ルバーブ連山で魔物退治をしていると、リオンとすれ違った。リオンも依頼でここに来たのかなって思って、声を掛けてみる。

「リオン、あなたも依頼でここに?」

 だけど、リオンは一瞬だけ私を睨むと、何も答えずにスタスタ進んでいってしまった。いつものことだけど、無視されちゃうのは悲しいな。リオンの背中を見つめながら、私はため息をついた。
 ふと違和感を覚える。この辺りはまだ安全だけど、一人でこの先に進むのは危険だってアンジュから聞いていた。リオンは強いけれど……なんだろう、嫌な予感がする。いつもみたいに、邪魔だとか迷惑だとか言われちゃうかもしれない。
 気づかれないように、後をつけようか。いや、やめておこう。どうせ追い返されてしまうのがオチだ。うん、そろそろ私の依頼もあと1匹倒せば終わるし…リオンも弱いわけじゃないもんね。



※ ※ ※ ※ ※



 依頼を終えて、みんなでのんびりと夕飯を食べている時だった。慌てた様子で食堂に入ってきたアンジュ。みんなが一斉にアンジュに視線を向けた。

「みんな、リオンくん知らない!?」

「いや、見てねーな」

 私の隣に座っていたユーリが答えると、他の人もこくこくと頷いた。アンジュは俯き、ため息をつく。

「リオンが、どうかしたの?」

 カノンノが訊ねる。

「ええ……依頼を受けてるわけじゃないのに、まだ帰ってきてないの。何かあったのかしら」

 その答えを聞いて、私の心臓は跳ね上がった。
 まさか、リオンはまだルバーブ連山に――。
 私は慌てて食堂を飛び出した。

、どうしたの!?」

 アンジュたちの呼び声を背中で受け止めるも、私は走る。
 きっと、リオンはルバーブ連山の奥にいる。あの時私がリオンの後をつけていたらよかったんだ。それか、ちゃんと引き止めなきゃいけなかったんだ。どうしよう、私のせいでリオンが……リオンが。

「……っ!」

 幸い、私の依頼が最後だったから、船はルバーブ連山に泊めてあるままだ。全力でルバーブ連山に入って、リオンを捜す。夜だから、魔物の活動も活発になってくる。だけど、そんなことよりも早くリオンを探し出さなきゃいけない。アンジュに危険だと言われていた、リオンが向かったと道を走る。魔物が追いかけてくるけれど、構ってなんかいられない。攻撃が当たっても、気にしてる暇はない。

「リオン! どこにいるの!? 返事をして!」

「――――」

「……?」

 一瞬、声が聞こえたような気がして、足を止める。さっきまで追ってきていた魔物は諦めてくれたのか、もういなかった。

「リオン?」

 暗い山道を注意深く進む。突然、何かを踏んづけてしまった。

「ひゃ……!」

 目を凝らして、踏んでしまったものをよく見てみる。血に染まった手紙と花。さらに視線を上げれば、リオンが血だらけで横たわっている。

「り、リオン! 大丈夫!?」

 私は慌ててリオンを抱き起こした。出血が酷くて、意識もあるんだかないんだかわからない。

「そ、そうだ……ライフボトル!」

 私はポケットからライフボトルを取り出し、リオンの口に当てる。だけど、リオンはなかなか口を空けてくれない。

「お願いだから、飲んで……」

 このままでは、いつ魔物に見つかって襲われるかわからない。瀕死のリオンを守りきれる自信だってない。どうにかしなくてはいけない。どうにか。

「……リオン、ごめんね」

 私はリオンの口を人差し指でこじ開け、その間にライフボトルを口に含み、リオンの口に自分の口を押し当てた。そして、ライフボトルをリオンの口内に流し込む。

「――む……んう!?」

 意識を取り戻したのか、リオンが目を開く。咄嗟に私の身体を押し退け、口元を拭った。

「き、貴様!」

「ごめん……なかなか口を空けてくれなかったから。あのね、でも、今のはキスじゃないから! 応急処置だから、ね!?」

 鋭く睨んでくるリオンがとても怖い。本当に怒ってる。当たり前だよね。好きでもない人にこんなことされちゃったんだもん、怒らないわけがない。それでも、私は震えながらリオンにグミを差し出した。

「とにかく。これで、回復して?」

 乱暴にグミを受け取り、リオンはそれを口に含んだ。出血も止まったみたいで、一安心する。

「お前、一人でここまで来たのか?」

 服に付いた埃を払いながらリオンが立ち上がる。リオンの問いかけに私は目を丸くした。
 そういえば、他にも人を連れて来ればよかったんだよね。気が動転してたから、そこまで気が回らなかった。

「うん。リオンが帰ってこないって聞いて慌てて出てきたから」

「そうか……」

 リオンはそれ以上何も言ってこなかった。無謀だとか、仲間を連れて来ればよかっただろうとかいわれるかと思ったのに。意外に思いながら足元に落ちていた手紙と花を拾い上げる。

「これ、手紙とお花?」

「っ! 触るな!」

 すごい速さでリオンが手紙と花を私から引っ手繰る。余程大切なものだったのかと悟る。

「誰かに届けようとしてたの?」

「お前には関係ないだろう」

 私が訊ねても、お決まりの答えが返ってくる。答えを聞くまでもない、届けるからこんなところまで来たんだよね。

「危険を冒してまで渡したい相手がいるんだね」

「……」

 リオンは何も答えなかった。それでも、相変わらず鋭い目で私のことを睨みつけてくる。

「大丈夫、誰にも言わないよ」

「ああ。そうしてもらえると助かるな」

 少しだけ、リオンの表情が和らいだ気がした。本当は誰にも、私にも知られたくなかった事だったのかもしれない。だから、誰かを誘う事もできずに、こんな危険なところに一人で来たんだ。これからも、リオンは一人でここに来るのなら――

「今度から手紙を届ける時は私も誘って欲しいの。一人だと、危ないよ」

「何?」

 やっぱり、断られちゃうんだろう。だけど、今回ばかりは引き下がらない。もうこんなことにはなってほしくないんだから。

「お願い!私、リオンが死んじゃったらどうしようって怖かったんだから」

 気づいたら、私の目からぼろぼろと涙が溢れていた。
 あれ、おかしいな、泣くつもりはなかったのに。リオンも驚愕している様子だ。

「……わかった。今度からはお前に声を掛ける、それでいいな?」

 涙を流したおかげか、リオンは断らなかった。人前で泣いてしまった事は恥ずかしいけれど、結果オーライだよね。

「うん」

 私は涙を手の甲でごしごしと拭った。



※ ※ ※ ※ ※



 バンエルティア号に戻ると、アンジュたちが口を尖らせながら私たちを迎えてくれた。
 ああ、やっぱりこうなるよねって思いながら、前へと歩いていく。

「リオンくん! どこにいってたの!? みんな心配したんだからね!」

 アンジュがものすごい形相でリオンに問いかける。リオンは目を泳がせながら答えようとしていた。

「それは――、」
「あのねアンジュ! 私が内緒でリオンに決闘したいって依頼してたの! 忘れてた! リオンってば律儀にずっと指定した場所で待ってたみたい! ほんとゴメンネ、リオン!」

 私はリオンの言葉を遮り、そして姿勢を正してビシッと頭を下げる。アンジュをはじめとした、みんなの視線がチクチクと痛い。

「……、お前」

 リオンが心配そうに見つめてきたので、私はリオンにウインクした。もちろん、アンジュたちには見えないように。

ー? リオンくんやわたしたちに迷惑かけた分、きーっちり働いてもらうからね?」

 背中に地獄の業火を背負いながら笑顔で威圧してくる聖女アンジュ様。

「うわわわわわ、アンジュ様すいませんでしたー!」



恋する××秒前




(僕は、もう少し後になって彼女に恋をしたのだと自覚した)






リオンに惚れられたお話。

執筆:11年4月3日