ミーンミーンとけたたましく鳴くセミの声をBGMに、私はぼんやりと頬杖をついて窓の外を眺めていた。
担任が「夏休みは遊びすぎず勉強もしっかりとやり…」なんて夏休み前のお決まりな言葉を吐いている。
そんなことはどうでもいい。その言葉に何の重みもないのだから。

今、私にとって大切なことは、フランへの告白。
それを如何に成功させるかの素晴らしい告白台詞を考えなくてはならないのだ。
タイムリミットは、今日。
自分の恋心に気づいてからというもの、幾度も告白しようとも勇気が出ずに今に至っていた。
夏休みに入ってしまえば、きっと1ヶ月ちょいの間会うこともなくなってしまうだろう。
それに、フランに恋をしているのはどうやら私だけではないらしいのだ。
先日も、フランが知らない女子に裏庭に呼び出されていた。
その時私はフランと一緒にいたけれど、彼女の表情は真剣そのものだった。
それでもフランはぽりぽりと頭を掻いて
「ミー、今からさんとお昼食べるんでー。」と、面倒臭そうに答えていた。
うん、あの時はビクビクした。先を越されてしまったらどうしようと思った。

だから、夏休みの間に、フランに彼女ができないうちに、告白しなきゃ。

さーん、何ぼんやりしてるんですかー?HR終わりましたよー。」

「さっさと帰りましょー。」と言って私の腕をグイグイ引っ張るフラン。
私はハッと我に返って、私の椅子の横に立っているフラン見つめた。

「あ、あのさ…フラン!!」

せめて、二人きりになれるところで告白しよう。
…でも、どこで?

「何ですかー?」

んー?って首を傾げるフランが可愛くて。
私は赤面して、そのまま俯いてしまった。
あ…ああ、ダメだ。意識すると何もできなくなってしまう。

「大丈夫ですかー?」

「うん、まぁ。あはは。」

フランに頭を撫でられて、顔を覗き込まれる。
それだけで心臓が張り裂けそうなほどドキドキしてしまう。
こんな調子でいたら、もしかしたら今日中に告白なんてできないんじゃないだろうか。
それに、フランにとって私は何なんだろう?私の何が良くて友達になったのか、未だにわからないし。
今、このまま告白したところでフランが私を好きじゃなかったら?

考えれば考えるほど、ネガティブなことばかり浮かんでくる。

「………。」

「…ねぇ、さんはミーと一緒だと迷惑ですかー?」

突然、フランがそんなことを聞いてきたから、私はばっと顔を上げてフランを凝視した。

「そ、そんなことない!ていうか、何で…そんなこと聞くの…?」

そう聞き返すと、フランは私から目を逸らして、私の腕から手を離した。

「最近のさんはあんまり笑わないから、ミーと一緒にいてもつまんねぇかなって、ちょっと心配でー。」

少しだけ、怒ったような表情をしたフラン。
私、フランのことを意識しすぎてたせいで、フランに心配かけちゃった…?
フランといてつまんないことなんて、全然ない。
私は席を立ち、フランを見つめた。

「それはないよ!私、フランと一緒にいるときが一番幸せなの!!」

勢いで言ってしまったとはいえ、これは結構大胆なことを言ってしまったかもしれない。
そんな後悔をして、ぎゅっと目を伏せる。
こんなの、告白したも同然じゃ…?

「よかったー、つまんないなんて言ったらこの夏休みさんを監禁しようかと思いましたー。」

恐る恐るフランの顔を見れば、フランは口の端を上げていた。

「監禁…。」

危険なことを言うなぁ、他の人が聞いてたら大変じゃ…そう思いながら、周りを見る。
クラスメイトたちはとっくに帰宅してしまったのか、教室に残っていたのは私とフランの二人だけだった。
この状況は告白しろって言ってるようなもんじゃないのだろうか。

さん、」
「おい、探したぜカエル!」

フランが私の名前を呼ぶ。
それと同時に知らない男の人が教室に入ってきた。
初めてフランと出会ったときに、フランが着ていたものと同じコートを身に纏っている。
夏だというのにこの二人は何なんだと神経を疑ってしまう。季節を先取りするにも早すぎるだろう。

「ちっ、いいとこで邪魔すんじゃねーよ。堕王子。」

私の隣でフランの呟きがボソリと聞こえた。
え、何?この二人はいったいどういったご関係なの?

「あん?この女、何?」

フラン曰く、堕王子さんが私を指差した。
私は一歩引いて笑顔を作ろうと努めた。

「ミーのトモダチのさんですー。」

「お前の友達?ふーん?」

堕王子さんが品定めするように私をじーっと見つめてくる。
なんだか本当の王子様みたいだけど、ちょっと何かがおかしいなぁと思いつつ頭を下げる。

「は、初めまして、です。よろしくお願いします。」

「オレ、王子。よろしく。」

「へ、あの…王子?」

本名が王子なのか!?
ツッコミ精神を抑えながら、目を丸くする。
するとフランがやれやれとため息をついて淡々と教えてくれた。

「本名はベルフェゴールっていいますー。まぁ、堕王子って呼んであげてください。」

「てんめー…。マジで殺す。」

そう言ってベルさんが懐から取り出したのは、ナイフだった。
それは模造品とかじゃなくて、確かに殺傷能力のある本物。
それをフランに向かって投げつけようとしている。
え、ちょっと、この人何やってんの!?

「べ、ベルさん!ダメですっ!」

咄嗟にベルさんを羽交い絞めにする。
もう、恐怖とかどっかにすっ飛んで、フランを守ることしか頭になかった。
フラン、今のうちに逃げてえええええ。

「……へぇ、お前王子に抱きつくなんていい身分じゃん?」

「あ、あの…すいません。抱きついたわけじゃないですけど。」

先程感じた殺気はいつのまにか無くなっていて、ベルさんは抱きついている私に視線を落とす。
羽交い絞めにしていた腕をすんなりと解かれ、私はベルさんに肩を抱かれる形になる。

「えっ、あ…ベルさん!?」

男の人にこんなに密着されたのは初めてだから、どうしたらいいかわからなかった。
ましてや、フランの目の前でこんなこと…。

「しししっ、王子この女気に入った。なぁフラン、こいつイタリアに連れて行ってオレの部隊入れるわ。」

「い、イタリア!?」

「ダメですよベル先輩ー。さんは一般人だし、非戦闘員ですよー。」

「一般人!?」

イタリア?ベルさんの部隊?非戦闘員?
一体、この二人は何の話をしているのだろう。

「あのー、今更なんですけど…お二人は何者なんですか?」

私の問いに、ベルさんとフランが顔を見合わせた。

「何、お前。に説明してねぇの?」

「あー。そういえば言ってませんでしたっけ?
ミーたち、ボンゴレ暗殺部隊ヴァリアーっていう殺し屋なんですよー。」

「こ、殺し屋…!!」

嘘でしょ?信じられるはずがない。だって、殺し屋なんかが学校にきてお勉強なんてする?
だけど、ベルさんのナイフは本物だし。
関係あるかわかんないけど教師たちがフランのカエルの帽子を黙認してるのだって、
フランが殺し屋だから教師たちを脅したと考えれば納得はいく。
だけど、私の片思いの相手が殺し屋って…どうなの。

「とりあえず、夏休みの間ミーたちとイタリアに来ませんかー?」



現実離れした世界




(なんか…告白どころじゃなくなっちゃったな。)


執筆:10年8月18日