいつ…ヒューゴ様の前で。」とため息をつく。
ヒューゴさんは苦笑しつつルーティさんを見て、マリーさんを見て、スタンさんを見た。

「ああ、それは君達次第だ。」

「どういうことよ!」

ルーティさんはどうやらヒューゴさんを好まないらしい。
ヒューゴさんもそれを悟ったのか、「やれやれ」とため息をついた。

「城から君達の調書も預かっている。スタン君。」

「は、はい。」

「マリー君、そしてルーティ…カトレット君だね?」

「人に名前聞く前に自分から名乗りなさいよ。」

やはりルーティさんはヒューゴさんに楯突いた。
すると横からリオンの怒声が飛ぶ。

「おい!ヒューゴ様に生意気な口を叩くな!!」

「ふん!」

ルーティさんは腕を組むとソッポ向いてしまった。
ヒューゴさんは「ゴホン」と小さく咳払いをする。

「これは失礼。私はオベロン社総帥、ヒューゴ・ジルクリストだ。
ご存知かな、レンズハンターのお嬢さん?」

「あ……。」

「オベロン社ってレンズ製品作ったりレンズを換金してくれるあの会社?」

今更ながらマズイといった顔で苦笑するルーティさんに訊ねるようにスタンさんが首をかしげた。
しかしルーティさんはスタンさんにお構いなく黙ったままだ。

「そうですよ、スタンさん。わかってるじゃないですか。」

代わりに私が答えると、スタンさんは私に「ありがとう」と言って微笑みかけてくれた。
私もスタンさんに微笑み返した。

「では、任務を引き受けてくれるかね?お嬢さん方。」

ヒューゴさんが改めて訊ねるとスタンさんは嬉しそうに承知した。

「は、はい!俺はやります!」

しかし、ルーティさんは怪訝そうにヒューゴさんを見つめる。

「報酬はあるんでしょうね?」

「おい!」

リオンが怒鳴ろうとしたところをヒューゴさんが制し、にっこりとルーティさんに微笑む。

「それでは成功報酬ではどうかな?
無事神の眼を持ち帰ることができた暁には私の方から報酬を出そうじゃないか。」

「ヒューゴ様!何もそこまで…!」

「何か励みがなくてはやる気も起きないというものだ。それだけ責任の重い任務だからな。」

ヒューゴさんは満面の笑みで答える。
いつも思う。ヒューゴさんって子供の気持ちとかよくわかるんだなって。
でも、実の息子であるリオンにはなぜか冷たい。どうしてなんだろう…。

「さっすが天下のオベロン社総帥ね!話がわっかるぅ〜!」

当のルーティさんは機嫌をよくして語尾にハートマークをつけて喜んだ。
リオンが迷惑そうにルーティさんを睨んでいた。

「よし、話もまとまったことだ。リオン、彼らに武器を返してあげなさい。」

「…はい。」

ヒューゴさんはリオンにスタンさんたちの武器…ソーディアンを持たせる。
リオンがスタンさんたちに武器を手渡していると、部屋の扉がノックされた。
扉が開かれ、そしてマリアンさんが姿を現した。

「失礼します。」

「マリアンか。」

マリアンさんがフィリアさんをつれて部屋に入室した。
リオンがマリアンさんの声に反応して目を見開いた。

「!」

マリアンさんは一度リオンにゆっくりと微笑むと、
ヒューゴさんに視線を向き直して頭を下げた。

「フィリア・フィリス司祭をお連れしました。みなさんとお会いしたいと申されたので…。」

「えっ?…フィリア!」

「皆さんっ!」

フィリアさんがスタンさんたちの方に嬉しそうに駆け寄った。
私はちらりとリオンの方を見る。
するとやっぱりリオンはマリアンさんと話をしていた。

「マリアン…」

リオンが恥ずかしそうにマリアンさんを見た。
それに気づいたマリアンさんは優しく微笑む。

「お勤め頑張ってね、リオン。も。でもあまり無茶はダメよ?」

「…わかってる。」

「はっ、はい。」

…リオン、嬉しそう。
そうだよね、リオンはマリアンさんが好きなんだもん。
だから私は本来ここにいたらいけないんだよ。

…なんか虚しいな。

そうだ、もう寝よう。疲れたし、邪魔もしたくないし。
ぶっちゃけ、二人を見てられないんだよね。

?」

私が部屋を出ようとするとリオンが私を引き止めた。
リオンに掴まれる腕。
なんだか、そこだけ熱が篭るように熱く感じられた。
私は察されないように本当に眠そうな顔をするとリオンに体を向けた。

「何?リオン。」

「何処へ行くんだ?」

「…疲れたから、寝る。」

私はリオンの手を振り払うと再び扉に向かって歩き出す。
リオンは振り払われた手を上げて再び私を掴もうとする。

「まだ今後の動きについてヒューゴ様から…」

私はそれを避けて右手をひらひらと振ると左手で口元を抑えてあくびした。
あくびとは不思議なもので大口をあければ自然と出てくれるものである。

「もう我慢無理。あとで教えてよ…。そんじゃ、おやすみなさーい。」

っ!」

リオンの声を背中で受け止めて私は部屋を出た。
部屋を出た私は自室に向かいながら小声で呟いた。





「上手くやんなよ、リオン。」

そして自室にたどり着くとすぐにベッドへ倒れ、目を閉じた。
布団を被り、静かに目を閉じる。




思ったより早く眠ることができて…夢を見た。




なんか、小さいときの夢。
あれは…そう。ノイシュタットでヒューゴさんに拾われたときの夢、かな。
あの時は嬉しかったな。

拾われる前は周りにも孤児が沢山いてその子たちと一緒に貴族の子供にいじめられてたっけ。
それで、私が持っていた剣で追い払ってやったな。

ヒューゴさんに拾われて、何度かリオンと任務をこなして
ある任務でノイシュタットに戻ってきた時。
私たちをいじめてた貴族の子供、私を見て怯えてたっけ。
そういえば「偉い人になったからっていい気になるなよ」って言われたら
リオンがそいつに怒鳴りつけてくれたっけな。

懐かしい。

あれ?でも捨てられる前って私はどうしてたんだっけ?
…何で私は捨てられたんだっけ…?

…え?私、捨てられたんだっけ?




…思い出せない。




「うーん…」

…どのくらい寝たかな。2時間は寝てた、かな?
微妙に体の疲れはとれたかもしれない。

「疲れはとれたか、。」

「うーん、お陰様で〜…っでぇ!?リオンっ!?いつからこの部屋に!?」

気付けば私のベッドの横には椅子に座ったリオンが。
…ね、寝顔見られた?!
ていうか、マリアンさんは?
マリアンさんと会ってなくていいの!?

「30分程前からだな。任務の内容を伝えきた。」

リオンは平然と答えて見せると腕を組んだ。
…マリアンさんはほんとにいいにかよ!

「は?…30分も!?何でマリアンさんのところに行かないのさ、このバカ!」

「…ここにいたらいけなかったのか?」

きょとんとするリオンになんとなく腹が立つ。
マリアンさんが好きなクセしてなんで私のところにいるんだよ…。
照れ隠しか?照れ隠しなのか?!

「いけないってことはないけど…。リオン、しばらくマリアンさんと会えないんだよ?
それなのにこんなところで油売っていていいの・・・?」

「…何が言いたいんだ。」

「だから!リオンはマリアンさんのこと好きなんでしょ?!
少しでも多く、マリアンさんと一緒の時を過ごしなよって言ってるの!!」

思わず私が怒鳴るとリオンは鼻で笑った。

「そういうことか。」

「…何がおかしいの?」

「…いや、なんでもない。」

リオンはクスクスと笑うとやれやれ、といった感じで首を横に振った。

「…任務内容だが。まだ情報は掴めていない。
それまで待機だ。神の眼の情報を掴み次第ここを発ち、神の眼を追う。いいな?」

「うん。わざわざありがとう…。」

私はリオンにそう言ってベッドから降りた。
そしてリオンから視線を外すと小声で言った。

「私のことはホントいいから、マリアンさんのとこに行って来なよ?」

「…あ、あぁ。」

こんな小さな声でもリオンは聞こえたらしく、曖昧に答えて無言で私の部屋から出て行った。

なんか…切ないな。自分で言っておきながら
本当はリオンに言ってほしくなかった。
本当はリオンがいてくれて嬉しかった…。
とても嬉しかったのに…。
どうして素直になれなかったのだろう。

…私はマリアンさんとリオンを絶対にくっつけるんだ。
リオンはきっとそれを望んでいるはずだから…。

…暇だな。とりあえず外に行こうかな。

私は私服に着替え、部屋を出た。
途中、リオンの部屋の前を通るけどきっと部屋にはいない。
今頃マリアンさんと会ってるだろうから。






執筆:04年1月
修正:06年12月2日


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