放課後、私の部屋で多紀が私の顔をじっと見る。
ところで、何で多紀が私の家知ってるのかと聞いたところ、昨日私の後をつけて調べたのだそうだ。
これってストーカー行為で犯罪じゃないの?

けど、口に出したら絶対ただじゃすまないと思ったから言わなかった。

そして私は学校で田中さんに叩かれた頬に両手を添えていた。
そう、学校が終わった今でもまだ痛みは引かずにいた。

「容赦ないね、田中のやつ」

「…多紀」

後ろから私を抱きすくめる多紀。
クスクスと笑っている。

「あーあ、腫れちゃってるね」

「……」

誰のせいだと思ってるの

「拗ねてる?で、それはぼくのせい?」

「べつに」

「素っ気ないね。今すぐここでヤってもいいんだけどな」

「拗ねてません。多紀のせいでもないです」

「そ」

多紀はつまらなそうに一言。
もしかして多紀はこうなることわかっててわざと田中さんに言ったんじゃないのだろうか?
それで、私が困るところを見て楽しんでるとか?
だとしたら…かなり酷い。
私が、多紀の本性を見てしまったからいけないの?
でもそれは不可抗力でしょ。私に落ち度は何もないと思う。

それに、だ

「多紀は、何で私と付き合おうと思ったの?」

私がポツリと呟くと、多紀は私を睨んだ。

「…決まってるじゃん。そんなの遊びだよ。唯の暇つぶしに」


やっぱり、そんな予感はしていたけど実際言われると悲しい。
多紀は私に恋愛感情を持っているとかそういうのじゃなくてただ、「私」という玩具で遊んでるに過ぎないんだ。

「じゃあ、付き合うなら誰でもよかったんだね」

私がそう言うと、多紀はうーん、と唸る。

「…まぁ、そうだけどね。にはぼくの本性知られちゃったから
言いふらさないか見張ってるっていうのもあるけど。一番の理由は可愛かったから、かな」

多紀はいつものあの優しい顔をした。
天使のような、私の好きな多紀の笑顔でそんなこと言わないでよ。

「ね、今ドキってしたでしょ?」

「え?」

私は頬の痛みさえ忘れて、多紀を見つめた。

「だからさ、ぼくが今白い方の顔をして」

多紀も、私を見つめる。

「白…?」

「演じてるときのが『白』の性格。この素の性格が『黒』の性格」

わかりやすいでしょ?と多紀が笑う。

「あ、うん。ちょっと…。」

「ふーん」

私が曖昧に答えると、多紀はつまらなそうに腕を組んだ。



















「やっぱり、も『黒』の性格は好きになってはくれないんだね、当然か」

多紀が悲しげに呟いた。

「それは…」

「わかってる。自分でもわかってるよ。この『黒』の性格はぼくだって嫌いだ。
だけど、それが『ぼく』の性格だから仕方が無いんだ」

「多紀…?」

「…ごめん、何でもない」

多紀は私の頭にぽん、と手を置くと、私のベッドで横になってしまった。

「あ…」

私は多紀に抗議しようとしたが、途中で止めた。
抗議したところで多紀が聞くはず無い。
『白』でない限りは。



しばらくして、小さな寝息が聞こえてきた。



それにしても、多紀も『黒』の性格を嫌っているってどういうことなんだろう?
嫌いなら、直せばいいのに。頑張ればいいのに。
それに、「も」ってことは、多紀は他にも誰にもバレたってことなのかな?




……。







それにしても暇だ。




私も少し寝よう。





私は静かに瞼を閉じた。
やがて意識が遠のいていく。






















さん。俺、さんのことずっと好きだったんだ。付き合ってくれない、かな?』

この間、私は習い事の帰りに見知らぬ男の子に駅のホームで告白された。
そのころの私はあのいつもの優しい多紀しか見えてなくて。

「ごめんなさい」

そう一言だけ言ってその子を振った。
その男の子の名前は何だっけ?













「ん…」

「あ。起きた」

「多紀…」

目を開けたらすぐ目の前には多紀がいた。

「ごっ、…ごめん、私、寝ちゃって!!」

「いいよべつに。の可愛い寝顔見れたし」

多紀が笑顔でそう言った。

「!?」

あまりにも恥ずかしくて顔に熱が篭った。


「あ、頬の痛み引いた?」

多紀に言われて私ははっとする。

あれ…?痛みが、ない。

「痛くない」

「よかったじゃん」

多紀の後ろから「ガサ」っと言う音がして、私は多紀の後ろを覗き込んだ。

「これ、氷水…」

「何で見んだよ」

「ご、ごめん…っ」

多紀は私が寝てる間に頬に当てててくれてたんだ。
さっきのは寝たフリで、私が寝るのを待ってたんだ。
『黒』の性格でも、優しいところはあるんじゃん。

「ありがとう、多紀」

「べつに」

多紀はソッポ向いて、おもむろに私の漫画を引っ張り出した。

「…少女漫画ばっか」

「お、女の子だもん」

「そうだね」

多紀は漫画を元の場所に戻すと、立ち上がった。

「帰る」

「え」

「本当はヤって行こうと思ってたけど、の幸せそうな寝顔見たらヤる気なくなったし」

不敵に笑う多紀。
あ、危なかった?私、危なかった?
う、うん。寝てよかった。

「多紀…」

「嘘。ヤる気なんて初めから無かったよ。それじゃあね」

多紀は私の額に唇を落とした。
私の顔はみるみるうちに赤くなる。

「あぅ…」

そして多紀は私の部屋から出て行った。
階段を下りる音が聞こえて、母さんと多紀の会話が聞こえた。

「あら、杉原くん、もう帰るの?」

「はい、お邪魔しました」

「これからもあの子をよろしくね」

「はい」

玄関の扉が閉まる音が聞こえた。





私は無意識に玄関のある方の窓の前に立って勢いよく窓を開けていた。

多紀が、振り向く。

「じゃあね、。また明日」

手を振ってくれる多紀。
私はドキドキしながら手を振った。

「じゃ、じゃあね、多紀…!」



ドキドキが止まんない。


何で止まらないんだろう。

嫌いで嫌いで仕方が無いはずなのに…
私、黒い多紀のことも、好きなのかなぁ。






執筆:03年12月14日