「よー、。2年ぶり!」

 狩猟祭が終わって一月後のことだった。
 フライヤの姉御の言っていた通り、ジタンは帰ってきた。しかし、あまりにも突然に、しかも自然に帰ってきたものだからわたしはどう反応していいかわからない。
 2年ぶりに見るジタンは身長が伸びていて、筋肉もガッチリしていて、大人っぽい顔つきに成長していた。
 一体彼はその魅力でどれだけの女性をナンパしてきたのだろうと思うと、とてももやもやしてしまう。
 気づいたらわたしは手にしていた鉄パイプをジタンに向かって投げつけていた。

「おい! いきなり何するんだよ!」

「うわあああん! おかえりなさい、ジタンー!!」

 ジタンはしっかりと鉄パイプをよけた。
 しかし、わたしがジタンに飛びつくと、今度はしっかりと受け止めてくれた。よしよしとわたしの頭を撫でてくれるのがとても気持ち良い。

「髪も伸びて、すっかり女らしくなっちまったな」

「ジタンこそ昔はわたしとあまり身長変わらなかったのに、こんなに伸びてしまいました」

 わたしとジタンはお互いの顔を見合わせて笑う。
 さっきからずっとドキドキしている心臓の鼓動は、ジタンに伝わっているのだろうか。

「あ、あの……フライヤの姉御から薬草受け取りましたー。下痢止めとしては使っていないのですが、カウンターに飾ってみました」

 ジタンから離れ、カウンターに生けてある花…スターチスの花を指さした。
 スターチスの花は武骨なこの合成屋の店を少し華やかにしてくれていた。

「下痢止め……? いや、あれは花言葉を……」

「え?」

 ジタンは心外だとでも言いたそうな顔をした後、大きなため息をつく。

「何でもない。が花に興味がないのはよーくわかったぜ」

「す、すみません……?」

 なんだか申し訳なくなってしまい、わたしはしゅんとなった。
 ジタンはそんなわたしをよそに、カウンター脇に置いてあった兵器に近づく。
 フライヤの姉御もそうだったけれど、やっぱり気になるものなんだなぁと改めて思った。狩猟祭の後、姉御は再び恋人のフラットレイさんを探す旅に出てしまった。また会えるといいなぁ。

「なぁ、この変な機械みたいなのは何だ?」

「わたし、最近兵器を作っているのです! 魔物を一撃で仕留められるものを作るのが今の目標なのですよ!」

 先日の狩猟祭でわたしの兵器は大活躍だった。実用してみてだいぶ課題が見えてきたので、改良が捗って仕方がないところだ。

「お前も物騒な女になったもんだな」

 ジタンがそんなことを言うから、わたしはむっと頬を膨らませた。

「ジタンは失礼な男になったのですー」

「でも、こんな男が世界中ではモテモテだぜ?」

 売り言葉に買い言葉で、ジタンはとんでもないことを言いだした。
 そう、だよね。ジタンが旅の途中にナンパしないわけがない。姉御と知り合ったのもきっとジタンのナンパなのだろう。幸い、姉御には恋人がいたけれど。

「う……わたしはジタンのファン第一号なのですよ! 他の女性たちとは年季が違いますー!」

「へ、へぇ…そうだったのか」

 意外だったのか、ジタンが顔を赤くした。
 あっ、これはもう一押しすれば勝てそう。

「はい。それに、こうして気軽に抱き付けるのは、幼馴染の特権ですよね」

「お、おい! そんなにくっつかれると……!」

 再びジタンに抱き付くと、ジタンは更に顔を真っ赤にした。
 うそ、本気で慌ててくれている……?

「ヒュー。仲いいな、お二人さん。だけどここまでだ」

 後ろから首根っこを掴まれ、強制的にジタンから引き離された。振り向くと、ブランクが眉間に皺を寄せている。

「ブランク!」

 いつからいたんだろう。全然気づかなかった……。

「ジタン、帰ってきて早々に発情かよ。このエロ猿」

「お前は相変わらずの保護者だな」

は俺の可愛い妹みたいなもんだからな。当たり前だろ」

「へぇ?」

 ブランクとジタンはお互いを睨みながら言い争いを続ける。そんな二人に挟まれているわたしは一体どうしたらいいのだろうか。

「あの、二人とも怖い……」

、こっちに避難するッス」

 マーカスがわたしの腕を引き、助けてくれた。二人はなおも言い争いを続けている。

「ああ見えて、ブランクの兄貴はジタンさんが帰ってきて嬉しいッスよ。昔から素直じゃないッス」

「わたしもそう思います。なんだかんだで二人は仲良しですもんね」

 タンタラス団はみんな、ジタンの帰りを待っていたのだ。ボスも平気そうな顔をしていたけれど、時々ジタンの話をすると少し寂しそうにしていたし。

「兄貴、ジタンさん! 折角2年ぶりに皆揃うッス、タンタラス団で酒盛りするッスよ!」

 マーカスの一声で、二人の争いがピタリと止んだ。酒盛りと聞いて、二人同時にはしゃぎだす。

「行こうぜ、

 ジタンに手を引かれるけれど、わたしは躊躇う。
 まだ昼間だし、お店だってこのままにしておくわけにはいかない。

「で、でもわたしお店が――」

「おやっさんには俺から言っておくさ。もゆっくりジタンと話すことあるんじゃねーの?」

 ブランクがニっと笑う。
 ジタンがいない間ずっとわたしに気を使ってくれたけれど、帰ってきてからもそれは変わらない。

「ありがとう、ブランク」

 わたしはジタンに手を引かれたまま、劇場街にあるタンタラス団のアジトへと走った。



執筆:16年5月3日