狩猟祭の結果は結局3位に終わった。
 ザグナルちゃんにとどめを刺したフライヤの姉御が1位、劇場街で奮戦していたジタンが2位。姉御がいなければ、ジタンを優勝させてしまっていた……姉御には感謝しなければならない。
 それに、やっぱりジタンは強い。わたしなんか全然敵わないや。
 モーグリの着ぐるみを脱いで部屋を出ると、ザグナルちゃんに追われていたとんがり帽子の男の子が立っていて、「あっ」と小さな声を上げた。

「モーグリのおねえちゃん……?」

「はい。あっ、でも他の人たちには内緒でお願いしますねー?」

 にっこり笑ってみせると、とんがり帽子の男の子も照れくさそうに笑った。

「さっきは、ありがとう……。ボク、怖くて……ごめんなさい……」

 笑ったと思ったら、今度はしょんぼりとしてしまう。
 くるくると表情が変わって忙しい子だなぁと、なんだか微笑ましかった。

「無事ならよかったですー。実はわたしも……あなたの前では強がってしまいましたが、ジタンとフライヤの姉御が来なければ怖くて何もできなかったかもしれないのですよ」

「えっ、そうなの……?」

「はい。だから、わたしもごめんなさいです」

 わたしが頭を下げると、とんがり帽子の男の子は慌てて首を横に振った。

「でも、モーグリのおねえちゃん強かったよ! カッコよかった!」

 それは恐らく、ジタンがダガーさんとのデートがかかっているからとどめを譲れと申し出た時の事だろう。あの時は確かに怒りで変な力は出たけれど、着ぐるみは動きにくいしザグナルちゃんは防御力高いしで後半はもう無様だったと自分でも思う。

「あ、あれは少し腹立たしいことがあったので……。それと、モーグリって呼んだらバレてしまいますので、今後はわたしのことはって呼んでほしいのですー」

「わかった。えっと、ボクはビビ。ジタンと一緒に旅をしてるんだよ。おねえちゃんは、ジタンのお友達?」

 ジタンとの関係……そうだね、今はただのお友達なんだよね。
 他人に言われて改めて、進展できていないことを悟る。
 ダガーさんという強力なライバルをどうにかしないと、わたしは先に進むことはできない。

「はい。ジタンとは小さい頃からのお友達です。あの…やっぱり、ジタンはまたリンドブルムを出て行ってしまうのですかね?」

 ジタン達は、これからどうするのだろう?
 ダガーさんもずっとこのままリンドブルムにいるというわけでもなさそうだし、やっぱりまたいつかどこかへ行ってしまうのだろうか。
 ジタンは、ダガーさんの向かうところについていってしまうのだろうか。

「わからない……でも、旅に出るんだったら、おねえちゃんも一緒に来たらいいんじゃないかなぁ?」

「え……?」

「あのね、ボクも、おねえちゃんとお友達になりたいんだ……。それに、ジタンもおねえちゃんが一緒ならきっと嬉しいと思うよ」

 ビビくんがにっこりと笑う。
 そっか……わたしも、ジタンについていってしまうという選択肢もあるんだなぁ。

「ありがとう、ビビくん。わたしたち、もうお友達ですよ。でも、わたしはリンドブルムでお仕事がありますので、一緒に行くのは難しいのです」

 冷静に考えると難しい問題だ。まだヒルダガルデ2号は完成していないのに、シド様に総てを任せてしまうわけにはいかない。
 わたしを短期間で飛空艇技師に育ててくれたシド様を裏切るわけには……。

おねえちゃん……」

「それじゃ、わたしそろそろお仕事に戻りますので。ジタンにはくれぐれも内緒でお願いしますね!」

「う、うん!」

 わたしはわたしにできることをして、ジタンに見てもらいたいと思ってた。だけど、ジタンは本当にそれでわたしを見てくれているだろうか?むしろ、わたしがスキルを上げる度に離れて行ってしまっているような気がする。
 ジタンと一緒に旅をして、一緒に戦うという選択肢もあるのではないかと思う。そうすれば、ジタンと一緒にいられる。役に立てることもきっとあるはずだ。戦闘に特化していなくても、商人としてのスキルを活かしたり、わざわざ合成屋に向かわなくてもその場でやってあげることだってできる。
 ごめんなさい、シド様。やはりわたしはジタンの為に何かをしたいのです。



※ ※ ※ ※ ※



 狩猟祭上位入賞のご褒美ということで、シド様から食事のご招待を受けていたけれど、ジタンたちもいる中モーグリの着ぐるみで参加していたわたしが生身のまま行くわけにはいかなかった。なので辞退させて頂き、旅の準備を進めようと思う。
 ……と言っても兵器の見繕いとメンテナンスだけなのだけど。
 商業区にある実家に帰ろうとした最中、場内が物々しい雰囲気に包まれた。

「酷い傷だ……」

「ありゃあ、もうダメだな」

 人だかりで何が起こっているかはわからない。

「あの、何があったんですか?」

「今、傷だらけのブルメシアの兵士が来たんだ。なんでも、ブルメシアが謎の軍の攻撃を受けていて、援軍を送って欲しいんだと」

 戦争が始まるのだろうか。
 そう考えていると、ジタンたちが慌てた様子でリフトに乗っていくのを見つけた。
 まさかと思い、後を追いかける。向かっている先は……最下層? もしかして、地竜の門からブルメシアへ向かうんじゃ。
 だけど、ダガーさんの姿はない。
 彼女はお姫様だし、元々ジタン達がリンドブルムに連れてくるだけだったから、同行はしないのだろうか?



※ ※ ※ ※ ※



 急いで追いかけ、ようやくジタンたちに追いつくものの、結局旅の支度は最低限のことしかできていない。
 シド様にも、家族にも、何も伝えられず黙って行く形になってしまう。だけど、戻っている時間なんてない。
 わたしは、もう決めたのだ。

「ジタン! 待ってください!」

 意を決して、ジタンに声をかける。
 すると、ジタン達は立ち止まり、振り返った。

「なっ、!? お前どうしてこんなところに……」

「わたし、ジタンについていきたいのです!」

 わたしの言葉に、ジタンが目を見開いた。ジタンの後ろにいたフライヤの姉御とビビくんも目を瞬かせている。
 しかし、ジタンは暫く黙った後、ゆっくりと首を横に振った。

「ダメだ、これから戦場に行くことになるかもしれないんだぞ。危ないから戻れ!」

「決して足手まといにはなりません! ちゃんと戦えます!」

「お前が戦えるだって? これは遊びじゃないんだ!」

 そんなことはわかっている。だから、少しでも戦力になりたくて、ジタンを守りたくてついていくのだ。

「わたしだって遊びのつもりではありません、覚悟をしてきました。わたしの戦闘能力が不安でしたら、今ここでわたしとお手合わせして頂いても構わないです」

 わたしは自らの武器である木槌を構えた。

「そんなリーチの短い武器でオレと手合わせなんてできるわけ……ん? その武器どこかで……」

「確かに、リーチは短いですが……その分威力はあります。実証済みです。しかし、わたしも一応は女の子です。きちんと遠距離攻撃用に飛び道具もあるのですよ!」

 隙だらけなジタンに向けてレンチを投げつけ、それが鈍い音を立ててジタンの頭にヒットすると、ジタンはその場で悶絶した。
 姉御がため息をつき、ジタンの肩に手を置く。

「ジタン、黙っておったが……狩猟祭の時におぬしとやりあったモーグリの正体はなのじゃ。そう言えばの同行を許せるのではないのか?」

「は……? あっ! そうだ、その木槌!」

「それに、おぬしは丁度その時期にいなかったから知らぬと思うが、は一昨年の狩猟祭で優勝しておる。去年は2位じゃったな」

 姉御の言葉を聞いていたジタンはなかなか信じられないようで、口を開けたままわたしと姉御を交互に見た。

「はい、姉御の言う通りです。ジタンは去年の狩猟祭でわたしの勇姿を見ずにトレノのカードゲーム大会に参加するからと武者修行に出て行ってました。1位はフライヤの姉御にとられてしまいましたが」

「……さんはオレが知らぬ間にずいぶんとたくましく成長なされたようで」

「いつか、大好きなジタンのお役に立つ日にために鍛えていたのですよー」

 ようやく納得してもらえたのか、ジタンはがっくりと肩を落とした。
 これで、わたしの戦力を認めてもらえたということになる。

「ねぇ、ジタン。おねえちゃんはすごく頼りになるし、連れて行ってあげようよ。ボクもおねえちゃんが一緒だと嬉しいな。ジタンも同じでしょ?」

「……わかったよ。まさかとリンドブルムを出る日が来るとはな」

「えへへ、改めまして、よろしくお願いします!」

 ジタンが手を差し伸ばしてくれて、わたしはしっかりとその手を掴んだ。



執筆:16年5月14日