あれから一夜明けた。

正直学校行きたくない。だけど、行かなかったら今後何されるかわからないし。
私は憂鬱な気分で自分の家の玄関の扉を開いた。
そこには、あの杉原君が。




「おはよう、

いつもの笑顔で、杉原君が立っていた。
思わず安心してしまいそうになる。けど、杉原君は…。

ダメだ。こんなこと意識してたら身が持たないよ。
ここはいつもどおり普通に接しなきゃ。

「おはよう、杉原君」

私がそういうと、杉原君は険しい表情をした。
昨日のあの顔だ。

「『杉原君』じゃないだろ。名前で呼べよ」

杉原君はそう言って私の前に立ち、私の耳元で「犯すよ?」と呟いて私の制服の裾を掴んだ。

「た、多紀くん…!」

杉原君は少し眉を吊り上げた。
そして、私の制服の中に手を入れる。

「嘘!嘘だって!た、多紀!!」

「初めからそう言ってれば良かったのに」

多紀はいつもの笑顔に戻ると、私の制服の中から手を抜き、今度は私の手を握った。
多紀の手はとても冷たくて、それは何だか多紀そのものを表しているように思えた。











「かけてこなかったんだな」

「え?」

「メガネ」

「あ、うん」

メガネ、かけてなくて当然だ。
昨日美香に取られてないからっていうのもあるけど、多紀に何されるかわからなくて怖いから。

「こっちの方が絶対いいのに、どうして今までメガネだったの?」

多紀が鼻元まである私の前髪をかき分ける。
すると少しだけ、視界が広がった。

「コンタクト、怖くて…」

それ以外回答のしようが無い。

「ふーん」

多紀は興味なさそうに言って、「小心者」と呟いた。

「多紀くーん!」

私たちの後ろから女子の声が響いた。
あれは…学年で1番に可愛いって噂の田中さん。

「おはよう、田中さん」

多紀が、笑顔で田中さんに挨拶をした。
その笑顔は私に向けられる邪気のある笑顔と違って、優しい笑顔だった。
田中さんは多紀の笑顔をみて、少しだけ頬を赤く染めた。
田中さんも、多紀のこと好きなんだよね。

「あれ?その子は?」

「同じクラスのさん。ぼくたち、昨日から付き合い始めたんだ」

「え。さんって、あのメガネの子?」

「メガネとったら、すごく可愛いでしょ。ぼくの大切な彼女なんだ」

多紀がそう言って田中さんに見せつけるように私を抱きしめた。
すると田中さんはしばらく呆然としていて、涙を浮かべた。

「あたし、多紀くんのこと好きだったのに!」

田中さんはそう言って走って行ってしまった。
多紀はふぅ、とため息をついた。

「あいつ、毎日しつこいんだよね。あーいい気味」

多紀は田中さんの背中を見てあざ笑う。




酷い。




「多紀…」

私は、彼女という肩書きだけで多紀の道具に過ぎないのかもしれない。

「意見するの?いいよ、べつに。犯すから」

多紀は冷たい笑みを浮かべると、私の腕を乱暴に引っ張った。
そして、私の両手を片手で掴むと、顔を近づけてきた。

「ち、違う!そうじゃなくて」

「じゃあ何」

「…早く行かなきゃ遅刻する」

「そういうことは早くいいなよ」

多紀は私を引っ張りながら走り出した。
私は急に引っ張られたので転びそうになったけど、多紀が支えてくれたので転ぶことは無かった。
あれ、助けてくれた…?

わからない。

多紀って、優しいのか、鬼畜なのか。
どっちが、本当の多紀なんだろう?











「え!お前ら付き合ってるの!?」

多紀が、教室で多紀の仲のいい友達に私を紹介している。
その多紀の友達は私をじろじろと見て、顔を赤く染めた。

って、メガネはずすと超可愛いじゃん。ていうかよく身るとそのスタイルとかすっげーいいし」

「どこ見てるの?彼女に手出したらぼく、怒るよ?」

「悪ぃ悪ぃ。、杉原に飽きたら俺んとこ来いよ!俺が慰めてやるから!」

多紀の友達が、笑う。
私はそっと多紀に視線を向けると、多紀と私は目が合った。
多紀は優しく微笑んで「、こんなやつ放っておこう」と言って私の手を引いた。






私は多紀に廊下に連れて行かれた。

「浮気したら、ヤるから」

そう言って多紀は教室に戻っていった。








頭が混乱してくる。









私も教室に入ると、美香が嬉しそうな顔で出迎えてくれた。

「やったじゃん!!!杉原君と付き合ってるんだって?聞こえたよ!」

「美香…。う、うん。そうなの」

「で?やっぱから告白したの?それとも杉原君から?」

私は回答に困り、そっと多紀を見た。
すると多紀はいつもの笑顔で、けどどこか黒い笑顔で私を見ていた。

「え…えと、私からなの」

「ふーん…?でも、あんまり嬉しそうじゃないね」

「そ、そっかな?すごく嬉しいけどなー。あっははー」

一瞬心臓が跳ね上がった。

私、嬉しそうに見えなかったんだ。
でも、それは本当のこと。嬉しくない。

だけど、もしも多紀が実は腹黒いって他の子にバレたら私は多紀に犯されるだろう。
それだけは嫌だ…演技でも、嬉しそうにしなきゃ。

「ねぇ、聞いた?田中さん、杉原君にフラれたらしいよー」

「あ、知ってる。なんか、さっき言ってたけどさんと付き合ってるからってね」

女子のひそひそ話が聞こえてきた。
やっぱり、噂になってる。

「でも、さんもメガネとったらすごい可愛いしね。杉原君が惚れちゃうのもわかるかも」

「何でメガネ外したんだろうね。あーあ。アタシも杉原君狙ってたのにな」

親しくない女子が私の話をしている。
なんだか、とても恥ずかしくて頬に熱が篭った。

「おっ、てば人気者だね!昨日私がメガネとってあげたから良かったのよ」

美香が嬉しそうに手を叩いた。
実際、それが災いしたんだけどね。








昼休み、私は図書室に行くところだった。

さん」

私は後ろから誰かに呼び止められて、後ろを振り向いた。
そこには、朝多紀にフラれた田中さんと数人の女子が立っていた。

「多紀くんと別れて?」

やっぱり、用件はこれだった。

私だって、できることなら別れてやりたい。
別れて、また平和な毎日を送りたい。
でも、今それは不可能に近かった。

「ご…ごめんなさい、それは…」

「そう言うと思った。でもね、あたしはあなたよりずっと多紀君のことが好きなの」

田中さんが声を荒げて主張する。
そんなこと、私の知ったことじゃない。
私だって別れたいよ。でもそんなことしたら私は多紀に犯される。

「だから、別れなさいよ!」

「む、無理です!」

「言うこと聞きなさいよ!!」

パァン!!

私は田中さんに右頬を叩かれた。
右頬が熱い。

「マジで死ねよブス!」

田中さんたちは私にそう言い残して去っていってしまった。
何で、私がこんな目にあわなきゃならないんだろう。




執筆:03年12月06日