教室に戻ったら、クラスメイトたちがざわついていた。
その中心に先ほどのカエルの被り物を被った一際目立つ人物を見つけたのだから
とにかく私は平常心でいられなかった。
私の席の前で頬杖をついてぼんやりとしているフラン。
へぇ、そうだったんだ。今まで空いていた私の前の席はフランの席だったんだ。
だから「また後で」だったんだね。
フランは私がクラスメイトで、しかも席が後ろだってことを知っていたんだ。
しかし、おかしなコートから制服にちゃんと着替えたのに何故頭のカエルは取らないのだろう。

ゴクっと生唾を飲み、私は恐る恐る自分の席へと戻る。
すると私が席に戻ってきたことに気づいたフランは椅子の向きを変えて座り直した。
私と対面する形で。
おかげで私とフランはクラスメイトたちの視線を独占している。

さん、時間ギリギリですねー。」

「ちょっと…話しかけないでよ。私まで注目されちゃってるじゃん。」

「周りなんて関係ないですよー。」

私とフランの関係を怪しむ声がヒソヒソと聞こえてくる。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
私はただいつものように屋上でのんびりランチをしに行っただけだったのに。
不登校でカエルを頭に被った変わり者フランと出会ってしまったばかりに…。

「どうして頭のカエル取らないの?そんなの被ってるから異様な目で見られてるって気づいてる?」

「ああ、無線が内臓されてるんですよー。仕事に差し支えるので取っちゃダメらしいですー。」

仕事ってお前なにやってんだよとツッコミを入れたかったが、あえて自重した。
これ以上フランに関わればロクでもないことになりそうだ。

「………。」

私は無視を決め込み、次の授業で使う数学の教科書を取り出した。

「それにしても久しぶりに学校に来たから授業についていけるか不安ですー。
わからないところがあったら聞くんで教えてくださいねー。」

「…………。」

さーん。おーい?おーい?無視ですかー?」

無視するという行為に良心が痛む。そして、周りの視線も痛い。
お願いだからもう話しかけないでよと心中で叫んだ。
それが通じたのか、授業開始のチャイムと、数学の教師の入室。
クラスメイトたちは慌てて席に着く。
数学の教師が教壇に立ち、こちらを見る。正確にはフランを見たのだ。
カエルの帽子のことを注意されるのだろうと誰しもが思っただろう。

「……。日直、号令。」

あろうことか教師はフランから視線を外したのだった。
一瞬、教室内がざわめくが、日直の子の号令でまた静まり返った。
どうして、何も言われないんだろう。

さん、教科書とノートと筆記用具貸してくださーい。」

不思議に思っていると、体を捻って後ろの席の私に手を差し出すフラン。
無視も効かない、授業の妨害はする…コノヤロウ。

「先生!フランくんの頭が邪魔で黒板が見えませーん!」

右手を高々と上げて主張する。
すると数学の教師は苦笑いを浮かべた。

「それじゃあ…青木とフランの席をチェンジしなさい。」

「え…は、はい…。」

私の隣の席の青木さんとフランの席が交換になる。
青木さんとフランが席を立つと、数学の教師は首を横に振った。

「多分他の授業でも見えないだろうから、その席で固定だ。
担任の先生にも私から言っておく。机と椅子ごと移動しなさい。」

授業中だというのに、ガタガタと机と椅子を運ぶフランと青木さん。
それはほんの15秒程で済んだ。
私の隣の席にやってきたフランは自分の机と私の机をピッタリとくっつける。

「教科書、一緒に見せてくださいねー。」

どうしてこうなった。
私は口が開いたまま呆然とフランを凝視した。







ようやく授業もHRも終わって放課後になった。
さっさと帰る支度をして教室を飛び出す。
なんかもう、おかしいよ。教師たちはあのカエルの帽子について何も触れないし。
フランのやつ、何か学校の弱みでも握ってるんじゃないだろうかと思ってしまう。
それに、他の生徒には全く絡んでない様子で、私にばかり絡む。
もしかして、オニギリで餌付けしたから懐かれた、のだろうか…?

「あ、さーん。遅かったですねー。」

校門で声をかけられた。
絶対にいないと思ってた。いるわけがないって思ってた。
だって、私の方が先に教室を出たのに。ここまで走ってきたのに。

「フラン…どうやって…。」

さんと一緒に帰りたかったんですよー。
それなのにさんてばすぐにいなくなっちゃうんですもんー。」

まるで恋人が待ち合わせしてるかのように、フランは私のことを待っていたのだろうか。
冗談じゃない。何で私ばっかりこんな変な人に絡まれるんだ。

「私…もう…」

嫌だ。これ以上関わらないでほしい。
そう言いかけたときだった。

「ミーはさんと友達になりたいですー。ダメですか?」

フランの言葉に、私はハッとした。
もしかしてフランは友達がいなくて、友達を作りたいだけなんじゃないのだろうか。
でも、友達になれる人は私だけじゃない。
そりゃ、私がいつも一人でいるから同類とか思われたからかもしれないけど。
それでも、だ。

「どうして私なの?他の人じゃダメなの?」

私がそう問いかけると、フランはポケットに手を入れて目を伏せた。

「ミーもよくわかりませんがー、さんの存在はミーにとって新鮮なのかもしれないですー。」

それは…褒められているのだろうか。貶されているのだろうか。
そこらへんがよくわからなかったが、フランにとって私は特別ってことなのだろうか。

「何故か…さんが一緒なら学校も悪くないと思ったんですー。
今日、ミーは学校に寄るだけのつもりで授業なんか受ける気ありませんでしたからー。」

「あのさ…それって自惚れてもいいのかな?」

私が昼休みに屋上にいなかったらフランは今ここにはいなかった。
屋上にいたのが他の人じゃなくて、私だったからって、自惚れても…いいのかな。

「いいんじゃないですかー?」

フランが不敵に笑う。
その笑みが、私の心臓の鼓動を加速させた。

「…っ。友達になるの…だ、ダメじゃないから、よろしく。」

私が手を差し伸ばせば、フランは目を瞬かせて私を凝視した。

「……ありがとう。」

フランはいつものとぼけたような口調ではなく、照れくさそうに、そう言った。
ぎゅっと握られたフランの手の温かさが心地よかった。



握った手に温もりを感じて



(変な人なのに友達になったのは、きっと私がフランのことが気になってしまったから…。)


執筆:10年8月8日
修正:11年5月21日