私の人生は平凡で、ほんの少し幸せと不幸の波があって、とにかく人並みに人生が終わるんだと思う。
フツーの友達がいて、フツーに学生生活を送って、大人になる。つまらない日常を繰り返していくのだ。
国語の授業の中、窓から見える青い空と白い雲をぼんやりと見つめながらそんなことを考えていた。
いや、小学生の頃はわんぱくで毎日遊ぶことばっかり考えてたし、とても楽しい日々でしたさ。
でも、中学・高校になるにつれて思考が大人になったのか、毎日が同じようなことの繰り返しだとか、
ちょっと難しいことを考えてみたり、恋愛とは何ぞやと考えてみたりして。
そして、私が成長して失くしたものは恐らく「好奇心」とか「やる気」なんだろうなぁとしみじみ思う。
何に対してもちょっと興味を持ってもすぐに飽きる。
勉強しようと思ってやり始めてもすぐに飽きて寝る。
ゲームをしてても躓けばほっぽりだす。
イケメンを発見しても恋人がいればすぐ諦め…いや、これは違うかな。
昔はもっと色んなことに夢中になれたのにな。
どうしてこんなんになっちゃったんだろう。
ふと、視線を前の空いている席に移す。
席の主は今日も不在でいつも空席のまま。
私はまだ前の席の彼を見たことがなかった。
詳しいことはわからないけれど、とりあえずずっと学校に来ていない。
1年生の頃はちょくちょくと学校に来ていたと聞いたけれど、
2年生になってからはぱったりと来なくなったとか。
2年生になって、もう2ヶ月。来月には期末テストがあって、それが終われば夏休みだ。
イジメにあったのか、学校に来る意味を見出せなくなったのか。
まぁ、私も学校に来る意味なんてわからないんだけどね。
教養を身につけ、協調性を養うのなんて中学まででも十分だと思うのだから。
未だ見ぬ彼に少し同情して、ノートの上に乗っかっていたシャープペンを指でくるりと回転させた。
あー、早く授業終わらないかなと思いながら時計を見れば、あと1分。
ちょっと得した気分になりながら、教科書とノートを閉じてシャープペンを筆箱の中に入れれば、
丁度待ちわびたチャイムが鳴る。
先生の「じゃあ、今日はここまでね」という言葉を合図に、
机の脇に提げていたお弁当を持って教室を飛び出した。
「いやーん、超天気いいー。」
のびをしながら屋上にやってきた私は上機嫌だった。
本来立ち入り禁止であるこの屋上でのランチは久しぶりだった。
最近は教師の目が厳しく、なかなか来れなかったけれど今日は運よく来れた。
誰もいない、この解放的な世界と、結構素敵な眺め。この場所は私だけの、いわば貸切の場。
日陰に腰を下ろして早速お弁当を広げる。
ああ、至福のとき。
「あ。おいしそーなニオイがしますー。」
突然上から人の声。
私は驚愕して、ばっと上を見上げた。
でっかい…カエル…?
いや、カエルの被り物だ。
カエルの被り物をした男子が貯水槽の上から顔を出してる。
「人が…いたなんて。」
まさかの事態に私は眉間に皺を寄せ、身を引く。
すると、カエルくんは貯水槽の上から身軽に飛び降りた。
え、嘘!この高さから!?
「ちょっ、危な…!」
次の瞬間の無残であろう彼の姿が恐ろしく、思わず目を瞑ってしまう。
「ミーなら平気ですよー。」
すたっと軽快な音がした後、私はゆっくりと目を開ける。
目の前には無表情なカエル君。
ど、どんだけ身軽なの、この人!こんな重そうなもの被ってるのに!
「ビックリさせないでよ!いきなり高いところから飛び降りてくるし、カエルだし。意味わかんない!」
冷静でいられなくなった私は、目の前のカエルくんに思ったことをぶちまけていた。
よくよく見れば、着ているものは制服ではなく、コートみたいなのだし。
もしかして、不審者なのだろうか。
私は危ない人に絡まれてしまったのだろうかと、ふと思った。
「飛び降りたのはあなたとお話しようと思ったからでー、
このカエルは、ミーの先輩に無理矢理被らされたんですよー。」
表情一つ変えずに淡々と喋るこのカエルくん。
うん、とりあえずこの人は色々危なそうだけど、危害はなさそうだ。
「私は別に君とお話することなんてないんだけど。」
個人的には、この素性のわからないカエルくんとのほほんとお話するよりも、
早くこの場から立ち去って頂きささやかな幸せタイムを感じたいと思う。
「そのお弁当、少しミーにわけてくださーい。」
ちょこんと私の隣に座り込み、私のお弁当を指差すカエルくん。
…えーと。今こいつ何て言いやがりました?
私のテリトリーに進入してきた挙句に弁当よこせだと?
ふざけんなこのやろう、と思いながら私は笑顔を作る。
「何で私が見ず知らずの君に。」
「ココロの狭い人ですねー。そんなんじゃモテませんよー?」
グサリ。
私の何かに何かが刺さった気がした。ああ、図星だよ。
「べ、べつにモテなくてもいいもん。オニギリあげるから…お話はしなくていいでしょ?」
一刻も早くここから立ち去ってほしくて、私はしぶしぶとオニギリをひとつカエルくんに手渡した。
「そんなにミーにいなくなってほしいんですかー?」
「うん。だってここ唯一私のお気に入りの場所なんだもん。一人でのんびりしたい。」
私のオニギリを頬張りながら、私のことをじっと見つめてくるカエルくん。
カエルくんの視線がなんだかむず痒くて、私は唇を噛んだ。
あまり大きいオニギリではなかったから、カエルくんはすぐに平らげてしまったらしい。
くしゃっとオニギリを包んでいたラップの音が隣で聞こえた。
「…オニギリ、おいしかったですー。」
そう言ってカエルくんは私の頬に唇を当てる。
ちゅっ、というリップ音が私の思考を鈍らせる。
男性経験の乏しい私は、彼のこの行動にはただただ驚くことしかできなかった。
「は…あ…っ!?」
「そんなに喜んでもらえるとは思いませんでしたー。口の方が良かったですかー?」
グッと近づいてくるカエルくんの整った顔。
私は「ぎゃああ」と悲鳴を上げてカエルくんの胸を全力押した。
「ばっ、バッカじゃないの!?何で初対面の人に………~~っ!」
先ほどの頬へのキスの感覚が蘇ってきて恥ずかしくなってしまう。
それと同時に、頬に熱が篭るのを感じながら自己嫌悪に陥った。
「初対面…まぁ、間違っちゃいませんが、ミーはあなたのこと知ってますよー?さん。」
は確かに私の下の名前だ。
私はこのカエルくんとついさっき出会ったばかりのはず。そして私は自分の名前を名乗った覚えはない。
「な、何で…私の名前。」
「それはー……そのうちわかると思いまーす。」
カエルくんはゆっくりと立ち上がり、後ろ手を組んで歩き出した。
しばらく彼から目を離せずにいた。
屋上の扉の前で一旦立ち止まり、振り返った。
「ちなみにミーはフランっていいます。また後で会いましょー。」
ひらひらと手を振りながら屋上から出て行ったカエル君改め、フラン。
不審者が学校内に入っていってしまったことを教師たちに伝えるべきだろうか。
いや、そんなことよりも…また後で、だって?
私はフランの唇が当てられた頬に手を当てた。
なんだか、胸が締め付けられるような感覚に陥った。
平凡な日々の終わりに
(私の平凡な生活が崩れていくような気がした)
執筆:10年8月7日