私には彼氏がいる。
その人と私はどうやら両思いらしいのだけど、「好き」と言われたことがない。
なんだか、私だけが彼のことを好きでいるみたいな感じだ。
両思いというより、これは片思いに近い気がする。
どうして彼は…雲雀恭弥は私に「付き合ってよ」なんて言ってきたんだ!?
そもそも付き合い始めてからというもの、相手にされたことがない。
デートをしたこともない、手を繋いだこともない、キスはおろか、最近では姿も見かけない。
なんだ、これ。なんだ、これ。
本当に何で告白されたんだろう。
というか、あれは告白だったのか?私はからかわれただけだったのか?
私って雲雀さんの彼女なの?日に日にその自信がなくなっていく。
「…大体、並盛中最強と謳われる雲雀さんの彼女なんて、私にはおこがましかったのさ」
フッと息を吐きながら自重すれば、私の愚痴を聞かされていた京子ちゃんと花はお互いの顔を見合う。
「でも、ちゃんはちゃんと雲雀さんに告白されてたよ。自信持って?」
「そうそう、あたしら偶然その現場を見てたからさ。
あたしたちが証人だよ。はれっきとした、雲雀サンの彼女」
二人は必死に私を宥めてくれる。
こういうとき、友達の存在ってありがたいと思う。
「うん、ありがとね、二人とも」
雲雀さんに告白される前は、特に彼のことを意識したことなんてなかった。
とにかく強い、誰も逆らえない。
じゃあ、関わらないようにしてりゃいい…その前に関わることがないと思ってたのに。
ある日、突然雲雀さんは屋上で昼寝してた私の隣に腰掛けてきて、こう言ったのだ。
『僕と付き合ってよ』
その時の私は頭が真っ白になって、何故か頷いてしまったのだ。
そして、初対面も同然な彼と付き合うことになった。
それからの私は、雲雀さんのことが気になって仕方なくて気がついたら恋に落ちてたんだ。単純なものである。
今思うと、もっと考えればよかった。そしたらこんなに悩まなくて済んだのになぁ。
告白から2週間。
恋人らしいことを何一つもせずに今に至っているわけだけど。
「もう、無理だなー…」
こんなにツラいなら、別れてしまおう。
これ以上好きになる前に。
取り返しがつかなくなるほど好きになる前に。
「話って何」
雲雀さんのクラスに行き、なんとか雲雀さんを呼び出すことに成功した。
すっごく勇気を消費した気がする。でも、思っていたよりも簡単に呼び出せたことに拍子抜けしてしまった。
あの日告白されたこの屋上で、ふたりきり。
なんとも言えないこの雰囲気。
ふと、できることならあの日からやり直したいと思った。
私が、もっと積極的に雲雀さんに会いに行けばよかったのかな。
そしたら、少しは恋人らしくできたのだろうか。
「私って、雲雀さんにとって何ですか?」
「君は…僕の彼女じゃないのかい?」
淡々と答えてくれる雲雀さんの顔は本当に無表情だ。
…うん、彼女と思ってくれてるということはわかった。
「はい。私もそうだと思っていましたが…最近はそう思えません」
「何が言いたいの?」
少しムッとしながら私を睨む。ちょっと怖い。
だけど、私だって引き下がってたまるか。
なんとしてでもこの状況を打破しなくては、毎日毎日苦しいのよ。
「あの時の告白の返事…軽率でした。私たち、折角恋人同士なのに、それらしいことを一切していませんよ?
よく考えると、私のどこが良くて付き合おうと思ってくれたのかもわかりません」
すーっと空気を吸って、拳を握る。
「だから、別れませんか?このまま付き合ってても何の意味もないと思うんです!」
あー。言っちゃった。
雲雀さんの反応が色々な意味で恐ろしくて、顔を上げることができない…!
でも、それ以上に…雲雀さんの彼女じゃなくなっちゃうってこと、寂しい。
これで、終わりなんだって思ったら、胸が苦しくなってきた。
おかしいな、苦しさから逃れるために別れを告げに来たのに…何で?
「は僕のことが嫌いかい?」
消えてしまいそうなくらい小さな声で、雲雀さんは呟いた。
その言葉に、私は唇を噛み締める。
「そんなわけ…ないです!最初は全然好きでもなんでもなかったのに、
どんどん貴方のことが大好きになっていって…苦しいんです」
「へぇ。そうなんだ」
あれ、怒ってないのかな。
そう思っていると、雲雀さんはいつの間にか私の後ろへ回り込んでいて。
私の身体は雲雀さんに後ろから抱きしめられていた。
「雲雀さん…!?何を…っ!」
「僕だって、のこと、大好きなんだ」
耳元で囁かれ、私はぎゅっと目を瞑る。
「こんな気持ちになるの、初めてだったからどうしたらいいかわからないし、
に嫌われてたらどうしようと思って…怖かったんだよ」
私を抱きしめる力が強くなる。
そっか、私と同じで雲雀さんも不安だったんだなぁ。
私も、雲雀さんに嫌われるのが怖くて、何もできずに、ただ待ってることしかできなかった…。
それじゃ、ダメなんだってこと、わかったよ。
「ごめんね、。別れるなんて言わないでよ。どうしても別れるなら…噛み殺すよ?」
「雲雀さーーーーんっ!!大好きですー!別れませんよー?別れませんともー!」
私は身体の向きを変えて、雲雀さんに抱きついた。
そうすると、雲雀さんは初めて優しく微笑んだ。
愛を語るにはあまりにも僕達は幼すぎた
(ところで、何で私なんかが良かったんですか?わくわく)
(小動物っぽかったから、かな)
(……は?)
ちょっと弱気な雲雀さーん。
執筆:10年10月25日