バンエルティア号にお世話になり始めて数日。まだ慣れない生活に苦闘しながらもなんとかやっていた。自分の記憶がないというのは不安だけれど、何もかもが新鮮で何をしても楽しいと思える。私って結構ポジティブなのかなぁと思い、一人笑いながらお手伝いに励んでいた。
 溜まったゴミを出してくるようロックスに言われてゴミ置き場まで歩いていると、前方に私と同じく大きなゴミを持った……あれは確か。

「リッドさん!」

 ――と呼びかけてみると、前を歩いていた彼が赤い髪を揺らしながら振り返る。反応してくれたということは、名前は間違っていなかったってことだよね。よ、よかった。
 私が手にしているものを見て、リッドさんは苦笑する。

「お、もゴミ出しか?」

「そうなんだよね。働かざるもの食うべからずってロックスが」

「それ、オレもファラに言われたわ」

 ハハハと空笑いをするリッドさんと、ファラ、と言われて目を瞬かせる私。
 だ、誰だっけ。えーと、えーと。ダメだなぁ、ちゃんとみんなの名前と顔を覚えなきゃな。

「一回会った事あるだろ。オレの幼馴染の、ほら、緑の髪で――」

 リッドさんに緑の髪、と言われて彼女の顔を思い出した。そうだ、すごく元気な子で、リッドさんとよく一緒にいるなぁって思った記憶がある。リッドさんには幼馴染が2人いて、ファラさんはその一人。もう一人は青い髪を後ろで結ったいつも本を読んでる人だ。うん、思い出してきたぞっ!

「いつもリッドさんのお世話焼いてる人、だよね!」

「逆だよ。オレがあいつの尻拭いさせられてんだよ」

 リッドさんが眉間に皺を寄せた。
 あ、あれ……そうだったっけ。私が見た感じでは怠け者なリッドさんをファラさんがぐいぐい引っ張ってってるところしか見たことないんだけど。あとは、リッドさんがファラさんにオムレツを作ってもらっているところも見かけた。どちらにしろ、リッドさんの方がお世話してもらってる感じにしか見えなかった。
 するとリッドさんがゴミを持ち直し、ふぅとため息をついた。

「あいつは昔から責任感が強くて、無鉄砲で……それに付き合わされるオレの身にもなってみろよ」

 その表情は心の底からうんざりしているように思えた。
 うーん、普段の生活ではファラさんの方がリッドさんを支えて、仕事の方ではリッドさんがファラさんを支えて……ってことなのかな。
 まだカノンノ以外とクエストに出た事のない私にはわからなかった。これからはもっと色んな人とクエストに行こうっと。そうすれば、人間関係もわかってくるだろう。

「リッドさんも大変なんだね。私は、どうだったんだろうなー」

 記憶のない私には昔自分が何をしていたかとかわからない。リッドさんのように、苦労していたのかな。でも、リッドさんたちと幼馴染だったら賑やかで楽しそうだな。

「そっか、記憶がねぇんだったよな。悪い」

「ううん、気にしてないから大丈夫だよ。私もリッドさんと幼馴染だったらよかったのにな」

「な、何でだよ」

「何だか楽しそうだし、リッドさんの苦労を半分に軽減できたかもしれないから」

 ファラさんが無茶振りしても、一人より二人ならその苦労もきっと半減だよ。だけど、リッドさんはやれやれといった感じに首を横に振った。

「……逆に苦労が増えそうだけどな」

「ど、どういう意味――ひゃあ!!」

 私がムッとしてリッドさんに問い詰めようとすると、目の前に壁が広がる。話に夢中で気づかなかった……うわ、ぶつかる!

「ほら、危なっかしいから」

 急にリッドさんに腕を引っ張られ、ぼふっとゴミが地に落ちる音がした。とん、っと何かにぶつかる。ゆっくりと目を開けると、リッドさんの逞しい胸板。リッドさんが助けてくれたんだ。
 そのまま、私はにっと微笑むと、リッドさんは首を横に傾げた。

「ファラさんがリッドさんを巻き込んじゃう気持ちがわかったよ」

「何だよいきなり」

「リッドさんはね、いつもはやる気なさそうに見えて頼りないけれど、いざっていう時にすごく頼りになるの。そんなところが、カッコよくて。んー、こういうの、何て言うんだろう」

 じっとリッドさんを凝視して、言葉を思い出す。
 そう、この気持ちは――

「私、リッドさんのこと好きなの!」

「ちょ……え……? えええええええええ!?」

 リッドさんの顔が真っ赤になっていく。突然リッドさんに両肩を掴まれてゆっさゆさと身体を揺らされる。
 う、うおぉ! き、気持ち悪い……!

落ち着けよ、だってオレたちまだ出会って日が浅いんだぜ? それにオレ、そんなこと言われたの初めてだしなんていうか……いや、お前の事は嫌いじゃないんだ! 寧ろ初めて会った時から可愛いなって思ってちょっと気になってたけどよ!」

 落ち着くのはリッドさんだよと胸の内で呟く。

「ああもうなんだ! まずは……うん、とにかくオレのこと呼び捨てでいいから!」

 揺さぶりが止まり、私はぐるぐる回る頭を抑える。荒ぶったリッドさんが何を言っているのかよくわからなかったけれど、とりあえず最後だけは理解する事ができた。

「……え、っと? うん、とりあえず呼び捨てでいいんだね! わかったよリッド!」

「く……っ! っ! オレもお前の事がっ」

 リッドの、私の肩を掴む手に力が入る。また揺さぶられるのは勘弁して欲しい。

「ほ、ほら、リッド! 早くゴミ捨て行こー!」

 私は華麗にリッドの手を払い、床に放置されたゴミを拾った。



言葉選びは慎重に




(あ、さっきの言葉間違えた! 好きじゃなくて憧れって言うんだった。いやー、言葉って難しいね!)
(憧れ…? 好きじゃなくて、憧れ!? おい、オレのこのドキドキはどうすればいいんだよ!)


執筆:12年3月4日