※レイズの世界(夢主具現化は1部終了直後)
「シャル、そこのソース取って」
「えっ」
隣のシャルティエさんにタメ口をきいてしまった事に気付いたのは言葉を発してから数秒後の事だった。
やばい、と思った時には遅かった。驚いて固まったシャルティエさんの視線が痛い。
「ご、ごめんなさいっ! いつもソーディアンのシャルと喋ってる感じで接してしまいました!」
こちらの人間シャルティエさんは階級が少佐の軍人さんというお偉い様な上に私とは面識がない。ソーディアンのシャルと同一人物といえばそうだけど一緒に過ごしてきた日々の思い出は無いからほぼ別人だとわかっているはずなのに、ついやってしまった。
「いや、大丈夫だよ。ちゃんがソーディアンの僕と仲がいいのはちゃんと知ってるからね。あいつと仲良くしてくれてありがとう」
「シャルティエさん……」
笑顔でソースを手渡してくれるシャルティエさんを見つめる。シャル、あなたこんなに笑顔が素敵だったのね。
私も笑顔でソースを受け取った。
「それにしてもずるいよなぁ、ソーディアンの僕は。こんなに可愛い子と仲良くしているなんてさ」
突然そんな事を言うものだから動揺してソースを思いっきり握りしめてぶち撒けてしまった。幸いシャルティエさんの白いズボンにはつかずに済んだけども私の手はべとべとだ。
「私は今、口説かれている?」
「あ。あちゃー、リオンくんに殺されそうだね。今の話は内密にして欲しいな」
この反応。苦笑いん浮かべるシャルティエさんも我が兄リオン・マグナスが超シスコンなのだとご存知なのだろう。確かに、私に手を出したら普通ならリオンはキレる。だけど、例外というものがあってだな。
ソースを処理しながら少し考える。ソースの処理を手伝ってくれる心優しいシャルティエさんになら言ってもいいかなと思った。なのでリオンの気持ちを暴露しちゃう事にした。
「シャルティエさんがリオンに殺されるなんて、絶対ないです。リオンはソーディアンのシャルの事が大好きです。だからか、オリジナルのシャルティエさんの事もすごく気にかけていて、いつもチラチラ見てるんですよ。それはもう片想いしている乙女のように!」
おかげでソーディアンのシャルはやきもきしている。リオンの視線を独占するシャルティエさんに嫉妬なのか、人間の姿の自分をまじまじ見られるのが恥ずかしいのか。恐らく前者だと思う。
「ええっ!? そうなの!?」
「はい。リオンはシャルティエさんと仲良くしたいんです。なので、寧ろこうして私だけシャルティエさんと話して仲良くしていると、抜け駆けしたなって私が怒られる可能性の方が高いですね」
リオンが自分から積極的にシャルティエさんに絡みに行かないのはきっと恥ずかしいからなんだろう。あと、ソーディアンのシャルの手前、ということもあるのかも。
シャルティエさんは少し恥ずかしそうに頬をポリポリと掻いた。
「そっか。実は僕って、リオンくんに愛されていたんだね」
シャルティエさんの反応が可愛すぎる。リオンはずるい。リオンばっかりシャルもシャルティエさんも独占して。
「私だってシャルティエさんの事愛してますからね!?」
なんか、リオンだけみたいに思われるのが嫌だった。リオンと同じように私だってシャルが好きだ。目の前のシャルティエさんとだって仲良くなりたい。
「え、えっと、それって、その……ちゃんはリオンくんに対抗してるだけだよね!? すごく恥ずかしい事言ってるって自覚ある!?」
顔を真っ赤にして私から視線を逸らすシャルティエさん。無意識のうちにシャルティエさんの両手を取ってぎゅっと握っていた私。側から見たらプロポーズではないか。
「わ、あ、すみません、つい」
リオンにバレたら二重の意味で殺される。リオンを差し置いてシャルティエさんと仲良くしようとした事、可愛い妹である私がリオン以外の男性に愛の言葉を吐いた事。
シャルティエさんの手をそっと放して呼吸を整えた。
「私、実は昔からリオンが羨ましかったんですよねー。私だってシャルと話したい時がありました。でもシャルはリオンのソーディアンだから、絶対二人でお話する事はできなくて。でも、こうしてシャルと……シャルティエさんと二人でお話できたので嬉しいんです。もっと仲良くなりたいんです」
私だってシャルと話したかった事は色々あった。リオンがいたらし難い話だってあったのだ。
でも、シャルティエさんはリオンだけのものじゃないからこうして気兼ねなく話せるわけで。
「……そっか。じゃあ、いつでも好きな時に僕の所においでよ。いっぱいお話ししよう。僕なら、リオンくんがいてもいなくても関係ないしね」
優しく頭を撫でてくれるシャルティエさん。ソーディアンチームの面々はソーディアンのシャルは変わったと言っていたけど、シャルティエさんとソーディアンのシャルは根本は何ら変わらない。
「はー、もう。シャルティエさん大好き」
シャルティエさんに必殺ウインクを決めると、シャルティエさんは顔を赤く染めながら苦笑い。可愛い、照れてる。
「……んん、待てよ。そういえばシャルティエさんって実は超優良物件なのでは? リオンはシャルティエさんの事好きだし私の事も大事にしてくれている。そんな私達が結婚すればシャルティエさんとリオンは義兄弟になれるし、というか家族になれてリオンもウハウハなのでは? こんなの、怒られる要素無くない? ハッピーエンドなのでは?」
「ねぇ、その心の声みたいなの、声に出して大丈夫? 本人を目の前にしてすごい計画考えるね?」
どうやら私の考えは声に出ていたらしい。シャルティエさんはまわりをキョロキョロとしているが、幸いここには最初からシャルティエさんと私の二人だけだ。それはそうだ。私はシャルティエさんと仲良くなりたくて一人の時を狙ったのだから。
別にシャルティエさん本人に聞かれた所で問題はない。どうせ冗談で終わる話……ではある、のだけど。
「うーん。真面目な話シャルティエさん以外ありえないと思うんですよね。他の人じゃ絶対リオンは許さないと思うんです。そしたら私一生独身ですよぉー!」
まぁ、そうなるにはまずシャルティエさんに好きになってもらわなくてはならないのでナシだな。
「どうですか? 私の事、貰ってくれませんか?」
なんて最後に冗談を言って誤魔化しながらお皿に残っていたコロッケを完食。
「ええと……僕なんかでよければ」
そんな答えが返ってきたので正気か!? とシャルティエさんの顔を見ればすごく恥ずかしそうに私を真っ直ぐ見つめていた。胸の鼓動が高まる。うそうそうそ、まって、この気持ちは……?
「シャルティエさん、それって――」
「何を話しているんだ、お前たち」
背後からお兄様の低い声がして、私とシャルティエさんは恐る恐る振り返る。そこには鬼が真っ黒なオーラを出しながら仁王立ちで私たちを睨みつけていた。
あ、やっぱ、ダメですよね。
執筆:23年9月28日