日本の夏はどんどん暑くなっていっている。猛暑日、猛暑日。
まだ7月半ばだというのに、連日猛暑日が続いていた。
教室にはクーラーなんて快適なものがない。
だから時折窓から入ってくる風と、団扇代わりの下敷きで暑さを和らげるしかない。
こんな中で期末テストを受けろなんて地獄だろ。
赤点取ったらきっとこの環境のせいだ、私の頭の悪さのせいではない。

ようやくテストから開放されて、あとはもうHRを待つだけ。
汗でワイシャツと肌がぴったりとくっついて気持ち悪かった。
ワイシャツの首元に手をかけて下敷きをぱたぱたと煽ぐ。
生暖かな風だったけれど、何もしないよりはマシだった。

さーん、ブラが見えちゃってますよー。」

隣の席のフランがぼんやりと私の胸元を見つめながらそう言い放つ。
だけど、私にはあまり羞恥心というものがないのか、フランにブラを見られようがどうでもよかった。

「ブラくらい、いいよ。減るもんじゃないし。」

そんなことよりも、この暑さをなんとかしたくて、構わずに下敷きを煽り続ける。
忠告したにも関わらず、私が対処しないことにムッとしたフランが眉間に皺を寄せた。

「ミー以外の人に見られたくないんですよー。だから止めてくださーい。」

「…は?」

フランの言葉にドキッとする。
えっと、それはどういう意味なんだろう。
ああもう。フランはいちいち勘違いしちゃうような甘いセリフを平気で吐くからよくわからない。
私とフランが友達になって1ヶ月。
いちいちドキッとしてしまう私も、いい加減慣れなきゃ身がもたないよ。
ああ、頬に熱が篭るのを感じる。
私は下敷きを机の上に置くと、両手で赤くなっていく頬を隠した。

「フランって、何で恥ずかしいことを平気で言うのかな。」

「ミーは独占欲が強いんですよー。さんを他の誰にも取られたくないですー。」

「だっ!だから、そういうの!!」

多分、耳まで真っ赤だろうな私の顔。
今までこんなに仲の良かった男子なんていないし、耐性がない私は混乱する他なかった。

「そんなこと言われてもー…ミーがそう思ったんだから仕方ないし。
それに、さんのそーゆー反応が楽しいから言ってるんですけどねー。」

クククと小さく笑うフランを見て、私はソッポ向いた。
からかわれてるってことはわかってる。わかってるから、悔しい。

、たまには一緒に帰らない?」

突然、幼馴染の結衣が話しかけてきて、私にとってそれは天の助けとも思えた。
ここのところずっとフランと一緒に帰っていたせいで、結衣や他の友達とのコミュニケーションが不足していた。
何かと私から離れようとしないフラン…
別に嫌ではないけれど、たまには他の友達とも帰ったり遊んだりしたいわけで。

「結衣!是非一緒に帰ろう!!」

私が結衣に抱きつくと、フランが怪訝そうに私を睨んだ。

「ミーと帰ってくれないんですかー?」

「たまには結衣とも帰りたい。」

明らかに不機嫌になってしまったフラン。
少しだけ罪悪感を感じつつ、私は唇を噛んだ。

「悪いね、フラン君。は借りるよ。」

結衣がニッと笑った。








午前中で終わった学校の帰り道、私と結衣はマックで談笑していた。
今日のテストの話、野球部の先輩とうちのクラスの女子が付き合いだしたことなど。
色々話して、久しぶりに“女の子!”を満喫していた。
恋バナは楽しいなー、なんて思っていると、思いがけない結衣の一言。

さ、フラン君と付き合ってるってマジ?」

「えっ、な…何で!?」

結衣の言葉に、私の心臓が跳ね上がった。
私の反応に、結衣はニヤニヤ笑いを浮かべる。

「やっぱり付き合ってるんだぁ?いつも二人でいるしね。」

傍から見たら付き合ってるように見えるかもしれない。
私もそれは思っていたけれど、実際のところはそうでもない。
告白された覚えもないし、手を繋いだりキスしたりもしない。ただの友達だ。

「違うよ…フランが纏わりついてくるだけだよ。付き合ってるわけじゃないの。」

「そうなの?いやー、結構噂になってるよ、二人とも。
特にフラン君に関しては変わり者だし…あっ、でもね。」

結衣がむふふと怪しく笑う。

「フラン君のこと好きって子がいるんだよね。
ほら、あの中性的な容姿に加えて頭もいいし、運動もできるし。意外と人気あるみたいよ。」

「そ、そうなんだ。」

フランのことを好きな子がいる。
それを聞いて、胸の中がなんだかもやもやと霧がかかったみたいになった。
フランが私以外の人と一緒にいるところを見たことがなかったから、
心のどこかで、フランは私だけの友達って思い込んでいたのかもしれない。

独占欲が強い。

きっと、それは私もフランと同じ。
多分、フランは“友達”として。
でも私の場合は違う、と思う。

「結衣…私ね、もしかしたらフランのこと好きかもしんない。」

フランに恋しているかもしれない。
はっきりとはしないけれど、そうなんじゃないかなって思った。
今、言葉にして結衣に伝えて、再確認する。

「今更、何。そんなの知ってるし。」

「えっ…。」

知ってる?
私自身、わからないのにどうして結衣が知ってるの。
そんな私の疑問を感じたのか、結衣はにこっと笑った。

「こないだの体育の授業の時さ、フラン君のこと目で追ってたよ、。」

「そ、そうなの?」

全くの無意識だった。

「うん。まさに恋する乙女だった。にもようやく春が来たのねって思ったわ。」

「だ、だって、フランってばいつも私がドキドキするようなことばっかり言ってくるんだもん!
私、こういうのよくわからないし、経験がないから本当にこれが恋なのかもわかんなくて…。」

気づけば、私は結衣に言い訳をしていた。
フランに恋をしたことに、自分の恋愛経験の少なさに何故か罪悪感を感じて。

「まーまー、落ち着け。とりあえず、私が見た感じフラン君ものこと好きだと思うんだけど。」

「そ、そうかな…?」

確かに、フランは私にしか話しかけないし、ちょっかいを出したりしない。
フランも私と同じ気持ちを抱いてくれてたら、どんなに幸せだろうか。

「告白しちゃえば?ほら、もうすぐ夏休みだし、恋人がいるのといないのじゃ全然違うよ。」

結衣がグッと親指を立てる。
恋人、かぁ。

「が、頑張ろうかなー…。」

ずずずと音を立てて、残り少ないシェイクを啜った。




立ち上がれ、恋する乙女





(明日学校でフランと会ったら緊張しちゃいそうだ…!)
(ちくしょー、明日学校でさんに会ったら絶対からかってやりますー。)


執筆:10年8月15日