ジタンにまったく会えなくない日が続いた。
わたしがお店の手伝いをしているからなかなか会えないのは昔からよくあることだったけれど、そういう時はジタンの方からお店に来てくれたりしていたのに。
劇場街に行ってみてもジタンに会うことはなくて、ジタンの属しているタンタラス団に行ってみたけれど、どうやらジタンはリンドブルムにはいないらしい。
「ジタンの奴なら、故郷を探す旅に出てくるとか言って出て行きやがったぜ」
そう教えてくれたのは、1年程前にタンタラスに入ってきたブランクだった。
ジタンもわたしと同じ孤児で、彼は小さい時にタンタラス団のボスであるバクーに拾われた。
拾われる前に見た記憶にある、青い光。それがきっとジタンの故郷なのかもしれないという話を聞いた事があった気がする。でも、わたしに黙っていくなんて、少し寂しい。
「そうなのですかー……ブランクさん、ありがとうございます」
「いい加減ブランクでいいぜ、。お前には世話になったしな」
ブランクさんが、わたしの頭をぐりぐりと撫でた。折角綺麗に結えた髪が一瞬でぐちゃぐちゃになってしまった。
「はいー……」
ブランクさんと仲良くなったきっかけ。それはブランクさんがタンタラス団に入る前、喧嘩で大怪我をしたブランクさんを見つけて手当てをした事があった。
それから色々あって、ブランクさんはタンタラス団に入って、今でもわたしに良くしてくれている。
「でも、いつもお世話になっているのはわたしの方ですし、それにあの時は倒れていた素敵な殿方を放って置けなかっただけなのですよー!」
「は? 素敵?!」
わたしの言葉に、ブランクが目を丸くした。
「はい、ブランクはとてもカッコいいです。初めてお会いした時の事、覚えてます? わたしとぶつかって、わたしが転んだ時にブランクはわたしに手を差し伸べて下さったのですー!」
「……そういや、そんな事もあったな」
「ガラは悪いのに、人情に溢れた素敵な人だとわたしは思ったのです……」
あの時のブランクの王子様っぷりといったら。
思い出してうっとりしていると、ブランクがバツの悪そうな表情でポツリと呟いた。
「悪いけど、あの時ぶつかったのはお前から財布をスる為だぜ」
「えっ」
驚愕の事実に、わたしは顔を引きつらせる。
うそ、だって、助けてくれたし、お財布だってなんともなかった――
「……まぁ、転ばせちまったし、何度も謝られたりお礼言われたりで可哀想になって、財布は戻したけどな」
「なら、やっぱりブランクはいい人じゃないですか。助けて正解でした」
例え、お財布を盗ろうとしたんだとしても、結果的に何もなかったし、事実わたしはブランクにきゅんとしたわけなので。
考えが甘いのかもしれないけど、今までブランクのことをそういう風に見ていたから、やっぱりわたしの中でのブランクの評価は変わらない。
しかし、ブランクはまるで珍しいものを見ているかのような目でわたしを見ている。
「……なぁ、」
「はい?」
わたしが返事をすると同時に、ブランクに身体を引き寄せられた。気づいたらわたしはブランクの腕の中にすっぽりと納まっている。
えっと、これってブランクに抱きしめられているんだよね……?
「ぶ、ブランク……?」
「は……ジタンの事が好きなんじゃねーのかよ。俺にこんなことされて嫌じゃねぇのか?」
ブランクの顔は見えない。だけど、その声は少し震えてて、悲しそう。
わたしは、ブランクのことは嫌いじゃない。むしろ、好き。だから抱きしめられて嬉しい。でも、それ以上にジタンのことが好きなのだ。ブランクのことは家族に対するそれと同じような感じなんだと思う。
「えっと、嫌じゃないです。わたし、タンタラス団の皆のことは家族のように思っています。その中でジタンは別格といいますか……」
「チッ。ジタンの奴は幸せ者だな」
ブランクはゆっくりとわたしの身体を離し、ニヤッと笑った。
「安心しろよ。俺はお前みたいなガキは趣味じゃねーからな」
ガキ、と言われてわたしはムッとする。
確かブランクはわたしの2つ上だったはず。
「ブランクもわたしと大して変わりませんよー!」
「うるせぇ、チビ。お前なんかさっさとチビ仲間のジタンとくっついちまえ」
「最初からそのつもりですー!」
「……ジタンの奴早く帰ってくるといいな」
ブランクとわたしは空を仰いで、同じ空の下にいるジタンの事を思った。
しかし、それから1カ月、1年経ってもジタンが帰ってくることはなかった。
執筆:16年4月