浦風くんを捜して忍たま長屋で迷子になっていたところ、綾部先輩に出会った。綾部先輩は「藤内の部屋に行きたいんでしょ?」と全てを見透かしたように私を浦風くんの部屋に案内してくださった。
もう日も暮れてしまったから本当はくのたま長屋に戻らなきゃいけないんだけど、絶対に今日中に伝えなければいけないと思った。
「藤内ならまだ帰ってきてないんだけど……」
しかし、部屋には浦風くんと同室の三反田くんしかいなくて。
戻ってないって、じゃあ浦風くんは一体どこにいるんだ。
「え……私、浦風くんと別れてからだいぶ時間が経つのに、まだ戻ってないの?」
「うん、ぼくはてっきりさんと一緒にいるんだと思ってたから――」
最近二人とも仲がいいから、と三反田くんは笑った。
「藤内、遅くまで予習してる時があるから、もしかしたらまた予習してるのかも。一緒に探しに行こうか?」
どんだけ予習の鬼なんだ、浦風くんは。私だったらこの時間はいつもくのたまの友達とくっちゃべってるか、さっさとお風呂に入って寝てるかだというのに。真面目さんだなぁ。
「ありがとう、三反田くん。私、外を捜してくるから三反田くんはここにいて。もし浦風くんが帰ってきたら、入れ違いにならないようにしてほしいの」
「わかった。半刻経っても戻ってこなかったら、他の三年生たちにも声かけて藤内を捜すよう頼んでみる」
「うん。それじゃ、行ってくる!」
三反田くんにニッと笑いかけて踵を返す。
背中で三反田くんの「気を付けてね」という言葉を受け止めて、私は飛び出した。
※ ※ ※ ※ ※
と、外に出たものの……どこに行ったんだろう、浦風くん。そもそも、浦風くんの行きそうな場所って、どこ? どこで何の予習をしてるの。
ああ、ダメだな私。情報収集なんて基本なのに、全然できてない。くのいち失格だなぁ。忍術学園の敷地って何気に広いから全く見当がつかないし、こんなことなら三反田くんに任せちゃえばよかったのかな。
それに、私って、全然浦風くんのこと知らないんだな。浦風くん普段何をしているのかとか、何が好きで何が嫌いなのかとか。そりゃそうか。昨日まで私は富松くん富松くん言ってたもんね。浦風くんとはここのところずっと一緒にいたのに、浦風くんのことを全然知ろうともしなかった。バカだなぁ、私。
「――って、うわぁぁあああ!」
バカな私は足元にあった落とし穴の印に気づかずに、見事に落とし穴に落ちてしまった。ああも本当にバカすぎて泣きたいくらいだ。綾部先輩の落とし穴にハマるの、これで何度目だろう。不運な保健委員会でもないのに。
はー、もう、嫌だ。腰打ったし、制服は汚れるし、浦風くんは見つけられないし、最悪だ。浦風くんを探すだけだと思って苦無も縄も持ってないから穴から出られそうもないし、助けを呼ぶにも暗いし人通りも少なそうだし。運よく人が通ったとしても忍たまの知り合いなんて少ないから快く助けてくれるとは限らないし。もう、挫けそう。
「浦風くん……浦風くん……どこにいるのよう……!」
こんな時、助けてくれるのはいつも富松くんだった。浦風くんに冷たくされた時も、浦風くんと穴に落ちた時も、次屋くんと組まされた合同演習の日だって、こんな風にどうしようもない状態だったときに助けてくれたのは富松くん。だから、私は富松くんが好きなんだと錯覚したのだ。だけど、今ここでまた富松くんが助けに来てくれたならば、私は今本気で富松くんを好きになるわ。浦風くんなんて、浦風くんなんて――
「――さん?」
「え……?」
それは確かに、浦風くんの声だった。
「やっぱりそうだ! 待ってて、今助けるから!」
咄嗟に上を見ると、ほんの少し見えたそのシルエット。そして月明かりに照らされて見えた、浦風くんの顔。
「浦風くん……!」
待って、これは富松くんのことを考えたからなのだろうか。富松くん――いや、富松神よ、浦風くんに会えたことに、感謝します。今日、私の中で富松くんは神になった。
しばらくして、浦風くんが持ってきてくれた縄を投げてくれて、私はそれに掴まる。それを浦風くんが引き上げてくれて、無事に私は落とし穴から脱出することができた。
よかった、この穴で一晩過ごすことになったらどうしようかと思った。
「悲鳴が聞こえて来てみたら、さんが落ちてたんだもん。ビックリしたよ! でも、無事でよかった……」
「うん……ありがとう」
「どういたしまして」
穴から出られて安堵したのと、浦風くんに会えたという安心感で視界が霞む。すると、浦風くんは私の頭を優しく撫ででくれた。
「あっ、ご……ごめん!」
浦風くんはパッと手を離して私に背を向けた。そうだ。折角浦風くんに会えたんだもん。言うなら、今しかない。
「ねぇ、聞いて浦風くん」
「ご、ごめん! さん、おれ、用事があるから!」
私の言葉を遮り、浦風くんは脱兎のごとく逃げ出した。
は、何? まってまって、どういうことなの? 私、浦風くんに振り回されてばかりじゃない? 予習してないからなの? 告白をされる予習してないから逃げ出すのか浦風藤内。
おーけー、わかった。覚悟しやがれ。てめーは私を怒らせた。
そして私は全力で浦風くんを追いかけた。しかし、悔しいことになかなか差が縮まらない。なのでここは頭を使うことにしようではないか。
「浦風くん待って! 待たないと絶交する!! もう二度と口きかないし、すれ違ったってシカトするんだから!」
「……っ!」
私の言葉に反応した浦風くんは走る速度を落とした。その間に距離を縮め、なんとか浦風くんに追いつく。
もう逃げられないように、しっかりと浦風くんの手を握る。計画通り!
「はぁ、はぁ……言い逃げとか……酷い。ずっと捜してようやく見つけたのに、逃してたまるか!」
「ごめん……振られるってわかってたから、直接聞くのが怖くて」
浦風くんの手から伝わる振動。ああ、浦風くん震えてる。振るわけ、ないじゃないか。
だって……私は――
息を整えて、私はにこりと笑った。
「私も、浦風くんが好きだから逃げなくていいんだよ」
「え……」
予想外の答えだったのか、浦風くんが目を見開く。
「私も浦風くんが好き。ずっと一緒にいたいし、もっと浦風くんのことを知りたいの」
暗所でもわかるくらいに浦風くんの顔が真っ赤なのがわかった。だけど、私もきっと同じくらいに真っ赤なはずだ。
「でも、さんは作兵衛のこと……」
「富松くんのへの気持ちは恋じゃないって気づかせてくれたのは、浦風くんだよ? 浦風くんに冷たくされて、ようやく気づいたの。私が本当に好きなのは浦風くんなんだって。だから、責任とってよ。ちゃんと、私の話を聞いてよ! 私は――」
浦風くんに伝わるまで、何度だって言うよ。私は浦風くんのことが好きだと。
「いや、さんの話を聞く前に、おれの話を聞いてもらいたいんだ」
浦風くんが、私の両肩を掴む。至近距離で、お互いの息が掛かってしまいそう。私は思わず息を飲んだ。
「告白の予習してなかったし、告白される予習もしてなかったから、こんなにボロボロだけど……おれはさんのことが大好きです。こんなおれでよければ恋仲になってください」
真剣な表情、真っ直ぐに私を見つめる潤んだ瞳。
ああ、私は今かつてないくらいにドキドキきゅんきゅんしている。
「はいっ! 私も浦風くんが、大好きです! よろしくお願いします!」
これでやっと両想いで、私たちは今から恋仲なんだ。
なんだか恥ずかしくて、浦風くんと私は同じタイミングで照れ笑いをした。
「だーいせいこーう」
不意に、綾部先輩の声が聞こえた。私と浦風くんがビクリと肩を震わせ振り向くと、そこには提灯を持った立花先輩と綾部先輩がいて。
「あ、綾部先輩と立花委員長!」
立花先輩は提灯の明かりに照らされたその顔を歪ませた。
「ようやくくっついたか。見ていてもどかしかったが…しかし、よかったな藤内」
そして、不敵に笑みながら浦風くんの頭をくしゃりと撫でた。
おお、立花先輩がめちゃくちゃいい先輩に見えるのはどうしてなのだろう。
「は、はい! 立花先輩たちのおかげです!」
私の手をぎゅっと握りながら、浦風くんはにこりと微笑む。すると、綾部先輩が頬を膨らませて不満げな顔をした。
「おやまぁ、それを言うなら僕の落とし穴のおかげでしょ。それにしても、はよく僕の落とし穴にハマるねぇ」
「はぁ、そうですね」
私はジトめで綾部先輩を見た。すると、浦風くんが突然私の身体をぎゅっと抱きしめる。
「こ、これからは、おれがしっかりさんを守りますから、落とさせません!」
それはまるで宣戦布告のようだった。綾部先輩は口角を上げて「おやまぁ」と一言。
「言うではないか、藤内」
立花先輩も満足げに笑みを浮かべていた。
「浦風くんカッコいい!!」
「……作兵衛よりも?」
私が褒めると、浦風くんが少し不安そうに私を覗き見る。
富松くんは神になったけれど、私の中の一番は浦風くんだもの。答えなんて、決まってる。
「当然!」
私の答えが嬉しかったのか、浦風くんは恥ずかしそうに笑った。
「やれやれ、バカップルの誕生ですよ、立花先輩」
「そうだな。まぁ、今回はそれなりに楽しめた。次は何をしようか」
立花先輩と綾部先輩はそんなことを話しながら暗闇へと消えていった。
「はぁ……先輩たちったら」
「恐ろしい人たちだ」
こうして私の恋の戦争は終わりを告げたけれど……翌日から立花先輩率いる作法委員会との新たな戦いが始まったというのはまた別の話。
最初は作法委員会にいじられまくるだけの予定でした。
でも、「私は富松くんが好きなんです!浦風くんじゃないよwww」って流れにしたらとんでもなく描きたいことからずれていきました。
執筆:15年12月08日
修正:16年05月11日