「おや……キミはヴェイグと一緒にいた女じゃないか」
魔物の討伐の依頼を受けてルバーブ連山に来ると、見覚えのある人に会った。いきなり声をかけられた私はきょとんとした後、どこで出会ったのかを思い出した。ヘーゼル村に行く途中で会った人だ。
「こんにちは」
私が笑顔で挨拶をすると、彼――サレは眉間にシワを寄せた。
「あのさ、キミと僕は敵同士なんだよ? わかってる?」
私は記憶を辿り、サレと初めて出会った時の事を思い出す。ヴェイグたちの村に酷い事をした悪い人。そして、サレがエステルを誘拐しようとしていたところをヴェイグたちと一緒に撃退したのだ。
サレはその時の屈辱を思い出したのか、唇を噛み締めた。
「あの時の、キミたちに負けた悔しさといったら。思い出すだけで反吐がでるよ」
サレはそう言って私のことを睨みつけた。
確かにサレは悪い人かもしれない。私たちは敵同士かもしれない。だけど、今サレは誰にも迷惑をかけているわけでもないし、そもそもそんなに悪い人だとは思わない。サレにもきっといい所はあるだろうし、一緒に戦ってくれる日が来るかもしれない。
そう思って、サレに歩み寄ってみた。
「今は戦う理由なんてないもん、仲良くしようよ」
そして、サレの手を握った。
手袋越しだったけれど、サレの手の温度を感じた。ひやりと冷たい。予想外の事だったのか、サレは一瞬動きを止めて目を丸くする。
「……何してるのかな」
サレが必死に手を離そうとすれば、私は離れないようにぎゅっと力を入れる。
「握手だよ」
「離してくれないかなぁ? 不愉快だからさ」
不愉快、と聞いて私は目を丸くした。私にとってはなんてことない握手も、サレにとっては不愉快だと言うのだから驚いた。私は慌ててサレの手を離す。
「そっか、ごめんね」
えへへと苦笑する。気を取り直して、サレに向き直る。
「サレはここに何しに来たの?」
そう問い掛ければ、サレは面倒くさそうにしながら答えてくれた。
「ブルーベリーを取りに来ただけだよ。ここで上等なものが採れるって聞いたからさ」
このルバーブ連山にわざわざ採りに来るってことは、相当好きなのかな、ブルーベリー。そう思いながら、私はあることを思いついた。
「じゃあ、ついでに一緒に魔物の討伐を手伝って? 私もサレのブルーベリー探すよ」
サレの手には何もない事から、恐らくまだブルーベリーを見つけていない。それなら、一緒に行けばいいんじゃないかと思った。しかし、サレはすごく嫌そうな顔をした。
「アハハ、どうして僕がお前と協力しなくちゃならないんだい? バカバカしい。僕は行くよ」
サレはすたすたと足早に歩き出す。以前私はこのルバーブ連山でブルーベリーの木を見たことがあった。しかし、サレが歩いていく方向にはブルーベリーの木は無い。私はサレを追いかけて、サレのマントをぎゅっと掴んだ。その瞬間サレは「いい加減にしろ」という表情で私に剣を向けた。
「まだ何か用があるのかい? 折角見逃してあげようと思ったのに、とんだ命知らずだねぇ」
「いや、あのね、こないだここに来た時にブルーベリー見たんだよ」
私の言葉に、サレは目を瞬かせる。
「……どこでだい?」
「こっち」
サレをブルーベリーの木のところに案内しようと、振り返る。突如目の前に広がった、魔物の大きな身体。
「わっ!?」
こんな真後ろに魔物がいたなんて気が付かなかった。
やられる……! そう思った瞬間――
「散沙雨!」
素早く術で魔物を倒してしまったサレ。
あれ、助けてくれた?
「あ、ありがとう」
やっぱり、サレにだっていい所はあるんだよ。
「ほら、そんなのいいから早くブルーベリーのところに連れて行ってよ」
サレは少し照れたみたいで、私から顔を背けてしまった。
「はーい」
何だか嬉しくて、私は鼻歌を歌いながら歩き出した。
昨日の敵は今日の友
(へぇ、これは……いいジャムが作れそうだね)
(あっ。サレが一緒に戦ってくれたからもう依頼達成できた)
(まあ、ブルーベリーのお礼だと思ってよ)
(うん。ありがとー)
執筆:11年3月8日
修正:11年6月21日