私たちは旅をしている。
それぞれ目的は違うけれど、最終的に目指すべき物が皆似たようなものだから。

私とヴェイグは幼馴染のクレアの奪還。
マオとユージーンはカレギアの危機を感じて旅をしている。
アニーは父親の仇であるユージーンの監視。

ペトナジャンカで出会ったティトレイは…よくわからない。
先日、王の盾に攫われたお姉さんを助けたのだからもう旅する目的はないはずなのに。
ペトナジャンカに帰ってもいいはずなのに。どうしてティトレイは未だ一緒にいるんだろう。
でも…いなくなっちゃうのは嫌だけど。






「おーい、できたぞー!」

香しく、おいしそうな匂いが漂うとともにティトレイの大きな声が響いた。
ティトレイの声とおいしそうな匂いに誘われて一番最初に反応したのはマオだった。
マオは嬉しそうにティトレイの元へ走っていくと、「待ってましたァ!」とパチパチ手を叩く。

続いてヴェイグとアニー、そしてユージーンがティトレイの元へと集まっていく。

ティトレイはまるで保母さんみたいだ。
そう思ったら自然と笑みがこぼれた。

「今日は何?この香りは…」

皆に続いて私もティトレイの傍に寄り、匂いを嗅ぐ。
ああ、この匂いはマーボーカレー…。

「へへっ、ティトレイ様特製のマーボーカレーだっ!」

「わー、ボク、マーボーカレーって大好きだヨー!!」

「あー!マオ!!そんなに多く盛ったら皆の分がなくなるだろうがっ!」

「大丈夫だって」

マオが自分の皿にマーボーカレーを多く盛り付けているところをティトレイは呆れながら笑っていた。
なんだかほのぼのな雰囲気にユージーンたちも微笑んでいた。
ヴェイグはアニーの隣で、アニーはヴェイグの隣で微笑んでいる。
何が言いたいのかというと、ここ最近二人は仲がいい。
幼馴染をアニーに取られてしまった様な気がして、ちょっぴり寂しい気分になった。
いつも一緒にいたヴェイグが離れっていってしまう。
実際そんなこと全然ないのに、そんな気がした。

「ほら、の分だぜ」

少しだけ寂しさに浸っていると、突然隣からマーボーカレーが多めに盛り付けられた皿を差し出された。
ティトレイが、私に笑いかけながら皿を差し出してくれている。

「ありがとう…でも何でこんなに…」

「何だか、元気が無いみたいだったからさ。オレの特製マーボーカレーで元気になってもらいたくてよ」

ニカっと笑うティトレイの笑顔がとても眩しい。
ティトレイの心遣いが、とても嬉しかった。

私も、ティトレイに微笑み返し、皿を受け取った。

マーボーカレーを一口、口に運んだ。
やっぱり、ティトレイは天才かもしれない。
すごくおいしい…。

「ティトレイのバーカ。こんなに美味しい物をこんなにいっぱい食べたら太っちゃうじゃない」

は細すぎなんだよ。もう少し太った方がいいんじゃねぇのか?」

「ティトレイ、サイテー」

私はティトレイから視線をはずし、苦笑いを浮かべる。
するとティトレイは慌てて「嘘、嘘!嘘だから!」と両手を合わせて私に謝りだす。
そんなティトレイが可笑しくて、私は噴出した。

「あはは、冗談だよ。ティトレイ、いろんな意味でサイコー」

しばらく笑っていると、ティトレイは真面目な顔で呟いた。

「やっと、笑ってくれたな」

「は」

「ずっと無表情だったり、辛そうな顔しかしなかったから」

ティトレイの心配そうな目。
ああ、ティトレイは本当に私を元気にしたくて…。

「悩み事とかあるんだろ?オレでよければ何でも聞いてやるからさ!」

マーボーカレーを頬張りながらティトレイは親指を突きたてる。

「な、悩み事なんて…」

図星を突かれて焦っていると、ティトレイは容赦無しに言ってくる。

「ヴェイグをアニーに取られた、とか」

「……!」

ティトレイには何もかも悟られてる。そんな気がした。
この人には隠せないのかもしれない。

「…そうだね…ずっと一緒だった幼馴染だから…なんだか寂しくて」

「…そうじゃねぇだろ。はヴェイグのこと、好きなんだろ?だから悔しいんじゃないのか?」

ティトレイの発言に、私は目を丸くした。

「え、違うよ。ヴェイグはそんなんじゃない…」

「正直になれよ」

「違うってば!!!」

頭にきて、つい大声を上げてしまう。
ティトレイや、ヴェイグたちが目を丸くして私を見る。

「…ご、ごめん」

「いや、オレこそ…」

暫く続く沈黙。
何か、何か言わなくちゃ。
ヴェイグのこと、勘違いされたままなのも嫌だし…

「…私、ヴェイグのこと好きだけど恋愛感情は本当に持ってないから。
ただ、今までずっと一緒だった幼馴染が取られちゃったら私、一人になっちゃう気がして…」

力なく呟く私を持て、ティトレイは黙り込んでしまった。
しかし、何か思いついたのかティトレイはばっと顔を上げて私を見つめた。

は一人じゃない。にはオレやみんながいるじゃねぇか。
ヴェイグとクレアさんだけじゃくてよ。それじゃダメなのか?みんなや…オレじゃ…」

「…ティトレイ…」

真剣に私のことを考えてくれてる、ティトレイ。

「そう、だよね。私にはみんなと、ティトレイがいるもんね。ありがとう、すごく元気でたよ」

「そっか、そりゃよかった」

お互い笑い合って、再びマーボーカレーを口に運ぶ。

「でさ」

「え?」

頬を掻きながらティトレイはマーボーカレーを見つめている。

さえよければオレ、ずっとの傍にいる。に寂しい思いは絶対させない」

驚きのあまり、私の手が止まる。
スプーンが傾き、掬ったマーボーカレーはボトボトと皿の上に落ちていく。

「いつもに笑顔でいて欲しいから…
が悲しい顔をしていたらオレはを笑わせる。自信ははあるぜ」

ぱっと私を見つめるティトレイ。
赤く染まってる頬と、真剣な瞳に、私の心臓の鼓動が妙に激しくなる。

告白されてる…。
ティトレイに…。

私は恥ずかしさのあまり思わず俯いてしまう。

「それ、本当?」

「い、今までオレが嘘ついたことあるかよ?」

「ない、けどさ…」

恥ずかしくて、まともにティトレイの顔が見れない。
あぁ、ヴェイグたちに聞こえてなきゃいいけれど。

「で、返事…は…?」

落ち着かない様子で、ティトレイがマーボーカレーをスプーンでかき混ぜる。

私は意を決してティトレイの顔を見上げて答えた。

「お、お願いしますっ」

今の私の心臓の鼓動はきっと最速だと思う。
体中の血液が全て頭に集まってくるカンジ。

もう、どうにでもなれ!

「マジっすか…!」

「マジっすよ!」

みるみるうちにティトレイの顔が笑顔になる。
そして突然立ち上がっり、マーボーカレーは皿ごと草の上に落ちた。

「いやったーーーーー!!」

ティトレイのはしゃぎ声に、ヴェイグたちの視線が一斉にティトレイに集まる。

「何?どうしたのティトレイ!?」

「食事中くらい静かにしろ…」

マオとヴェイグが何を言おうと、ティトレイは、はしゃいだままだ。

「ティトレイ、落ち着いてっ!!」

焦りつつも実自分もはしゃぎたい気分だった私であった。














今、わかったような気がする。
ティトレイは私たちが楽しく旅ができるようについてきてくれたんだ。


そう、彼に称号を与えるとしたら



スマイルメーカー





執筆:05年5月19日