部屋でのんびりとアーチェやクレアに借りた恋愛小説を読んでいると、コンコンと部屋の扉がノックされた。「はーい」と返事をすると、少し遠慮がちにリオンが入ってくる。私は読みかけの本にしおりを挟み、リオンを凝視した。リオンから部屋に訪ねてくるなんて珍しいこともあったものだ。
「、僕の依頼を受けてくれないか? もう依頼はアンジュに出してある」
依頼、と聞いて先日の事の出来事を思い出した。リオンがルバーブ連山に一人で手紙を届けに行って、大怪我した時のこと。あの時、もう一人では行かずに行く時は私も連れて行けと約束をしたこと。
「あ、また手紙を届けに行くの? いいよー」
愛用の武器を装備し、準備を整え始める。しかしリオンは首を横に振った。
「いや、手紙じゃないんだ。手紙だったら別にアンジュに依頼を出したりはしない」
「そ、そうなの……?」
手紙の件は、あくまでも誰にも秘密。公な依頼にはしたくない、のか。だけど、手紙のことじゃないなら、今回のリオンの依頼は一体何なのだろう。
「いいからさっさとアンジュのところへ行って来い」
「はーい」
リオンに急かされ、私はアンジュのいる広間へと向かった。
※ ※ ※ ※ ※
リオンの依頼はまさかの街に出て食材調達だった。牛乳とたまごと砂糖という組み合わせからして、恐らくスイーツを作る気だ。もしくは、ロックスやリリス、クレアに作ってもらう気だ。私も食べたいなぁなんて思っていると、早速お店を発見した。
「リオン、あそこに砂糖が売ってるよ!」
隣を歩くリオンのマントをぐいぐいと引っ張るも、リオンは無言だった。そして、店を通り過ぎてしまった。
あれ、食材を買いに来たんじゃなかったのかな。
「砂糖……いいの?」
「ああ。食材を買うのは最後でいい。まずはこっちの店だ」
リオンが私の手を取り、可愛らしい内装のお店に入っていく。店内には女の子向けの可愛いアクセサリーや宝石がたくさん置いてあった。
あ、あれ? リオンってそういう趣味があったの?
「リオン……?」
リオンを疑いの眼差しで見ると、リオンは真っ赤な顔をしていた。握られる手も熱く、ぎゅっと力を入れられる。
「すっ、好きなものを選べ」
突然そんなことを言われ、私は目を丸くした。
「え、どうして……?」
リオンが、私にプレゼントしてくれるということ? だけどそんなのおかしい。今日は私の誕生日ではない、はず。
「だからっ! それは……依頼と言うのは口実で……先日のお礼がしたかったんだ!」
顔を真っ赤にしながら半ば叫ぶように言うリオン。
そっか、なかなかリオンも律儀な人だなぁ。
「それじゃあ、この可愛いインテリメガネでも」
「そんなものでいいのか?」
「いいの。私はバカだから外見だけでも頭よくなりたくて」
インテリメガネをかけ、鏡を見てみる。うーん、少しだけ頭がよさそうに見えるような気がする。
「どうかな?」
リオンに問いかければ、「いいんじゃないか」と微笑んでくれた。
※ ※ ※ ※ ※
結局、プレゼントを貰った後喫茶店でケーキと紅茶までご馳走になってしまった。あの時のお礼よりもいっぱいお礼を貰ってしまい、何だか申し訳なく感じてしまう。だけど、リオンは「構わん」と言ってくれる。
「今日はありがとね。リオンのおかげですごく楽しかった!」
手を繋ぎながら帰路を歩く。私がお礼を言うとリオンは照れながらソッポ向いてしまった。
「は……誰かとキスをしたことがあるか?」
突然そんなことを聞かれて、一瞬びくりとした。あの日、リオンを助けた時、応急処置とはいえリオンの唇を奪ってしまったのだから。
「私はないよ? 強いて言うなら、リオンを助けた時が初めてだったかなー」
「ぼ、僕が、初めて……?」
「うん、リオンが初めての人」
根にもたれているのだろうか。リオンもファーストキスだったのだろうか。だとしたら私は何という事をしてしまったのだろう。
「あの日、が助けに来てくれなかったら僕は死んでいたかもしれない。それに、不可抗力とはいえ、お前の唇を奪ってしまったのだから、僕は責任を取らないといけない」
「あ、あれは応急処置だから私は気にしてないよ? リオンはずっと気にしてたんだ……ごめんね」
責任を取る事まで考えてくれてたなんて、思わなかった。リオンは自分の事より私のことを気にかけてくれたんだ。いつもはツンツンしてるけれど、本当はすごく優しいんだな。
「いや、それは……気にしなかったわけではないが、嫌じゃなかったんだ」
「え……」
嫌じゃなかった、って?
「あの日以来、気づいたたらお前の事をいつも目で追ってて……ずっと気になってたんだ」
リオンがじっと私を見つめてくる。何故か、目が離せなかった。
「、僕はお前の事――」
「おーい、! こんなところにいたのか!」
リオンの声と、リッドの声が重なった。
「あ、リッド!」
どうしてこんなところにリッドがいるんだろう?
声のした方を見ると、リッドがニカッと笑う。
「まったく、捜しちまったぜ。リオンと一緒だったのか」
「うん、リオンがデートしてくれた! すごく楽しかったよ!」
「そうか。よかったな」
心なしか、リッドは怒っているように思えた。いつもと雰囲気が違うっていうか――
「あ、ごめんねリオン。それで、リオンは私のこと、何?」
リオンが何かを言いかけていたことを思い出し、リオンに向き直る。
「……お、お前は危なっかしいからな! 僕はお前の事を守ってやる、そう言いたかっただけだ!」
あれ? リオンも、怒ってる? 先ほどまでの優しい雰囲気はどこへ行った。
「それはオレがいるから平気だぜ?」
「リッドだけじゃ不安だ」
リッドとリオンが睨みあいを始める。
えっと。二人は私が危なっかしいから守ってくれるんだよね。それはとてもありがたいけれど、ちょっと失礼じゃないだろうか。でもまぁ、二人が守ってくれると言うのなら、私だって負けられない。
「二人ともありがとう。私も二人の事守ってあげるね」
ライバルの邪魔はお約束
(リオンめ、オレが目を離してるうちに抜け駆けするとは許せねぇ!)
(リッドめ、よりによってあのタイミングで邪魔してくるとは許さん!)
(あ、結局食材買ってないよ!?)
執筆:12年3月4日