外に出た私は庭にある芝生の上に寝転がりながらため息をついた。 空は青く澄んでいて雲が穏やかに流れていく。 だけど私の心の中はどんよりとしている…。 「…はぁ。眠気は取れたけど体がだ〜る〜い〜…。」 「それじゃあ俺と散歩に行かない?」 上からそんな声が聞こえた。 そしてその声の主はひょっこりと姿を現して。 「あ、スタンさん。いいんですか?ご一緒して。」 私は起き上がってスタンさんを見上げた。 スタンさんはにっこりと笑って頷いてくれた。 「構わないよ。じゃあ、行こうか。」 「はい。」 私は「よいしょ」という掛け声と共に立ちあがり、スタンさんの横を歩き始めた。 ■夢幻泡影■ 6話 素直じゃなくて 城を北としてヒューゴ邸を東に行くと首都の港があって、そこには市場がある。 そこは毎日がにぎやかで笑顔あふれる場所だ。 仕事で何度も通ってるけど、今日はなんだかいつもより活気があるように思えた。 「スタンさんはどうしてレンズハンターになったんですか?」 私が何気なく訊ねるとスタンさんは困ったように笑った。 「え!?あ、俺はなりたくてレンズハンターになってたわけじゃないよ。 ルーティにそそのかされたんだよ。本当はセインガルドの兵士志願しにきたのに…」 「そうだったんですか…。でも兵士は給料も安いし危険です。いいことありませんよ? それとも、どうしてもセインガルドに仕えたい理由とかあるんですか?」 スタンさんはう〜ん、と唸って、恥ずかしそうに答えた。 「昔さ、俺が13のとき、俺の村がモンスターに襲われかけたんだけどさ。 俺と俺の友達がそれをいち早く見つけて退治しようとしたんだ。 そこまではよかったんだけど…俺も友達も幼かったし、戦闘経験も無いわけじゃんか。」 「ふんふん。」 「やっぱ、俺たちはモンスターにやられた。後悔したよ。大人達を呼べばよかったって。 けど、そこに女の子が飛び込んできてさ。まだ俺たちより小さいのに… やっつけちゃったんだ、そのモンスターを。一人で。」 女の子が一人で。 そんなにすごい子がいるんだね、世の中には。 「うわー。すごい女の子もいたものですね。」 「そうなんだ。それで…一目惚れっていうのかな。 俺、その子に助けてもらって以来ずっとその子が気になってる。 もちろんその子は俺の村の子じゃなかった。たぶん旅で通りかかったんだと思う。 その子、親と一緒に旅してたらしいんだ。 名前も出身も知らないけど、その子はとても面白い子だったよ。」 「それで、その子とはどうなったんですか??」 「うん。何日かして、その子は村を去っていったんだ。それ以来その子と会ってなくて…。 だから、セインガルドの兵士になれば情報もいろいろ入ってくるだろうから探せるかと思って…。」 「へ〜。ロマンチックなお話ですね!」 「そう、かな?ありがとう、。」 「いえいえ。見つかるといいですね、その女の子。」 ぜひ私もお手合わせしてみたいなんて思っちゃったり。 スタンさんはちらっと私を見ると恥ずかしそうに頭を掻いた。 「…が…その女の子だったらよかった、かな。」 スタンさんの言葉に、私は目を丸くした。 「え…?」 それは、どういう意味なんだろう。 「あ…その。彼女が生きていれば丁度くらいの年だからさ…!」 「…えっと、嬉しいですけど、それはないですね。私は孤児だったんです。 なんか・・・たぶん親に捨てられてたところをヒューゴさんに拾われて…。 それに、私も幼少の頃から剣を習っていましたがモンスターを一人で倒すほど強くは無いし スタンさんのような男の子にもあった覚えもないですから…。」 「そうだよ、ね。ごめん、変な事言って…」 「あ、いえ!気にしてないですよ!!」 スタンさんっていいなぁ…。 なんだか純情で素朴で。反応が新鮮だ。 それに比べてリオンはちょっとからかえばすぐに怒って頬引っ張ってくるし 酷いときにはシャルの柄でぶん殴ってくるし。 スタンさんを好きになれば…よかったかもな。 そうすればマリアンさんもいないのに。 あ、でもスタンさんには思い出の女の子がいる、か。 「頑張って探しましょう。応援しますから!」 「ありがとう、。」 スタンさんはにっこりと笑った。 その後、いろんな話をした。 マリーさんも記憶喪失だということ、私がヒューゴさんに拾われた時のこと。 そして、私がリオンの恋のキューピッドをしているということ。 リオンのことを話すたび、少しずつ胸が締め付けられる思いだった。 船の上。それは逃げ場のない場所だ。 今日の朝、兵士がヒューゴ邸に駆けつけて、 「港でやけに大きな荷物を運んでいるものがいた」という連絡を受けた。 それは恐らく神の眼だ。 そう悟った私たちは早速その大きな荷物をのせた船を追いかけることにした。 そして今に至る。 「昨日は遅くまでどこへ行っていたんだ。」 リオンに問い詰められた。ここは船の甲板の先端。 下を見ればすぐ海がせまっている。 リオンは昨日私がスタンさんと散歩に出たことを訊いているんだ。 確かに、私はリオンに何も告げずに外に出た。 私はリオンの妹であり、部下だ。 だけど、そんなの私の勝手だ。 どうしてそんなことを、リオンがわざわざ訊ねるんだろう。 「えっと…、昨日はスタンさんと散歩に出ていましたよ?」 何か、マリアンさんと嫌なことでもあったのだろうか。 そんなことを考えながら目を泳がせながら答えると、リオンは「はぁ」とため息をついた。 「そういうことか。」 「え?」 リオンは静かに口を開いた。 まるで…その動きがスローモーションだったかのように感じられた。 「が僕にマリアンのところに行けと言ったのは、スタンと散歩に出たかったから、だろう?」 作り笑顔だった。 なんだか、見放された感じ。 その笑顔で、そんなこと言わないでほしい。 違う、勘違いしてるよ、リオン。 「違うよリオン!私は…」 「よかったな。。スタンのこと…頑張れよ。」 それはまるで拒絶されたかのようだった。 私が、スタンさんに好意を持っていると勘違いされた。 リオンは私を遮って船内へと入っていった。 残された私はぺたりと床に座り込んだ。 「違う。何で…そんな風に考えるの…。」 どうして…そんな風に思っちゃうんだろう。 「さん、元気ないですわね。どうかしたんですか?」 船の食堂で机に伏せていた私にフィリアさんが声をかけてくれた。 長いこと甲板の先端で考え込んでたら酔ってしまったのだ。ちょっと吐き気がする。 「フィリアさん…。はい、大丈夫です。心配かけちゃってすみません。」 「そうか?酔ったんなら背中さすってあげるから。」 スタンさんも心配そうに駆け寄ってくれた。 隣でルーティさんが「セクハラじゃない!」とスタンさんを小突いた。 「あ、ありがとうございます…。ほんと、大丈夫ですから。」 私が笑顔でピースしてみせるとスタンさんたちは安心したように微笑んだ。 するとマリーさんが私の前に出て優しく微笑んだ。 「無理しちゃダメだぞ?。」 「はい、マリーさん。」 「それにしてもリオンのヤツ…。 可愛い妹が元気ないっていうのに気にもかけないなんてなんて冷徹なのかしら!」 ルーティさんは甲板にいて今は姿が見えないリオンのいる方を向いて口を尖らせた。 私は、知っていた。リオンが乗り物に弱いということを。 だからリオンはいつもああして一人甲板で風に当たって気を紛らわせているんだ。 私のことを気にするよりも、まずは自分のことだろう。 これは誰にも言うなと言われたし、バラす気も無い。 「あ、いいんですよ。私が勝手に酔ったのが悪いんですから…。 それに、リオンはいつもああなので、放置してあげてください。」 …それに、私は勘違いされてるんだ。 たとえリオンが今元気だとして、心配されても私は嬉しくない。 ルーティさんは「まるでリオンの方が弟みたいね」と言いながら私を抱きしめた。 でも、どうしてリオン怒ってるのかな…? 例え私がスタンさんを好きだとしてもそれはリオンには関係ないと思う。 もしかして…ヤキモチ…? …そっか、そうだったのか。 ふふふ、リオンめ。この可愛い妹が他の男を好いていると知って嫉妬してるのね。 後でからかってやろうっと。 「それよりもさ、ここで寝てるよりベッドで休んだ方がよくなるんじゃないかな?」 スタンさんが首を傾げた。確かに…そうかもしれない。 そして、体調を整えて、からかった後に誤解をとかなくちゃ。 「そうね。じゃあ、あたしが肩貸すわ。行きましょ、。」 「あ、ありがとうございます!」 私はルーティさんの肩に掴まるとルーティさんとゆっくり歩き始めた。 いいなぁ。ルーティさんみたいなお姉さんが欲しいわ。 「あら、って思ってたとおり軽いわね。」 「そ、そんなことないですよ!」 ルーティさんと笑いながら部屋を出ようとした瞬間、船が大きく揺れた。 「な、なんだ!?」 スタンさんとフィリアさんとマリーさんとリオンは急いで外に出た。 ルーティさんは私を壁のところに降ろして座らせた。 「はここにいて!」 「で、でも…!」 「その体じゃ戦えないでしょ!」 ルーティさんはアトワイトを抜いて外へ出た。 私も壁に這い蹲りながら扉のところまでやってきた。 そこには大きな鳥形モンスターとゴーグルをつけた男が大きな爪を構えながら リオンたちの前に立ち尽くしていた。 「久しぶりだな、フィリア。」 「バティスタ!!」 バティスタと呼ばれた男はニヤリと笑いながらフィリアさんを見た。 「知っているのか?!」 「バティスタは…私の同僚の司祭で、グレバム様、いえ、グレバムの下で研究をしていました。 バティスタ、答えて!グレバムは神の眼で何をしようとしているの!?」 フィリアさんが眼を潤ませながら叫ぶとバティスタはククク、と笑い出した。 「決まってんだろ、世界を手に入れるのさ。じきにこの世界をモンスターが食い尽くす! そして神の眼で新たな世界を築く!グレバム様がこの世の神になるのだ!」 「なんていうことを…!」 「狂ってるわ…。」 「勝手だ…!」 モンスターで世界を食い尽くして何の意味があるのか。 モンスターがいて神になるのにどんな意味があるのか…! そう言ってやろうと思っても、あまりの吐き気に口にできない。 「グレバムはどこだ!言えば命だけは助けてやる…。」 リオンがシャルティエを構えてバティスタを睨みつける。 しかしバティスタは笑いながらリオンを見下ろした。 「クク…ガキが粋がるんじゃねぇよ!刺突爪拳!!」 バティスタがリオンに向けて爪を下ろす…! 「リオーーーーーーーン!!!!」 私は飛び出した。 喧嘩してたって関係ない。私が傷つけばいい。 例え私が死んでもそれはそれでいい。 リオンを失いたくないから。 リオンには、幸せになってもらいたいから! 鈍い音と共に左腕と頬に痛みが走った。 「いっ…!!」 リオンが驚愕してるのがわかった。 「…ッ!!」 倒れこんだ私をリオンが起こす。 頬と腕がズキズキ痛む。そして血がどくどくと流れ出る。 「…リオン…大丈夫…?」 私がにっと微笑むとリオンは目に涙をためて動揺した。 こんなリオン、初めて見る…。 「お…おま…お前…何でこんなこと…っ!」 「お、落ち着きなよ…。」 リオンは顔を歪めると大声で私を怒鳴った。 「お、落ち着いてられるかっ!!どうして僕なんか庇ったんだ!」 「り…リオンをこんなとこで死なすわけには…いかないって思っ…ッ!!」 急に腕に激痛が走り出した。 「!!!」 「リオン邪魔よ!どいて!…ファーストエイド!!」 ルーティさんが晶術を唱えてくれた。 傷口が癒されて…なんだかとても気持ちがよかった。 …なんか…急に眠気が…。 も、限界。目ぇ開けてられないや…。 みんなが…戦ってるのに…。 う〜…なんか…明るい…。 「目が覚めたか?」 …リオン…? 「すまなかった。スタンから聞いた。僕の勘違いだったそうだな…。」 いいよ、べつに…。 「は…本気で僕とマリアンの仲を進展させようとしてくれたんだな。」 ……とりあえずね。 「それなのに僕は…。」 だからもういいって。 「気にしないほうがいいよ。」 私は起き上がって目を開けた。 横にはリオンが困ったような顔で私を見つめていた。 眉がハの字に下がっている。 いつものリオンは逆ハの字で眉がつりあがっているのに。 「だが……僕は……。」 「私、気にしないよ。リオンにどう思われようとね。 それにしても、すげぇ顔。ちょ、自分の今の顔、鏡で見てみるといいよ。」 私は真剣にリオンを見つめ、いつものように振舞ってみせる。 するとリオンは驚いたかのように目を見開き、みるみるうちに怒った顔になっていく。 「人が謝っているというのにお前は……。」 「あらヤダ!いつものリオンに戻っちゃったわ!」 リオンは私の頭に拳骨を落とした。 あまりの激痛に、私は呻いた。 さらに、その衝撃が先程怪我した腕に響いて痛みが倍増。 「いででで、腕の傷に響いた!」 …あれ?でも頬は痛くない。 頬の方はそんなに深い傷じゃなかったのね。よかった、私も一応女だから。 …そっと頬の傷に手を触れると、少しだけ傷が残ってるのを感じた。 「…頬の傷、残るかもしれないな。」 リオンが私の頬に触れた。 その瞬間、私の心臓はドクドクと鼓動が早くなる。 「僕のせいだ…すまない。」 「い…いつまでも気にしてないでよ。リオンがうじうじしてるとキモイから。」 「キモ…ッ!!?」 「それよりも…あの後どうなったか知りたい。」 私はリオンの手を退けると、リオンは「そうだな…」と呟いた。 なんとなく、リオンの表情が和らいだ。 「あのあとは…海竜というのが現れた。バティスタはそいつの出現と共に逃げた。 海竜の目的は、フィリアをソーディアン・クレメンテに会わせる事だった。」 「ソーディアン?」 「ああ。そしてフィリアはクレメンテのマスターになった。」 フィリアさんが…ソーディアンマスターに…。 これでソーディアンは4本そろったんだ…。 残り2本はベルセリオスとイクティノス。 中、ベリセリオスは古えの天地戦争で失われた。 イクティノスは、ファンダリアの王が所持していると聞くけど…。 私もソーディアンマスターになりたかったな。 そう呟くと、リオンに小突かれた。 執筆:03年1月 修正:06年12月2日 前話 / 次話 |