「というわけで、この度めでたく私と不破くんは付き合うことになりました! はい、拍手ー!」

 いつものメンバー略していつめんが食堂に揃ったので、私は不破くんとお付き合いし始めたことを笑顔で報告をした。私の隣で不破くんが恥ずかしそうに笑う。愛い奴よ。
 すると竹谷八左ヱ門、久々知兵助、尾浜勘衛右門の三人が歓声と共に拍手を贈ってくれる。

「おー、ついにやったか!」

「幸せにしてもらえよ、雷蔵!」

 久々知くんと竹谷くんが私の背中をバシバシ叩く。痛いなばかやろー! 特に竹谷くん貴様力加減というものを知れ! だからてめーは女子にモテないのだ! そして久々知くんそこは私に言う台詞じゃないのか!? 確かに不破くんは私が幸せにするけどね! まぁでも今は幸せだから許してあげちゃう。ふふん、リア充の余裕さ!

「私は認めてない。全力でを潰しにかかるつもりだから覚悟しとけ」

 鉢屋がムスッとしながら私を睨んだ。ふーんだ、別に怖くないし! 返り討ちにしてやんよ! ばーかばーか!
 鉢屋に向かってべーっと舌を出す私の隣で不破くんが「あはは」と苦笑する。不破くんめその困った表情も可愛いなぁ! 思わず涎が出てしまう。じゅるり。だが、鉢屋が目ざとくもそれに気付いて、すかさず私の左頬に右ストレートを決めてきやがった。

「邪な眼で私の雷蔵を見るな! この泥棒猫!」

「いったあああああい!」

ちゃん!」

 マイハニー不破くんが慌て私の頬をさすってくれる。
 ふぁああああ!! 痛みなんてどこかに吹き飛んだようだ! ジンジンするのは気のせいだ! いつまでもこうしていたい!

「三郎!何度も言うけどちゃんに暴力を振るうのは――」

「雷蔵、目を覚ませ。この女は純粋無垢なお前をぺろりと食べてしまう恐ろしい獣だ」

 不破くんは鉢屋に抗議するも、結局説き伏せられてしまった。
 ちょっと待って。それって不破くんは私を獣だと納得してしまったということなのか、ええ!?

「いい加減認めてあげなよ三郎、お菓子あげるから」

 今までお菓子を頬張りながら傍観していた尾浜くんが鉢屋に三色団子を差し出しながら、素晴らしいことを言った。そうだそうだ、もっとこの邪魔者に言ってやってくださいよ!

「そうだよ、お前邪魔なんだよ鉢屋。私たちもう恋仲なんだから引っ込んでろし!」

「あまり調子乗ってるとはっ倒すぞ。大体、私と雷蔵の邪魔をしているのはお前だ
「あーあー、聞こえなーい!」

 鉢屋が私の胸倉を掴んで何か言って来るけど私は耳をふさいで口笛を吹き始めた。

「三郎、ちゃん。お願いだから仲良くしてよ……」

「しかし、雷蔵……この女狐が雷蔵の至る所を弄くり回す姿を想像したら私は怒りでこの地球を破壊してしまうかもしれない。口吸いなんてした日には全人類を駆逐してしまうかもしれないぞ……!」

「おいおいスケールでけーな」

 鉢屋の妄言に竹谷くんがツッコミを入れる。
 もう、面倒な男だな鉢屋三郎。何度も言うけれど、不破くんの彼女は私だ。鉢屋はどう足掻いても不破くんの恋仲にはなれないんだから諦めろっての。

「そもそも、鉢屋が私と不破くんを諦めれば済む話なんですけど! 意地張ってないでさっさと消えろください!」

「誰がお前なんか認めるか! そして消えるのはお前だ!」

「んだとコラ!」

 私達が取っ組み合いの喧嘩をし始めたけれど、それは日常茶飯事なので不破くん以外のいつめんは至って冷静だった。

「前から気になってたんだけど、何で三郎ってそこまでと雷蔵の邪魔してるの? 三郎は男色なの?」

「兵助ストレートすぎ」

 久々知くんの問いかけに竹谷くんが苦笑いを浮かべた。尾浜くんはお菓子を頬張りながら何かモゴモゴ言ってるけど多分「それ俺も気になってた」と言いたかったんだと思う。
 確かに、私もそれは気になる。もう何年も前からこんな関係が続いてたから気にしてなかったけれど、よく考えてみたらどうしてここまで邪魔されなきゃいけないんだろう。本当に男色なのだろうか。そうだったらドン引きだ。
 鉢屋との取っ組み合いを中断し、鉢屋に視線を向ける。

「……私達が二年生だった頃の話だ」

 鉢屋はぽつりぽつりと話し始めた。



※ ※ ※ ※ ※



は何故私と雷蔵を見分けられるんだ?」

 当時から私は成績優秀で、自分の変装にも自信を持っていた。先生方や先輩方に褒められていて、気をよくした私は親友の不破雷蔵に変装して回りを混乱させていた。みんなが雷蔵と私の見分けがつけられない中、どうしても必ず見破ってしまうくのたまがいた。

 だ。

 元々雷蔵と仲がよかったこのくのたまと仲良くなるには時間はかからなかった。
 そしてある日、にどうして私と雷蔵を見分けられるのかを聞いてみた。

「そんなの、わかるよー! 好きな人のことだもん、いつも見てるし」

「そ、そうかっ」

 好きな人、と聞いて私の心臓は飛び跳ねる。面と向かって好きと言われた嬉しさ。初めて女の子に告白された興奮。ただの仲のいいくのたまと認識していたを特別な女の子と改めて認識した瞬間だった。

「えへへ」

 恥ずかしげに笑う彼女。これは自分も思いを伝えなくてはと思った。

「私も、のこと……好きだ」

「そうなんだ? ありがとう。私も不破くんには及ばないけど鉢屋くんのこと好きだよ!」

「――――」

 が好きなのは、私ではなく雷蔵。そう気付かされた時、私の中で黒い感情が芽生えた。
 悲しみと悔しさ。そして嫉妬。
 私をこんな気持ちにさせたに復讐したい。これはもう雷蔵との仲を邪魔するしかない。こんな女に大切な親友を渡したくない。そう思った。



※ ※ ※ ※ ※



最低だな」

「三郎が可哀想」

 鉢屋の話が終わり、久々知くんと竹谷くんが軽蔑の眼差しで私を見てきた。
 いやいやちょっと待て。おかしいだろ! 私は鉢屋に告白されたのか!? そんなの知らない! 記憶に全くない! でも当の本人が言うのだから……そうなの、かな。

「は? え? いや、違うんです、当時から私は不破くんしか見えていなくてまさか鉢屋に告白されたなんて思わなかったんです!! そもそも、いくら昔のこととはいえ、鉢屋が私を好きとか、ありえない!」

 私が必死に否定していると、久々知くんがにこりと笑う。

「まぁ……は今ではこんな可哀想な子に育ってしまったけど、昔はどこか儚げで可愛かったし。三郎に邪魔されるようになってから、だいぶ逞しくなったよね」

「可哀想って言うな!」

 なんて失礼な!
 しかし、鉢屋の度重なる妨害のおかげで肉体的にも精神的にも鍛えられたことは認めよう。

「で、雷蔵はどうなの? 親友が昔自分の彼女を好きだったとか」

 尾浜くんがお菓子を食べることを中断し、真剣な面持ちで不破くんに問いかけた。

「うん、確かに昔の三郎は一時期ちゃんのことばかり話してた気がする。でも、ある時から手のひらを返したようにちゃんをいじめるようになったからどうしたんだろうと思ってたけど、そんな理由があったんだね……って。それで――」

 話をしている不破くんの表情が徐々に曇っていくように見えた。だから私は慌てて不破くんをぎゅっと抱きしめる。

「大丈夫だよ不破くん! 私は昔も今も不破くん一筋!」

黙ってろ、お前には何一つ聞いてない」

 あっさりと鉢屋に引き離された。「鉢屋ぶっころす」と言おうと口を開いた瞬間、不破くんが私の手を取ってぎゅっと握り締めた。熱くて少しだけ汗ばんでいる、不破くんの手。

「不破くん……?」

「三郎は、まだちゃんのことが好きなの?」

 不破くんの言葉に、鉢屋が眉間に皺を寄せる。不破くんの体が少しだけ震えていて、それが繋いだ手からダイレクトに伝わってきた。

「……そんなわけないだろ、雷蔵。一時期でもこんな奴を好いていたなんて、人生の汚点だ」

 鉢屋の答えに、ほっと胸を撫でおろす不破くん。

「そっか、よかった! 三郎もちゃんを好きだったらどうしようかと思っちゃった」

「それはないから、雷蔵、その汚い手を放さないと汚れてしまうぞ!」

 それはないよ。そう笑う不破くん。

 ――不破くん、鉢屋が私を好きだって答えてたらどうなってたんだろう。





執筆:13年06月3日