美風先輩により半ば強制的に入れられてしまった合唱部。
翔ちゃんとなっちゃんも一緒だから心強いけど、美風先輩は今朝のこともあるしなんか怖いし、
とにかく関わりたくない。
…合唱部に入ってしまった以上、そうはいかないってわかってるけどさ。
極力、避けていきたいところだ。

「それじゃ、めでたく廃部を免れたことだし早速始めようか」

美風先輩はおもむろにピアノの前に立った。
え…もう部活始めちゃうの!?自己紹介もなしに?
私たち幼なじみはお互いのことを知ってるけど、私たちは美風先輩のことを何も知らないし、
美風先輩だって私たちのことわからないはずで…。

「自己紹介なんていらないよ。キミたちの名前はもう知ってるしね。
だから今はキミたちの実力を知るために声だしをしてもらいたいんだけど」

美風先輩がため息混じりに私を見た。
え…何で?私声に出してないよね?

「そんなの、顔を見れば分かるよ。特にとショウは分かりやすい」

「んなっ!俺もかよっ!」

美風先輩に思っていただけで口にしていない疑問を答えられ、私は顔を青くした。
翔ちゃんも私の隣で冷や汗を掻いている。

「わあー、あいちゃんすごいですねー!超能力者みたいでかっこいいなぁ!」

ただ、なっちゃんだけは全く動じることなく、通常運転だった。
しかも、あの美風先輩に対してちゃん付けで呼んでいる始末。
どんだけ肝が据わっているんだ、なっちゃん!!
ふと、美風先輩を見ると眉間に皺を深く刻みながらなっちゃんを睨んでいた。

「何その呼び方、やめてくれない?一応キミたちの先輩なんだけど」

やはりお怒りだった。
しかし、なっちゃんは気にした様子はなく、あいちゃんはあいちゃんですよー!なんて言って笑っていた。
美風先輩は諦めたのか、ため息をついてなっちゃんから視線を逸らせる。
やべー、なっちゃん強い!美風先輩をねじ伏せちゃったよ!

「ナツキって、いつもこんな感じなの?」

「はい、これがいつものなっちゃんですよ」

眼鏡を取ったら性格が凶暴になるんだけど、これは面白いから黙っておこう。
美風先輩の驚いた時の顔が楽しみだ。

「ふーん…。各個の性格を把握しておくのも必要か…わかった、やっぱり自己紹介やろう」

「結局やるんかいっ」

「文句あるの?ショウ」

「いや、ないけどさ…!」

美風先輩は私たちに席に着くように促すと、自己紹介を始める。
さっきも言ってたけど、美風藍って名前なのと2年生だということ、そして言わなくてもいい今朝の私との出会いを語った。
翔ちゃんとなっちゃんに続き、私の番になる。

「翔ちゃんと同じ1年S組のです…。昨夜遅くまでゲームをしていて寝坊して美風先輩に激突しました。よろしくお願いします」

「ゲームはほどほどにしなよ」

私の自己紹介が終わると、美風先輩は呆れたように呟いた。
いちいち毒を吐いてきて…くっそー!

ああ、やっぱり私は美風先輩が苦手だわ…!



執筆:12年05月31日