「教科も実技の成績も学年トップ、この平滝夜叉丸こそが忍術学園のアイドルだ」

「何を言うか! この火器を扱えば忍術学園ナンバーワン! 四年ろ組田村三木ヱ門こそが忍術学園のアイドルだ!!」

 ユリコの散歩中、滝夜叉丸がいたからいつものように口論になった。こいつとはウマが合わない。だいたい、誰がどう見ても忍術学園のアイドルはこの私だというのに!

「お前がアイドルだとぉ? この美しい私より劣っているくせに」

「私を馬鹿にするとこの石火矢のユリコが黙っちゃいない!」

 私はユリコの銃口を憎き滝夜叉丸に向けた。しかし奴は怯むどころか余裕の笑みを浮かべている。

「ふふん、くのたまのの方がお前なんかより火器の扱いに長けている!」

「なんだとーっ!?」

 ――くのたま四年の。名前くらいは聞いたことがあった。くのたまでありながら火縄銃が得意という珍しさから忍たまたちの話題に時々出てくるのだが、私ほどの名手ではないと思い、気にしたことはなかった。
 だが、滝夜叉丸にそんなことを言われてはそいつの腕がどれ程なのか気になってしまう。
 なので、滝夜叉丸とやり合った後、私はこっそりとがよく火縄銃の練習をしているという裏山に行ってみた。

「……た、確かに腕はいいみたいだ」

 が火縄銃を撃つ瞬間の表情に、胸が高鳴った。こんな感情、私は知らない。しかし、あの構えと撃ち方に見覚えがある。
 の火縄銃の弾が的に当たった瞬間、私は思い出した。そうだ! あいつの構え方と撃ち方は私の尊敬する照星さんそっくりなのだ! そりゃあ、がカッコ良く見えるわけだよなぁ。
 の練習をこっそりと覗きながら、私はぼんやりと思った。と友達になりたい。と火器について色々語り合い、一緒に鍛錬できたらどんなに楽しいだろう。でも、自分からくのたまに話しかけるなんて……私のプライドが許さない。ましてや私はアイドルなのだから、向こうが私の存在に気付いて話しかけるべきだ。



※ ※ ※ ※ ※



「くのたまにモテるタカ丸さん、くのたまに話し掛けられるようになるにはどうしたらいいですか」

「えっ、三木ヱ門くんいきなりどうしたの!?」

 しかしろくにくのたまと話もしたことのない私は、どうしたらに話しかけてもらえるか、その術を知らなかった。そんなわけで元髪結いで(悔しいけれど)くのたまたちに人気のあるタカ丸さんに相談することにした。

「……実は、火縄銃が得意なくのたま四年のと火器について熱く語ってみたいのですが、きっかけがなくて」

 私の言葉に、タカ丸さんは優しく微笑んだ。

ちゃんかぁ、たまに髪結いしてあげるんだけどいい子だよねぇ。三木ヱ門くんはもしかして、ちゃんのことが好きなのー?」

 好き、と聞いて私の心臓が飛び跳ねる。頬に熱がこもるのを感じながら必死に否定した。

「た、タカ丸さん!? 何でそうなるんですか!! 私はただ、のことが気になるだけで好きというわけではないですよ!」

「あはは、そう言う割には顔が赤いよー」

「か、からかわないでください!」

 はぁ、何でこんなことに…。タカ丸さんは楽しそうににこにこしているし……恥ずかしい。

「そうだなぁ、まずはちゃんに三木ヱ門くんのことを知ってもらうことから始めないとだよねぇ」

「タカ丸さん、忍術学園でこの私田村三木ヱ門の名を知らない者はいないでしょう」

「三木ヱ門くん面倒くさい」

「す、すみません」

 初めてタカ丸さんの笑顔が恐ろしく感じた。背後に真っ黒い何かが見えた気がしたので私は即座に謝った。

「まずは、少しずつ近づいてみたらどうかな?」

「……と言いますと?」

 私が首を傾げると、タカ丸さんは「僕に任せて」と親指を突きたてた。



※ ※ ※ ※ ※



 その日の夕食で作戦を実行することになった。タカ丸さんと食堂に行き、の近くに二人で腰掛ける。

「いやー、三木ヱ門くんの石火矢のユリコちゃん、絶好調だったねぇ」

「そんなことは、ありますね!」

 田村三木ヱ門は火器の扱いが得意なんだぞアピールである。タカ丸さんとアイコンタクトをとりながら必死にトークを続ける。

「僕にも教えてほしいなー」

「いいですよ!」

 ちらりとを覗き見るも、は何の反応も示していなかった! ただ黙々と煮魚を頬張っている。
 ああ、そんな姿も可愛いな。……じゃなくて。何故だ、お前の火器に対する愛情はそんなものだったのか!?
 私が落ち込んでいる様子を見て、タカ丸さんが眉を下げながら元気付けてくれた。
 次の作戦は、タカ丸さんがの友人の髪結いをしている時のトークで私のことを話題にしてくれたので、そのの友人がに私の話をすることを期待してみるというものだった。
 案の定、の友人は私のことをとの雑談で話題にしてくれた。グッジョブだ、名もなきくのたま。

「タカ丸さんに髪を結ってもらった時に話してたんだけどさ、四年ろ組の田村って火器の扱い方上手いらしいよ?と話が合うんじゃない?」

 しかもいい感じの言い回しじゃないか! さぁ、、私に話しかけに来てもいいんだぞ!

「興味ない」

 興 味 な い !
 くっ、……お前どれだけドライな性格なんだ! そこがまた可愛いんだけどな!
 しかし今の一言で私のガラスのように繊細なハートは粉々に打ち砕かれた。

「ここまでしたのに興味すら持たれないんだから、あとは三木ヱ門くんから話し掛けるしかないよ……」

 タカ丸さんが心配そうに私の肩に手を置いた。そうだよなぁ、私はに興味を持たれていないのだからどう頑張っても彼女から話し掛けられるはずがないんだ。もう、私から話し掛けるしかない。
 だけど……話しかけたところで話が弾むかもわからないのに、そんなことできるわけ、ないじゃないか。

「何だか、私から話しかけても仲良くなれる自信がないな……」

「三木ヱ門くん……」

 ハハハと自嘲すると、タカ丸さんまで落ち込んでしまった。私って、ダメだな。折角協力してくれていたタカ丸さんまで落ち込ませてしまったのだから。

「話は聞いたぞ三木ヱ門!」

 二人で途方に暮れていると、屋根の上から聞き覚えのある声が響いた。

「た、滝夜叉丸!!」

 私のライバル、平滝夜叉丸だ。こんな奴に話を聞かれていただなんて……最悪すぎる。

が好きなのだろう? 興味なんて、これからいくらでも持ってもらえばいい。私の知っている田村三木ヱ門はそんなことで諦めるような男ではないはずだ!」

「滝夜叉丸……!」

 まさか、滝夜叉丸の奴に激励されるなんて思いもしなかった。バカにされると思ったのに、なんだよいい奴じゃないか。

「うん、滝夜叉丸くんの言うとおりだよ。三木ヱ門くんには沢山いいところがあるんだもん。ちゃんはきっと三木ヱ門くんのことを好きになってくれるよ」

「ありがとう、二人とも……。恋仲になれなくても、せめて友達にはなってみせる!」

「頑張れよ、三木ヱ門」

「僕たち、応援してるから!」

 二人の声援を受けて、私はもう一度頑張ろうと思った。
 友達になれないなら、知り合いくらいにはなりたい。そこから頑張っていけばいいんだ。私のことを知ってもらいたい。私ももっとのことが知りたい。
 だけど私はなかなか成果を上げることができなかった。話しかけようとしてもなかなか勇気が出ず、タカ丸さんに心配をかけ、滝夜叉丸に呆れられる。そして最近は喜八郎にも「頑張りなよ」と言われるようになった。
 皆に応援してもらっているのに、どうして自分はこんなにヘタレなのだろうと苦悩する日々が続いた。



※ ※ ※ ※ ※



 ある日、がタカ丸さんの所属する火薬委員会の手伝いに来たという話を聞いた。
 タカ丸さんが羨ましかった。どうせだったら会計委員会の手伝いに来てくれたらいいのにって言ったら、タカ丸さんは「だよねぇ」って笑った。
 でも彼女は火縄銃が好きだから、火薬の勉強も兼ねているのだそうだ。私も火薬委員になりたかったけれど、顧問である土井先生に思いっきり拒否されたしなぁ。
 数日後、授業が終わってユリコの散歩に行こうとしていると、タカ丸さんに呼び止められた。

「あのね、三木ヱ門くん。今日ちゃんが焔硝蔵の整理の手伝いに来てくれるんだけど、僕以外の委員はみんな遅刻しちゃうらしいんだよねー」

「……ということは」

 タカ丸さんがにこりと笑う。

「チャンスだよね」

 気付いたら私は駆け出していた。タカ丸さんが背後で「頑張れ三木ヱ門くーん」と大きな声で言ってくれたのを背中で受け止める。
 ――今日こそ、私はに話しかけるんだ!
 しかし、現実はそう簡単なものではなかった。私の妙なプライドが邪魔をし、に向けてサチコ三世をぶっぱなしてしまった。
 もうやだ私は喜八郎の掘った穴に入りたい。もしくは虎若に臼砲のキューちゃんで私をぶっぱなして欲しい。どこまでも飛んでいきたい。
 だけど、はこんな私と「友達になりたい」と言ってくれたのだ。私は泣きそうになった。私が言いたかったことを、彼女は言ってくれたのだ。いてもたってもいられなくて、私は火薬委員の仕事を手伝いに来た彼女の手を引いて連れ出した。
 それからとは親友と呼べるくらいの仲になれた。話が弾まないかも知れないなんて思っていたのが本当にバカらしくなる。ドライな性格だと思っていたけれど、明るくて優しい性格だ。たまに毒を吐くことがあるけれどそれすら愛おしい。
 一緒にユリコの散歩をしても嫌がらず、寧ろ楽しんでくれる。火器の話をしている時のの顔は本当に幸せそうで、私はいつも見惚れてしまうんだ。
 あとはいつ告白するかということだった。タカ丸さんに相談してみると、「三木ヱ門くんなら大丈夫だよ」と背中を押してくれた。
 そんな矢先、私の尊敬する照星さんが忍術学園に来ると一年は組の虎若から聞いた。是非にも会ってもらいたいと思った。の火縄銃の扱い方が、照星さんとよく似ているから、照星さんにも見てもらいたいと思ったのだ。
 しかし、二人を引き会わせてみたら意外な事実が発覚した。
 ――は、照星さんの娘だったということ。(正確には姪らしい)
 が火縄銃を得意とする理由、そして照星さんとよく似た火縄銃の扱いをするのかが理解できた。そりゃそうだよな。火縄銃の扱い方で気付くべきだったのかもしれない。
 照星さんの娘に手を出すなんて、そんな大それたことは私にできっこない。だから告白は諦めようと思った。ずっと友達のままでもいい、そう思い込むようにした。
 だけど、タカ丸さんの一言で私の決意は崩れた。照星さんの娘であると付き合って、結婚もすれば私は大好きな二人とずっと一緒にいられる。これ以上の幸せがあるか!? いや、ない!!
 そして私の中で何かが音を立ててブチ切れた。勢いで私はにプロポーズをしていた。我ながら最低だと思ったけど、言わずにはいられなかった。
 当然、断られたけど私は諦めない。絶対にと結婚する! そして、愛すると一緒に幸せになる。
 ――絶対に振り向かせて見せるからな、




執筆:13年5月6日