あれ、私、おかしい。矛盾してる。
多紀から逃げたいはずなのに、どこかで多紀か離れたくないって思ってる。
今郭君に真実を話してみようか、迷ってしまっている。
『多紀に無理矢理付き合わされている』ということを、話してしまっても大丈夫なのだろうか。

でも、郭君にそれを話したところで、郭君は私を守ってくれるという保証は無い。
私は郭君を振ったんだから。そんな義理は無い。

「そんなこと、ない…」

「ふーん」

郭君は私の返事を聞いて静かに呟いた。

「嘘、でしょ」

見透かされている。

私は慌てて横に首を振った。
しかし、郭君はそれを無視して話を続けた。


「だって、あいつは普段はああだけど、本当はヤバイ奴だし」

「え…何でそれを…?」

郭君は、多紀の本性を知ってる?
そう確信した瞬間、目の前が暗くなって、背中に壁が当たった。
郭君に、両手首を拘束されてる。

あれ、この体勢って、結構ヤバイんじゃ…?

こんなところ多紀に見られたらきっと犯されるどころではなく…殺される。

「何で、あんなヤツとは付き合って俺とは付き合わないの?」

「は、放して…ください」

「ねぇ、答えてよ」

私の両手首を拘束している手に力が篭った。











「何してるの?」

郭君の後ろから多紀声が聞こえた。

「多紀…!」

「…杉原」

多紀は私と郭君をまじまじと見つめると「ちっ」と舌打ちした。

「郭君、人の彼女に手を出すなんて感心できることじゃないね。
それともわかってないの?はね、ぼくの彼女なんだよ。」

「杉原、猫かぶるのは辞めたら?さんだって、もうお前が冷酷非道なヤツだって知ってるんでしょ?」

そう言って郭君は私を開放して、不敵に笑った。
多紀も負けずと開眼して不気味に微笑んだ。

「知ってるよ」

多紀は郭君を見下すように一言言った。
私は、二人が怖くて何も言えなかった。
ただ、二人のやり取りを見ているだけ…。

「お前のことだ。大方、さんにお前の本性見られて口止めとして付き合ってるんでしょ」

「よくわかったね。それもある。だけどね、ぼくはちゃんとを好きだよ。
メガネをかけてるときは気づかなかったけど、外したらこんなに可愛いんだもん」

ぎゅ、と私を抱きしめる多紀。
それを見て、郭君はふ、と鼻で笑った。

「それは、モノとして好きって言ってるように聞こえるね。
さんはお前のアクセサリーじゃない。一人の女の子なんだよ?」

胸が締め付けられるような気がした。
改めて人の口から言われて思った。
多紀は私の顔がいいだけで付き合ってるんだ。
メガネをかけた私なんて眼中になかった程だから、顔が悪かったら私なんてどうでもいいってことなんだよね。







そんなの、わかりきっていたことなのに。
どうしてこんなに苦しくて悲しいの…?









「お前には関係ないよ、郭」

「関係ある。俺はさんのことが好きなんだ。守ってあげたいんだ。
だから、お前のようなさんを不幸にするヤツのそばに置いておけない」

郭君の言葉が異様にしみた。
どうして、郭君は私がほしい言葉をくれるんだろう。
どうして、多紀は私をモノとしてしか見てくれないんだろう。






私、やっぱりこんなに酷い人だけど多紀のこと好きなんだ。
黒白構わず、多紀のことが…。

でも、多紀は結局私のこと、ちゃんと見てくれていない。
ただの道具としてしか見てくれない。
折角、多紀の事が好きだって気づけたのに、多紀は…!

悔しい。苦しい。もう、何もかも嫌になってくる。

こんなことなら、初めから多紀を好きになるんじゃなかった!
嫌いになれば、こんなに悩まなくてもいいのかもしれない。
それなら私は多紀を嫌えばいい。

「多紀、郭君。ごめん。」

「「え?」」

二人は同時に私に振り返った。

「私がいるからいけないんだよね。ゴメン。私、消えるよ」

多紀のいないところへ行けばもうこんなに悩まなくてもいいんだ。
きっと、苦しい気持ちからも開放される。

私は走り出した。


!!」

多紀が私の名前を呼ぶ。
だけど私は振り向かない。

もう、決めたから。














このまま従姉妹のお姉ちゃんの家に行こう。
ここからで充分近いし。

しばらくは家に帰らない。

学校だって行かない。

多紀には会いたくない。






学校を出るとちょうどバス停でバスが止まっているのが見えた。

私は急いでバスに乗った。






バスのドアが閉まる。
私はそれと同時に窓側の席についた。

ふと、窓の外に目をやれば多紀が必死にこちらに走りながら何かを叫んでいる。



でも、私は耳を塞いだ。
聞かない。聞きたくない。

見たくない…。

私は多紀から、視線を外した。






執筆:03年12月24日