高校2年の夏休み。
私は急遽イタリア旅行に行くことになってしまった。
…片思いの相手であるフランと夏休みを共に過ごせるというのだから、私は悩んだ。
両親に相談したら「旅費はどうするんだ」って怒られたけれど、一緒に説得に来ていたフランが
「旅費はミーたちがなんとかしますし、社会勉強は必要ですよー。」とか言って両親を説得してしまった。
フランとベルさんに強制的に連れてこられたようなものだけど、内心ドキドキしていた。
人生初の外国。言葉は通じないけれど、フランとベルさんも常に一緒だし、然程不安はない。
それに、だ。
「イタリアに連れてこられて今日で何日目?」
「4日目ですー。」
ずずーっと紅茶をすするフラン。
その横で私はクッキーをボリボリと食べていた。
全く外に観光を楽しみに行こうという気配がない。
折角イタリアに来たというのに、この4日間城みたいなこの家でずっとフランとのんびりしている。
初日は、こんな大きくて綺麗な貴族の家で過ごせるのか、すげぇ!と感動していたけれど、それも飽きてきた。
ここに来てから、ずっとフランと一緒だ。それは嬉しいけれど、何の進展もなかった。
ちなみに、ベルさんは任務だと言っていた。
今日帰ってくるとは聞いたけれど…本当に誰かを暗殺しに行ったのかは定かではない。
それと、この家の中は同じ服を着た人ばかりで、やっぱり組織なんだなって思った。
普通に銃とか剣とかナイフを持っているあたり、本当に暗殺集団なのだろうか。
「…さっきからクッキーしか食べてないですねー、そろそろこの状況に飽きましたかー?」
そう言ってフランがティーカップで口元を隠しながら上目遣いで見てくる。
不意打ち過ぎるフランの可愛い姿にドキッとしながら、眉間にしわを寄せる。
申し訳ないとは思いつつ、私は小さく頷いた。
「ミーはこのまったりとした時間が好きですよー。さんがいなかったら意味はないですけどねー。」
「ま、またそういうことを言う!」
「ミー、割と本気なんですけどー。」
「…っ!」
からかわれてるって分かっていても、ときめいてしまう。
ああ、片思いって恐ろしい。好きな人に言われれば、どんな些細なことでも嬉しいのだから。
フランは…私が甘い言葉を言ったら喜んでくれるのかな。
たまには、私だって。
「わ、私…フランと一緒に夏休み過ごせて嬉しい。できればずっと一緒にいたいなぁ…なんて…ね。」
自分で言ってて、すっごい恥ずかしい。顔だけでなく、体中が熱くなってきた。
グッと拳を握りながら俯いてしまう。あーあ、こんなだから私はいつもからかわれるんだよね。
自己嫌悪に陥っていると、ガシャンという音が聞こえた。
顔を上げれば、フランが咄嗟に私から目を背ける。
「び、ビックリしましたー…。まさかさんがそんなこと言うとは思わなかったから…。」
滅多に動じないフランが、動揺してる…?
えっと、これは脈ありって思っちゃっていいのかな?
でも、普段私が言わないから本当にビックリしただけなんだよね。きっとそうだ。
「ご、ごめんね。」
「平気ですー。ただ、ウブななんかに不意をつかれたのは悔しいですけどー。」
「…うん。」
ウブ、か。自分でも分かってるけれど、フランに言われるとちょっと傷つくな。
フランは私なんかとは違って女の子の扱いは上手そうだし。
今までに、どれくらいの女の子と付き合ってきたのかなぁ。
フランが、私の知らない女の子に「好き」って言ったり、手を繋いだり…したのかな。
そんなことを考えていたら、どんよりと気持ちが落ち込んできた。
今、絶対笑えない…。
「ティーカップ、割れちゃったね。私、雑巾借りてくる。」
「ミーが行きますってー…」
私は席を立ち、駆け出す。
しかし、フランに追いつかれ、私の腕は掴まれてしまった。
「何で泣きそうな顔してるんですかー?」
「…えっ?」
私、今どんな顔してるの?泣きそうな顔?
ああ、もう。きっと変なこと考えたせいだ。
フランの手に力が込められて、痛い。
「フラン、手が痛い。」
フランが「すみませんー」と手の力を緩めた隙に、勢いよく部屋の扉を開けて、部屋を出る。
どうやらフランが追ってくる様子はなく、私はほっと胸を撫で下ろす。
後でこの部屋に戻ったら、フランに会ったらなんて言えばいいのかな。
とりあえず…雑巾を借りに行こう。それで、ちゃんと謝ろう。
「…ここ、どこだっけ。」
あまりにも長い廊下の突き当たりにやってきた私は早速道に迷ってしまっていた。
同じような景色が続いているだけでなく、広いときた。
何か目印をつけながら来れば良かったと後悔する。
不安と恐怖で心が満たされた私はきょろきょろと挙動不審に辺りを見回すしかできなくなっていた。
「お、じゃん。こんなとこで何してんの?」
泣きそうになっていたところに、天の声が聞こえた。
「うぅ…ベルさーん!」
安心感からか、私の目からはぼろぼろと涙が零れてしまう。
ベルさんは一瞬驚愕したけれど、優しく私の頭を撫でてくれた。
「迷子か?ししっ、だっせー。」
図星を突かれて、私はビクッと肩を震わせた。
毒を吐きながらも私を宥めてくれるベルさん…根は優しいんだなって思った。
「もう、何でイタリアに来ちゃったんだろう…。」
自分は本当にバカだ。
勇気を出せずに告白もできず、グダグダと過ごしているだけ。
何を期待していたのだろう。何をしに、イタリアまで来たのだろう。
ボソリと呟いた言葉がベルさんの耳に届いたのか、ベルさんはニッと笑う。
「ししっ、そんなの、オレの部下になるためだろ。」
「ち、違います!!」
涙を手の甲で拭って、ぶんぶんと首を横に振って否定する。
するとベルさんは私の腰を抱いた。
「じゃあ、王子の彼女になりにだな。」
「それはないです!!」
ベルさんの胸元を押して、なんとか離れる。
ベルさんは「王子と結婚したらは姫になれるんだぜ?」と笑った。
「ここまで来たのは、あのカエルと一緒にいたかったからだろ。お前、カエルのことが好きなんだもんな。」
いきなり真面目に答えてくれたと思ったら、的確すぎる答えだった。
私は、夏休みの間もフランと一緒にいたかったからここまで来た。そのとおりだ。
でも、どうしてベルさんは私の気持ちを知っているの?
「何で、そのこと…。」
「だって、オレ王子だもん。何でもお見通しだっつの。」
傍から見たら、バレバレなのだろうか。
結衣にもバレてたし…。私って分かりやすいのかもしれない。
「フランの奴だって、同じじゃねーの?と離れたくなかったからこんなとこ連れてきたんだろ。」
ベルさんがしししっと笑いながらそう言った。
「そ、そうなんでしょうか。」
ベルさんの言葉にはとても勇気付けられる。
でも、そうだったとしても…他に理由があるんじゃないかって思ってしまう私がいる。
友達だから。フランにとって私はいつも学校でj行動を共にしていた特別な友達だから…。
だから誘ってくれたんじゃないかって、思ってしまう。
「大体、任務があるってのにサボって“気になる人がいるのでー”って
日本の学校に通うなんて言い出したんだぜ?明らかにのこと好きだろ。」
なかなか納得しない私に痺れを切らせたのか、ベルさんが強気に言ってくれた。
ベルさんの言うとおりなのかもしれない。
「…フラン。」
「ほら、フランの部屋に連れてってやるから。」
告っちまえよ!と笑うベルさん。
私はベルさんの隣であははと苦笑いを浮かべた。
好きだって伝えよう
(カワイクないコーハイに愛の手を差し伸べてやる王子…やべ、カッコよくね?)
(さん…ベル先輩に会いに行ったんならぶっ殺しますー。)
執筆:10年8月28日