部活の時間、翔ちゃんとなっちゃんと談笑していると、授業中に起こった一ノ瀬くん事件の話になった。
「トキヤの奴、可哀想だったよな…」
「だって、どうしても助けてくれたお礼がしたかったんだもん!」
「の気持ちはどうであれ、結果見事に恩を仇で返したわけだね」
私が翔ちゃんに反論するも、黙って楽譜の準備をしながら
私たちの話を聞いていた美風先輩が毒を吐き出してきた。
私は美風先輩のことで悩んでたんだから、美風先輩こそがそもそもの原因なんですけどね!
「ちゃんの絵、すごく上手いからトキヤくんも笑っちゃたんですねー」
「ははは、そんな褒めないでよなっちゃん」
この私を非難する空気の中、なっちゃんだけがフォローしてくれる。ああ、やっぱりなっちゃんは優しいな。
翔ちゃんはいつものことだからいいとして、
美風先輩もこれくらい優しければ私だってこんなに苦しまずに済むのにな。
「、調子に乗らないで反省しなよ」
「わかってますよー」
優しい言葉どころか、厳しいことしか言えないのかこの人は。
ていうか、美風先輩が他の人に優しくしてるところをまだ見たことがない。
修羅なのか、修羅なのかこの人は…!
見た目は綺麗で可愛いのに、何でこんな性格は酷いのか…勿体無すぎだよね。
「それはそうと、今日は新しく新入部員が来るから」
美風先輩の突然の言葉に、私は目を丸くする。
「新入部員?」
「はい、クラスで仲良くなった春ちゃんって子なんですよ~」
なるほど、なっちゃんがお友達を勧誘したのか。
てっきり、美風先輩が脅迫して無理矢理入部させたのかと思ったよ。
今の合唱部は深刻な人員不足で合唱にならなくてただの歌唱同好会になってるしね。
「とは違って少し音楽に精通してるらしいよ。ピアノも得意って聞いたけど?」
「はい、春ちゃんは歌もピアノもとーっても上手なんです!聴いてるだけで幸せになれちゃうんですよ」
美風先輩め、いちいち私を引き合いに出さないでほしい。
はいはいどうせ私はただの人数合わせで能無しのお荷物ですよーだ。
腹が立った私はこっそり翔ちゃんの影に隠れて美風先輩に向かって舌を出してやった。
美風先輩はなっちゃんと話をしていて気づいていない。ざまあ。
翔ちゃんはそんな私を見て「おいおい」と苦笑いを浮かべていた。
「ごめんなさい、遅くなってしまいました!」
女の子の声と同時に、音楽室の扉が開いた。
ふわっとした可愛い女の子だ。
もしかして、この子が新入部員…?
「春ちゃんいらっしゃい!待ってたよ!」
なっちゃんが彼女に駆け寄り、手を取ってブンブン上下に振る。
なっちゃんやめて、彼女の腕がもげちゃう。
翔ちゃんも同じことを思ったのか、表情をひきつらせながら二人を見ている。
春ちゃんに至っては必死に私たちに微笑みかけようとしてくれてるんだけど、上手く笑えてない。
うわぁ、可哀想。
「は、初めまして、七海春歌です。
四ノ宮さんの紹介でこちらに入部する事になりました…皆さんよろしくお願いします」
「部長の美風藍だよ。よろしく。ナツキから優秀だって聞いてるから、期待してるよ」
美風先輩がさり気なくなっちゃんと春ちゃんをを離す。
そして、春ちゃんは美風先輩の言葉に目を見開いた。
「えっ、四ノ宮さん!?」
するとなっちゃんはへらへら笑いながら「春ちゃんは歌もピアノも素敵です」と春ちゃんを褒める。
春ちゃんは赤くなりながらブンブンと首を横に振った。
「なんか、那月と七海、怪しくねーか?」
翔ちゃんがニヤニヤしながら私の肩に手をおく。
まぁ、端から見れば微笑ましい光景だけど、あのなっちゃんだよ…。
果たしてこれは恋愛に発展するのだろうか。
「まぁ、なっちゃんは可愛いものが大好きだしね…」
美風先輩に「違うんです、そんな滅相もないです」と頭を下げまくる春ちゃんに近付き、
ポンポンと肩を叩いた。
何だか面白い子だよ春ちゃん。
「です、女の子同士仲良くしよう!」
すると春ちゃんは表情を変え、にっこり笑ってくれた。
「はいっ!よろしくお願いします!」
か、可愛いよ春ちゃん…!
なんとなく、なっちゃんの気持ちがわかってしまった。
執筆:12年05月31日