密かにバティスタにつけて置いた発信機は、南西…つまりノイシュタットの方をさしていた。
そこで、私たちはノイシュタットに行くことになった。

「着いたぞ。ノイシュタットだ。」

久々のノイシュタット。
私はここでヒューゴさんに拾ってもらったんだよね。
懐かしいなー…。

「これからオベロン社フィッツガルド支部のイレーヌに会う。」

イレーヌさんには前に来たときにとても優しくしてもらったんだよね。
それに、孤児だった時も私にいろいろよくしてもらったっけ。

「イレーヌさんか。懐かしいね!早く会いたいよ!!」

私がそうはしゃぐとリオンは少しだけ微笑んだ。
そう、イレーヌさんには最近会っていなかったのだ。

「…そうだな。」



















■夢幻泡影■
7話 わずかな休息

















イレーヌさんの屋敷に向かったが、どこかに出かけているとメイドに言われた。
そこで、私たちはイレーヌさんの屋敷で、イレーヌさんが帰ってくるまで待つことにした。
しかし、待っているだけ、というのは結構ツラい。

「そういえばマリー、さっき美味しいアイスキャンディー屋があるって言ってたわね。」

ルーティさんが口を開く。すると、スタンさんは目を輝かせた。

「アイスキャンディー?俺、食べたいなぁ。イレーヌさんを待っている間、買ってこようよ。」

まるで子犬がはしゃぐようなスタンさんはリオンに擦り寄った。

「なぁ、リオン。いいだろ?」

「好きにしろ。」

リオンがそう答えると、スタンさんは「やった!」と嬉しそうに微笑んだ。

「マリーさんとルーティは行くだろ?リオン達はどうする?」

スタンさんの問いに、フィリアさんが真っ先に答えた。

「私も行きますわ!スタンさんとならどこまでもお供しますわ。」

にっこりと笑う彼女の後ろに何か黒いものが見えたような気がしたのは私の気のせいだろうか。
リオンは「僕はここに残っている」と短く答えた。

は?」

「私もここに残ってます。」

スタンさんたちは「じゃあ、二人の分も買ってくるな!」と言って屋敷を出て行った。
残された私とリオンは、シーンと静かな屋敷の中、無言でいた。
そういえば、私と一緒で孤児だった奴ら、みんな元気かな。
3日ほどしか一緒にいなかったけど、一緒に夢を語り合った仲間だ。
その中に一人、男の子がいた。私がヒューゴさんのところに行く前に、
彼は私に告白をした。でも、私はまだ告白の返事をしていなかった。
その彼は「ずっと待ってる」。そう言ってくれてた。
ふと気になったので、私は屋敷を出ることにした。
懐かしいし、今更だけど、返事もしたいし。もちろん、返事はノー。断る。

「リオン、私もちょっと出かけてくる。」

「どこへ行くんだ?」

「エヘ。」

「エヘ、じゃない。」

「うるさいなー。兄貴だからって妹の秘密を全部探っていいってわけじゃないぞ。」

私はそう言い捨てて屋敷を出た。
リオンが後を追ってくる。

「おい、僕はお前が何か変なことをしないか心配で…」

腕を掴まれた。
抵抗してやろうと後ろを振り向けば、リオンの顔がすぐ近くにあって驚いた。

「「あ…。」」

お互いに至近距離で、意識してしまう。
私はリオンの手を振り解き、そっぽ向いた。

「…あれ?!?」

誰かが私の名前を呼んだ。
ふと振り返ると、そこには一人の執事の服を着た少年が一人、こちらを向いて微笑んでいた。

「久しぶりじゃないか!どうしたんだよ、こんなところで!」

「あ。センリ…久しぶり。大きくなったね!」

そう。彼こそ、私に告白してきた少年・センリだった。
久しぶりの、しかも突然の再会に、私は目を丸くした。
しかも、身長がデカい。スタンさんよりもある。
私の隣にいるリオンがまるでミジンコに見えた。

「あの、任務でこっちに来たものだから、センリの顔でも見に行こうかと思ってたんだけど。
ていうか、何。その格好?執事だよね?どこで執事やってるの?」

まさかセンリの方からやってくるだなんて。
センリはにっこり笑うと

「イレーヌさんのところだよ。だって、がこっちに来たときに会えるじゃん。」

と、爽やかに言ってみせた。
あまりの言動に、私は俯く。こいつ、まだ私のこと好きなのか。

「ところで、そのちっちゃいのは、の弟?」

センリの言葉に、リオンが眉をぴくりとさせた。

「弟じゃない。兄だ。、この馴れ馴れしい男は誰だ?」

「センリっていって、孤児だったときの友達。
センリ、こっちはリオン。私の兄であって上司。私の…」

センリにリオンを紹介すると、危うく「好きな人なの」って言いそうになった。
でも、敢えてそれを言うことによってセンリは私のことを諦めるかもしれない。

「「私の…?」」

リオンとセンリが怪訝そうに私を見つめる。
私は冷や汗をかいて、首を横に振った。

「私の、世界で一番大好きな人なの!!」

と言ってリオンの腕にくっついてごまかしてみせた。
リオンにしか聞こえないように「こいつ、私に気があるみたいで鬱陶しいの」と呟く。
リオンは少しだけ顔を赤くしながら「そういうことか」と呟いた。

「私、リオンのお嫁さんになりたいくらい、リオンのこと好きだから。
ていうか、今すぐにでもリオンの子供生みたいの。
血は繋がってないから、可能なはずよっ。」

センリに向かって言い放つと、センリは顔を歪めた。

「…そ、そっか。はリオンのこと、好きなのか…。」

と、センリは私を諦めたようだった。
センリは「お使いの途中だからもう行くな」と言って、
とぼとぼと屋敷の方に向かって歩いていった。
リオンはくっついている私を引き剥がし、俯いた。
顔が赤かった。
…演技(ていうか本心だけど)だとはいえ、凄いこと口走ったしね…。
うん。当然の反応だと思う。

「リオン、ごめん。ダシにしちゃって…」

「べ…、別に構わない。」

行くぞ、と言ってリオンは私の手を引いた。

「行くって、どこに?」

「こんな茶番につき合わされたんだ。今度は僕に付き合ってもらおう。」

それって、デート…?
私は今頃になって顔が赤くなった。
リオンは私の手を引きながら、つかつかと歩いた。











「イっレーヌさぁぁぁあああ〜〜〜〜んっ!!」

「きゃっ!」

イレーヌさんが屋敷に戻ってきたと聞き、屋敷に帰るとすぐさまイレーヌさんに飛びついた。
イレーヌさんはビックリして悲鳴をあげた。
リオンはヤレヤレといった顔を、スタンさんたちは何が起きたかわからないといった顔をしていた。
マリーさんにいたっては楽しそうに笑っている。

じゃないっ!大きくなったわね!一瞬見違えちゃったわ。
さっきセンリから聞いたけど、あなたとリオン君って、お付き合いしてるのだってね。
私、いつかはそうなるんだろうなーって思っていたのよ。」

「「え。」」

イレーヌさんの言葉で固まる私とリオン。

「そういえば、あたしたちと落ち合う時も二人でいたわよね。
なんだ、二人って付き合ってたの?」

ルーティさんまでそんなことを言い出してしまう。
私は慌てて事情を説明した。
すると、「残念ね」とイレーヌさんが苦笑した。
そしてイレーヌさんは改めてスタンさんたちを見ると優しく微笑んだ。

「初めまして、みなさん。イレーヌ・レンブラントです。
これでもフィッツガルド支部の総責任者をしているの。よろしくね。」

「よ、よろしくお願いします…。」

スタンさんは真っ赤になりながらイレーヌさんと握手を交わした。
イレーヌさんはクスクス笑いながら「可愛いのね」と呟いた。
横でルーティさんが面白くなさそうに見ていた。

「イレーヌさんはヒューゴさんのお屋敷にいたレンブラントさんの娘さんなんですよ。」

レンブラントさんとは、ヒューゴさんの秘書みたいな仕事をしている人だ。
執事っていうのかな…とにかく、ヒューゴさんの下について仕事をしている人だ。

「そうなのか?…あんまり似てないな…。」

私が自慢げに言うと、マリーさんはイレーヌさんを見て苦笑いをした。

「イレーヌ、早速だが頼みたいことがある。」

「あら、何かしら?」

リオンが真剣に言うと、イレーヌさんも表情を引き締めた。
そうだ。これは仕事なんだよなぁ…。
イレーヌさんに会えた事で仕事だってことすっかり忘れてた。

「僕たちは今ある男を追っている。まずは港に不審な出入りがないか監視してほしい。
それと、この屋敷を間借りしたい。そう長くはかからないと思う…。」

「リオン君たちのお仕事じゃ仕方ないわね。
わかりました。私が責任を持って受け持ちます。それと、屋敷は自由に使って?」

イレーヌさんが笑顔でそう答えると、ルーティさんが目を輝かせて前へ出た。

「お風呂!!お風呂借りていい!?」

「ええ、どうぞ?」

ルーティさんはイレーヌさんの答えを聞いたとたん満面の笑顔になった。
スタンさんは「お風呂…」と呟いて微かに顔を赤くした。
何を想像してるのやら。

「それじゃあ、みんなで入りましょ!マリー、フィリア、、あたしの4人で!」

「え!?私も!?」
「私もですか!?」

フィリアさんと私は声を合わせて叫んだ。
ルーティさんが「なによ」とい言って口を尖らせた。

「私は遠慮しておく。」

マリーさん笑顔ではそう言うとソファーに座ってしまった。

「付き合い悪いわねぇ。それじゃ、行きましょ!二人とも!」

ルーティさんは強制的に私とフィリアさんを引っ張ってお風呂へ向かった。

「り、リオーーーーン!!」

私はリオンのマントを掴もうとしたがリオンはするりと避けてしまった。

「…くだらんな。」

リオンは顔を赤くしながら後ろを向いてしまった。
















「…リオン。私はもうお嫁に行けない。」

今、私は気晴らしにリオンとノイシュタットの町を歩いていた。
リオンは優しい。こんな時でもちゃんと私に付き合ってくれるのだから。

ルーティさんたちとお風呂に入ってルーティさんたちが先に出た後、
シャルが私いつ、どうやって忍び込んだのかわからないけど、
って服着てるとわからないけど脱ぐと結構凄いんだね』と。
私はシャルティエのコアレンズにタオルをぐるぐると巻いてやった。
しかしムカツク。ほんとどうやって入ってきたんだよシャルティエ。

「…シャルに貰ってもらえ。」

「い〜〜〜〜や〜〜〜〜〜!!確かにシャルは好きだけど剣が夫なんて絶対やだ!」

私は真面目顔なリオンをどつくと、両手を顔を覆った。
リオンは痛そうに横腹を押さえている。

『酷いなぁ、。僕はのこと愛しているのに…。』

「ゴメン、シャル。剣と夫婦生活送る気なんてこれっぽっちもないの。
人間になれたら出直しておいで。そしたら考えてはあげるからさ…。」

私がシャルを拒否するとシャルは悲しそうに『坊ちゃ〜〜〜ん』と泣き始めた。

「ていうか、シャルにはリオンがいるじゃん。可愛い坊ちゃんがさ〜。」

「僕はホモでも女でもない!バカ者が!」

リオンはシャルを私に向けて振り回してきた。

「ぎゃーーー!!危ないって!!」

私はすらりと避けるが、避けても避けてもリオンは振り回し続ける。

「やーだ!いい加減にしようよ!!」

「僕は執念深いんだ。覚えておけ!」

リオンは私の肩を掴むと自分のほうに引き寄せて私を拳骨で殴った。
いつのまにかシャルは腰の鞘に収めてあった。

ちょっぴりヒリヒリと痛むけど…なんで拳骨になったんだろう。

「あ、あれ?げんこつ…?」

「こんな街中で剣を振り回したら一般人に被害が及ぶだろう。」

「へ〜?さっきまで構わず振り回してたくせに。」

「うるさいっ!」

リオンは私の頬を引っ張ると、ため息をついた。
でも、仮にも私がシャルと結婚したら、利点がないわけではない。

「でもさ。私がシャルのお嫁さんになったら、いつでもリオンと一緒ってコトになるね」

すると、リオンはあからさまに動揺した。

「な、何故だ!?」

「だって、シャルのマスターはリオンなわけだしさ。シャルはいつでもリオンと一緒。
つまり、シャルの妻である私もリオンと一緒ってわけで。」

「な、何…!?」

「なーんてね。冗談だよ。だって…。」

リオンにはマリアンさんがいるじゃないか。
そう言おうとした時だった。

!!リオン!こんな時に何処に行ってたのよ!?」

ルーティさんが息を切らせて走ってきた。
額を汗だくにしている様子からして、長いこと私たちを探していたらしい。

「ど、どうかしたんですか?」

「どうかしたのか、じゃないわ!発信機の反応があったのよ!
この近くの閉鎖された鉱山にいるらしいの!!」

ルーティさんの言葉に、リオンは舌打ちをする。

「チッ、そうとわかれば長居は無用だ!行くぞ!」










閉鎖されたはずの鉱山なのに、施設は動いていた。
やはり、ここにバティスタがいる。そして、きっと神の眼もそこにある。
私たちは途中出くわすモンスターたちを倒しながら鉱山の奥へと進んでいった。
しかし、私たちがそこで見たものは、信じられないものだった。
モンスターが作られていたのだ。動物だけでなく、人もモンスターにされている。
そう、ここはきっとモンスターの製造工場といったところか。

「ひどい…人の命を何だと思っているのかしら」

ルーティさんは唇をかんだ。

『…本当にこの技術を復活させるとは。グレバムという男、恐ろしいな』

「ああ、でもその前にバティスタだ。ヤツは何処だ!!」

ディムロスに続き、スタンさんが叫んだ。
すると、奥の部屋から冷たい声が聞こえた。

「バティスタなら、ここにいるぞ」

長い黒髪を靡かせ、その男は「何か」を蹴り飛ばした。
「何か」は私たちの前に転がると、回転を止めた。

「バティ…スタ…」

フィリアが悲鳴を上げる。
そう、そこには、バティスタだったものがゴロンと倒れていたのだ。

「お前がやったのか!?何のために…!」

スタンさんは剣…ディムロスを抜き、男を威嚇した。
しかし、男は動じることもなく、淡々と話を続けた。

「グレバムさまの命令でな。敵から逃げたあげく、
こんな所にまで敵を導いてしまうような役立たずは必要ないそうだ」

「最低だわ…」

ルーティさんは男を睨みつける。
私は、泣いているフィリアさんを慰めながら、男を睨んだ。

「ふん、そんなことはどうでもいい。グレバムと神の眼は何処だ!」

「そう焦ることはない。」

リオンの問いに、余裕な笑みで答える男は、踵を返し、奥の部屋へと足を動かした。

「ファンダリアに来るがいい。じきにあの地はグレバム様のものになる。」

「待ってくれ!お前は一体何者だ!どうして私と同じ剣を…!」

突如、今まで黙っていたマリーさんが叫んだ。
男は一瞬振り向いたが、再び歩みだす。
そのときだった。マリーさんは突然走り出すと、奥へと入っていった。

私たちはマリーさんを追いかけた、が。
追いつかず、マリーさんは男の乗っていた飛行竜に飛び降りてしまった。

「ま、マリー!!」

ルーティさんは額に汗を浮かべながら、ただひたすらマリーさんの名を呼ぶだけだった。





執筆:04年2月
修正:06年12月2日


前話 / 次話