リッドと部屋で談笑をしていたとき、ふとカイルとアニーとのやり取りを思い出した。
カイルが「父さんや母さんに抱きしめられると、安心できるんだ」って言っていた。それにアニーも同意していて、頷いていた。
私にはお父さんもお母さんもいない。だからその感覚がわからない。
そう伝えると、アニーが「リッドさんに抱きしめてもらえばきっとわかりますよ」って微笑んでいた。何故リッドなのかとアニーに訊ねると、「信頼している人ならば誰でもいいんですよ」って言っていた。
確かに、私はリッドのことを信頼している。そんなわけで、リッドに抱きしめてもらおうと思う。異性に抱きしめられるのはものすごく恥ずかしいけれど、お父さんに抱きしめられるって考えればそんなに恥ずかしくはない。
思い切ってリッドに声を掛ける。
「ねぇ、リッドー。お願いがあるの」
「何だよ」
「抱きしめて?」
私がそう言うと、リッドが一瞬で顔を真っ赤にした。
「な、何で、いきなり、ど、どうしたんだよ……!?」
リッドの目が泳いでいる。
うん、まぁ。そうだよね。突然こんな事言われれば驚くよね。
それに、いくら私がリッドのことを信頼しているとはいえ、リッドはそれほど私のことを信頼してくれていないのかもしれないし。
「ごめん、やっぱり嫌だよね」
今のお願いはやっぱりなかったことにして――そう言おうとした時だった。
「そっ、そんなことはねえ!」
リッドがぶんぶんと首を横に振り、一瞬私の思考が停止する。
ん? リッドは今何て言った? そんなことない?
「い、いいの?」
「お、おう……!」
私とリッドの間に妙な空気が流れた。いつも気楽に話せるリッド。だけど今は言葉を交わすのさえ緊張してしまう。私はリッドに近づき、じっとリッドを見つめた。
「そ、それじゃ、お願いします」
心臓の鼓動が激しくなるのを感じる。リッドも相変わらず顔を赤くしたままだった。
「本当に、いいんだな?」
「どうして? リッドは私じゃダメ?」
「いや、こそオレでいいのかよ」
「うん。リッドがいい」
どうしてだろう。
アニーは信頼している人なら誰でもいいって言っていたのに、他にも私が信頼している人なんて沢山いるのに、今はリッドじゃないと嫌だって思ってる。
「そうかよ。本当に抱きしめちまうからな!」
リッドの厚い胸板が迫ってくる。背中に手を回されて、そっと抱き寄せられた。
「ふあっ……」
トクントクンと聞こえてくる、リッドの鼓動が安心感を与えてくれる。私もリッドの身体に手を回して、そのままリッドの心音を聞いていた。カイルとアニーが言ってたことがわかった気がする。
「は抱き心地がいいな」
「ふふ、リッドも本当にお父さんみたい。なんだか安心する」
「お、お父さん……?」
「うん。アニーがね、リッドに抱きしめてもらえばお父さんに抱きしめてもらってる時の安心感がわかるよって」
優しく私を抱きしめてくれるリッドはまさしく「お父さん」だと思った。ふと上をみると、リッドが複雑そうな顔をしていた。
ギュッてハグして!
(アニー! に変な事吹き込むなよ! 心臓に悪い!)
(え? 折角さんを抱きしめる事ができたのに、ご不満でしたか?)
(あ、いや。グッジョブですアニー様)
執筆:11年3月16日