学校も終わり、一緒に下校する私たち。
今日は、田中さんは学校を休んでいた。
きっと、私と多紀が付き合ってたってことでショックを受けたんだと思う。
だから、何事もなく、一日が過ぎていった。
田中さんには悪いけど。
気まずいからなるべく会いたくないから好都合だ。
「。明日暇?」
「あっ、明日?明日は土曜日だよね?!」
突然話し掛けられて声が裏返ってしまった。
我ながら情けない。
「何声裏返してるの?…そう、土曜日だよ」
「ひ、暇!で、何かあるの?」
すると、多紀が微笑を浮かべた。
「サッカーの選抜の練習、見に来てほしいと思って」
あぁ、そういえば多紀はサッカー部で一人だけ東京選抜に選出されたんだよね。
やっぱり、多紀はそこでも『白』の性格で通ってるのかな?
「うん、行くよ」
どうせ暇だし、私は多紀には逆らうことはできないのだから。
翌日。
私は駅で多紀と待ち合わせをして今日だけ東京選抜の練習場である雑司ヶ谷南中ってところに向かう。
電車の中で、私と多紀は近くにいた女子高校生たちにじろじろと見られている。
「ねぇ、あの子たち可愛くない?」
「あの男の子、超好みなんだけどー」
ひそひそと聞こえてくる声。
やっぱり、多紀はモテるんだなぁ、と痛感した。
「嫉妬、してる?」
私の手を握りながら、多紀が微笑む。
ちょっとドキっとしながらも、私は小さく首を横に振った。
「ううん、してないよ」
すると、多紀が人に見られない位置から私の服の中に手を入れてきた。
「ふーん?じゃあ、嫉妬してもらうためにも今日帰ったら…」
「う、嘘嘘!かなり嘘です!すっごく嫉妬してます!!」
「そ」
満足そうに笑って、私の服の中から手を出した。
雑司ヶ谷駅に着いて、私たちは降りた。
改札口を出ると、サッカーのユニフォームを着た男の子が3人屯していた。
あれって、多紀の友達かな?
「あ、杉原くん!」
その中の一人が多紀に向かって大きくてを振った。
笑顔が、とても眩しい男の子だ。
「やぁ、カザ君」
「タッキー遅ぇぞ」
「杉原、その女は誰だ?」
赤メッシュの入った男の子が多紀の肩に手をかける。
そして、もう一人。むっつりした男の子が私を指さした。
すると多紀はにこにこしながら答えた。
「ぼくの彼女の。今日、ぼくたちの練習見させてあげようと思って連れてきたんだ」
「です。よろしくお願いします…!」
多紀に紹介され、私も改めて自己紹介をした。
「ふーん、タッキーには彼女がいたのか。なかなか可愛いじゃん。オレ、小岩鉄平。よろしく」
「うん、ほんと可愛いね。僕は風祭将。よろしく、さん」
「…不破大地だ。」
それぞれ、私に自己紹介をしてくれた。
思わず私は微笑んでしまう。
「ってサッカーとか興味あんの?」
小岩くんが興味津々に私に訊ねた。
「うん、あるよ。サッカー結構好きだし」
昔、多紀に近づきたくて必死になってサッカーのことを勉強してたこともあったし。
「楽しいよね!サッカー!」
風祭君が嬉しそうに言った。
私はうん、と頷く。
「それじゃあ、そろそろ雑司ヶ谷南中に向かおうか」
はぐれないように、なのか。私の手をとって多紀が言った。
「うん。雑司ヶ谷南中って、郭くんの学校なんだよね」
楽しみだな、と言う風祭君。
郭君。
どこかで聞いたことがあったような。
ああ、そうだ。多紀が言ってたんだ。
『ぼくのライバル』って。
多紀のライバルか。可哀相に。どんな人なんだろう?
雑司ヶ谷南中の校門前に人影が見えた。
あれ、あの人は…!
私は思わず声を上げてしまった。
「君は…」
「さん!?」
この間、駅で私に「好き」と言ってくれた人だ。
「あれ?郭くんとさんって知り合いなの?」
私とその「郭くん」と呼ばれた人を見た風祭君が首を傾げる。
この人が、多紀のライバルの郭英士!?
そうだ。私に告白してきた人の名前は「郭」だ。
あんまり興味がなかったから忘れてた。
まさかこんな形で再会するなんて思ってもいなかったし。
「さんとは前にちょっとあってね。風祭たちこそどうしてさんと一緒にいるの?」
郭君は不思議そうに多紀を見つめた。
多紀は郭君の視線に気づくと、一瞬不敵に微笑み、優しく私を抱きしめた。
「はぼくの彼女なんだ。今日は僕のサッカーしてる姿を見てほしくて連れてきたんだ」
「…杉原の、彼女…?あぁ、…そういうことか」
郭君は多紀を睨んだ後、私を見た。
目が合って、気まずくなる。
多紀は、郭君を見て笑っている。
もしかして、多紀が私と付き合った理由の中にライバルである郭君から私を奪うことも入ってたのだろうか。
いや、まさか…いくら多紀でもそんなことないよね?
私は多紀を信じる。
「えーしー!何してんだよ!もうそいつらがが来たから全員集まったんだろ?
さっさとアップ始めねーと監督にどやされるぜ?…って、何でここに女の子がいるの?」
突然グラウンドの方から茶髪の男の子。
その男の子は郭君の肩を掴むと同時に私に気づいた。
「わかった、結人。それと、この子は杉原の彼女だよ」
郭君はそう言って一人でグランドの方へと行ってしまった。
「は?杉原の?!へー、すげーじゃん。杉原に彼女いたんだな。うわ!待てよ英士!!」
郭君のあとを追いかける結人と呼ばれた男の子。
それを見て不破君が口を開いた。
「俺たちも行かなくていいのか?」
「あ、僕たちも行こう」
風祭君が不破君に応えたのを合図に、私たちは歩き出した。
多紀たちはグランドの内側に、私はグラウンドの外側にそれぞれ向かった。
グラウンドの外から多紀を見る。
多紀は、風祭君と楽しそうにリフティングをしていた。
休憩時間になって、私は持ってきたお弁当を携えて多紀を探す。
ずっと見てたはずなのにいつのまにかどこかに消えていて。
「さん」
突然後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこには郭君が立っていた。
「郭、君?」
「杉原と付き合ってたんだね。どっちから告白したの?」
真剣な眼差しだった。
目が離せない。
「そ、それは…わ、私の方から…」
「ふーん。本当に?無理矢理付き合わされたってことはない?」
するどい。
郭君は多紀のこと、よく知っているみたい。
でも、どうしてそんなこと訊くんだろう。郭君には関係ないのに。
けれど、多紀に詳しそうな郭君に話せば私は多紀から開放されるのかな?
けど、郭君に話せば多紀を裏切ることになる。
どうしよう。
執筆:03年12月18日