ベルさんが案内してくれたおかげで、私はフランの部屋に戻ることができた。
だけど、どうしても扉の前で立ち止まってしまう。
扉さえ開けられないまま、悶々としていた。
「さっさと入れよ、マジで度胸ねぇな。」
「す、す、すいませ…でも、いざ告白するとなると緊張してしまって頭の中がパニックなのです!」
ベルさんに大きなため息を吐かれる。
王子が扉開けるぜ、と言われて私は慌ててベルさんを制した。
その時、中から話し声が微かに聞こえてきた。
「おい、お前また抱きつきやがって…本当は王子のこと好きなんじゃ…」
「ベルさん、中にフランと誰かがいます。」
しーっとベルさんの口元に人差し指を当てれば、ベルさんは不服そうに扉に顔を近づける。
「どーせ、ルッスーリアか作戦隊長だろー?」
「ちょ、盗み聞きですか。」
「だって、オレ王子だし。いや、お前も聞けって。」
王子だからって何してもいいわけじゃないと思うんだけどなぁ。
そう思いつつも、私はベルさんに習って扉に耳を当てた。
「…っ!?」
中から聞こえてきたのはフランと、女の子の声。
二人の声しか聞こえてこないってことは、部屋で二人きりってことなの?
なんだか、胸の奥で黒い感情がもやもやと湧き出てくる感じ。
「覗いてみっか。」
そう言ってベルさんがほんの少しだけ扉を開ける。
どうやらフランたちは気づかない様子で、会話を続けていた。
フランの前に、可愛らしい女の子が頬を染めて立っている。
隊服を着ているということは、彼女も暗殺部隊なのだろうと予測できた。
なんとなく、あの子もフランのことが好きなんじゃないかって思った。
「フラン隊長…折角戻って来られたのにどうして任務を受けないのです!?」
「ミーは今忙しいんですよー。」
「嘘です!日本から来た変な女と何をするわけでもなく過ごしているだけではないですか!
日本で任務を放棄したあの日以来、フラン隊長は変わってしまいました…。」
すごく必死にフランを説得しようとする女性隊員。
そんな彼女とは対照的に、フランはいつものように気だるそうに相手をしていた。
「あのー。何が言いたいんですかー?」
フランのその問いに、女性隊員は祈るように手を組んだ。
「あたしは…フラン隊長とまた任務をこなしたいんです!フラン隊長じゃないと、他の人では…ダメなんです!」
そして、フランに抱きついた。
私はその光景を目にして、へなりとその場に座り込んでしまった。
「隊長のこと、好きなんです…!」という女性隊員の愛の告白が耳に入ってくる。
フランは、私のことを特別に思ってくれてるんだよね?
だったら…拒むはずだよね。
「…ミーはだいぶ前から貴女の気持ちには気づいてましたよー。」
フランは、拒まない。
しばらくの沈黙が続いた。
やめて…。お願いだからこれ以上は…!
私は耳を塞いで蹲る。
「!?」
突然、ベルさんが私の身体を抱きしめた。
私の頭を抱えるように。それはまるで「聞くな」と言っているようだった。
ということは…フランはあの女性隊員を選んだのかな。
私はやっぱり特別な“友達”というだけだったのかもしれない。
「やっぱ、オレの彼女になっちゃえばいいんじゃね?」
「ベル…さん…。」
胸の中が苦しかった。苦しくて、切なくて、どうしようもなかった。
涙がとめどなく溢れてくる。
ベルさんはただひたすら泣きじゃくる私をぎゅっと抱きしめてくれていた。
とりあえずフランたちはお取り込み中の様子なので、私はベルさんの部屋で落ち着いていた。
泣き止んだ私は何度もベルさんに頭を下げる。
「偉大なる王子の胸を貸していただいて、濡らしてしまってすみません!」
その度にベルさんは「うぜーから、もういいっつーの!」と笑った。
「…で。さっきの返事、まだ貰ってねーんだけど?」
「え?」
突然のことに、私は目を丸くする。
「王子、さっき告ったじゃん。」
「じょ、冗談ですよね…?」
いや、だって…ベルさんはさっきまで私の恋の応援をしてくれてたんだよね?
それが、どうして…失恋した途端手のひらを返すの?とても、信じられない。
「ししっ、今回は本気だぜ。みたいなタイプ初めてだし、純情な女もなかなかいいモンじゃん。」
「いやですっ、私は…!!」
ベルさんから離れようと、立ち上がる。
しかし、ベルさんの動きは意外に早く、私はあっさりベルさんの腕の中に収まってしまった。
「しししっ、フランのことなんかすぐに忘れさせてやるし!」
「きゃ…。」
首筋にキスを落とされ、私は身を捩った。
なんとか逃げようと試みても、ピクリと動かない。
「逆らったら、殺すぜ?」
「あ……!」
チラリとナイフが視界に入る。
忘れていた、彼は殺し屋なのだ。私みたいな一般人なんて意図も簡単に殺せてしまうのだ。
逆らえば殺されるし、逆らわなくてもこのままベルさんに…。
ああ、なんて浅はかだったのだろう。できることなら、私の初めてはフランがよかったな、なんて思った。
でも、フランはもう、友達以上になることはきっとないんだ。だから、無理なんだ。
それなら、いっそ死んだ方がマシかもしれない。
「だめです!私、フランが好きなのでごめんなさい!」
「そーゆーことですのでー。」
死を覚悟して、ベルさんの頬を目掛けて拳を振り上げたと同時に大きなカエルが飛び込んできた。
ベルさんは私をベッドの上に突き飛ばして、素早く避ける。
ゴロゴロと寂しく転がるカエルの被り物。それは、大好きなあの人が被っていた…。
「フラン!?」
身体を起こして、声のした方を見ればカエルの被り物のないフランが不機嫌そうに立っていた。
ちらりと私を見て、ベルさんに視線を戻す。
「さしずめ、悪代官に攫われた姫を助けに来た正義のサムライですかねー。」
サムライなのに刀持ってないじゃんと心の中でつっこむ。
でも、私にはフランが正義のヒーローに見えた。
来てくれるなんて、思ってなかったから…すっごく嬉しい。
「ししっ、バーカ。来んのおせーよ。あと少しで本当にの唇奪っちまうとこだったぜ。」
「え…ベルさん、本気じゃなかったんですか!?」
私はキッとベルさんを睨みつければ、ベルさんは「全然怖くねーし」と笑うだけ。
私の質問に答えてくれたのは、フランだった。
「この堕王子はミーが焦るのを見て楽しんでただけですよー。」
フランの言葉に、ベルさんは得意げに胸を張った。
「しししっ。王子の演技、最高だったろ?」
「…まぁ、そのおかげでさんの気持ちが分かったんですけどねー。」
そ、そういえば私…「フランが好き」ってすごい剣幕で叫んでたっけ!?
しかもそれをしっかりとフランに聞かれたというわけで…。
でもフランにはもうさっきの可愛い彼女が…。
「私…何か言いましたっけー…?」
「とぼけないでくださいよー。」
フランはベッドに腰掛けていた私をひょいっと持ち上げた。
できれば、なかったことに
(続きはてめーの部屋でやれよ。王子もう満足だし。)
(言われなくともー。)
(え、ちょっ、ベルさーん!?)
執筆:10年8月28日