優しい笑顔



「今日も何か悩み事?クレアさんのこと?」


今、私の隣にいる年中むすっとしているこの男に言ってやる。

彼の名前はヴェイグ。私の唯一の男友達だったりする。

半年前にこの北辺の村スールズに越してきたとき、ヴェイグと知り合った。
ひょんなことから、私はヴェイグと次第に仲良くなっていった、と思う。


私は男の子が苦手。だけどヴェイグだけは特別。
ヴェイグはぶっきらぼうで無口だけど優しいことを、私は知っている。








スールズのヴェイグとクレアさんの家の屋根の上。
私とヴェイグはいつものように屋根の上から村を眺めていた。
ヴェイグと、屋根に上ってお話をするのは毎日の日課。
今日も、いつもどおり屋根の上。

「違う。今日は別のことだ」

いつもはクレアさんのことで私に相談をしてくるヴェイグ。
私以外に唯一話せる彼女とのことで、よく悩んでいる。

ヴェイグはきっとクレアさんのことが好きなのだろう。
しかし、今日は違うらしく、ヴェイグは首を横に振った。

「じゃあ、何?」

私は首を傾げてヴェイグの応えを待つ。
ヴェイグは気恥ずかしそうに眉間に皺を寄せたり頬を掻いて私の方をちらちらと見る。

「…のことだ」

よくやく口を開いたと思えば、私のことで悩んでいるらしい。

「私のこと?」

無言で、こくりと頷くヴェイグ。

何を、私のことで悩んでいるのだろう?
別にヴェイグとは喧嘩もした覚えもないし、お金も貸した覚えがない。

「…よくわからないんだ」

さっきからため息ばかりなヴェイグ。
相当私のことで悩んでいるらしい。
本当に、一体何を悩んでいるのか。
私、ヴェイグに何か悪いことでもしたっけか?

気に障るようなこと、言ったっけか?

「私の何がわからないの?私、ヴェイグに変なことしたっけ?」


身に覚えがないけれど…でも、だからこそ不安になる。

ヴェイグはぶんぶんと首を横に振った。
私はほっと胸をなでおろし、「なぁんだ」と呟く。

「いつも、はオレの話を聞いてくれる。
何故、はこんなオレの話を聞いてくれるんだ?オレはの話はあまり聞いたことがない」

思わず、ぷっと噴出してしまった。

ヴェイグにとっては大きいだろうけれど、
私にとってはあまりにも小さな悩みだったから。

「わ、笑い事じゃない」

ヴェイグは頬を赤く染めて、私が笑うのを必死で止めようとしている。
私はヴェイグに「ゴメン、ゴメン」と謝って、息を整えた。

「ヴェイグはいつも困ってるみたいだから、せめて話を聞いたり
相談に乗って、ヴェイグが元気になったらいいなって思って」

私の答えを聞いたヴェイグは、意外だったのか、目を丸くした。

「そう…だったのか。はオレのために…」

申し訳なさそうに俯くヴェイグ。
私はおもいっきりヴェイグの背中を叩き、大声で笑った。

「気にしないでよ!私が好きでヴェイグを元気付けようとしてるだけなんだから!」

いつか、笑顔のヴェイグを見てみたいと思う。
ヴェイグは笑わない。いつも無表情だ。
あとは、困ったり、ムッとしていたり。

彼の過去に何があったのかは知らないけれど。

とにかく私はヴェイグの笑顔が見てみたい。
いつか、絶対ヴェイグを笑わせてみせる。

それが、私の願いであり、目標である。

「…

「ん?」

名前を呼ばれて、私は振り向く。
すると、ヴェイグは口の両端を上げて、優しげに微笑んでいた。

「ありがとう。も、何か悩みとかあれば言ってくれ。オレも相談にのるから」






ヴェイグが微笑んだ。






思わず、私は赤くなってしまう。


「どうした?」

「や。ヴェイグが微笑んでくれたなーって思って」

「…?!」

慌てて顔を隠すヴェイグ。
私はそんなヴェイグを見てくすくすと笑った。

「今日のヴェイグは新鮮だなぁ」

「………」

ヴェイグはゆっくりと手を下ろすと、じっと私を見つめる。
見つめられてる私は、なんとなく恥ずかしさに耐え切れずに「何?」と言った。

になら、いつでも微笑みかける。オレは…が好きだから。、ずっとオレの傍にいてくれないか…?」

今度はにっこりと優しく笑うヴェイグ。
そんな、笑顔と告白で攻められたら私、気絶しちゃいそうです。

「ヴェイグ…そんないきなり言われても…わ、私…」


胸の高鳴りが激しくなっていく。
ドキドキが止まらない。

落ち着け、私の心臓。

「いや、私だってヴェイグのこと好き、だけど、ね?で、でもヴェイグはクレアさんがいるじゃない?」

「クレアは…妹みたいな存在だ。は、特別だ」

可笑しそうに笑うヴェイグ。
本当に、今日のヴェイグはとても新鮮だ。

「そ、そっか。そうなんだ」

「やっぱりオレじゃ…嫌か?」

悲しげに呟くヴェイグ。
私は慌てて否定した。

「違うの!全然嫌じゃないの!!なんか、驚いちゃって。私もヴェイグが特別。だから、すごく嬉しいの」

「…

ヴェイグはゆっくりと私を抱き寄せる。
私はヴェイグの腕の中にすっぽりと収まってしまった。

「ずっと、好きだった。いつも真剣にオレの話を聞いてくれて。いつもオレの悩みを解決させてくれて」

ありがとう、と私の耳元で呟くヴェイグは本当に優しげだった。
いつもは冷たいようなヴェイグだけど、本当はこんなにも温かい



発売前に書いたらしいよ

執筆:04年10月31日
修正:09年10月20日