今日は不破くんと町でデート!
 結局、先日のデートは鉢屋のクソッタレのせいでおじゃんになったからね! 今回は不破くんから誘ってくれたし、竹谷くんを脅して引き出した情報によれば不破くんは頑張ってデートコースを考えてくれたらしい。
 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバすぎる! 不破くんが私の為に考えてくれてるだなんて、嬉しすぎる!!

 めいっぱいお洒落して、不破くんとくのたま長屋で待ち合わせ。もう、あんなことにならないように不破くんが長屋まで迎えに来てくれるというのだ。どうしよう、私の彼氏優しすぎる。不破くんは菩薩様の生まれ変わりなんじゃないだろうか。

ちゃーん!」

 私がぼんやりと不破くんが菩薩様の生まれ変わりである108の理由を考えながらニヤニヤしていると、不破くんが笑顔で手を降りながら駆け寄ってくるではないか。不破くん……好きだ!

「不破くんっ」

 私は今、笑顔になれているだろうか。ニヤけて変な顔になっていないだろうか。
 不破くんに手を振り返して小走りで不破くんに近付いた。お洒落したはいいけど、やっぱり袴に比べると動きづらい。お互いの手が届く距離まで近付くと、私たちは足を止めて笑い合った。

「待たせちゃってごめんね……あの、ちゃん、すごく可愛い」

 おゥふ!! 不破くんが私を殺しに掛かってきやがった!! 不破くんの照れた顔と殺し文句に早くも私の心臓に大ダメージだ!

「ふ、不破くんこそいつもより気合い入ってるというか、何だかかっこいいよ!」

 特に髪型なんて超決まってる。当社比。はあああ! 不破くん素敵! 世界の誰よりも素敵!

「ありがとう、いつもより頑張ってみた甲斐があったよ」

 顔を真っ赤にしてニコッと嬉しそうに笑う不破くんが可愛すぎて、私はもう死んでもいいと思った。

「それじゃ、行こうか!?」

「うん!」

 不破くんが顔を真っ赤にしたまま踵を返した。クフゥ、照れ隠しですね!? 可愛いですね!!
 スタスタと早足で歩いていく不破くんに私が小走りで着いていったら、不破くんはバッと振り返って「ゴメン!」って駆け寄ってくれた。不破くん、好きだ。
 それから不破くんは私に合わせてゆっくりと歩いてくれる。不破くん、好きだ。

 小松田さんに外出届を預けて学園を出る。

「まずは雑貨屋さんなんてどうかな?」

 不破くんが考えたデートコースの最初は雑貨屋さんらしい。雑貨屋さんといっても町には何件かあるからなぁ、どこに連れて行ってくれるんだろう!

「…………」

「…………」

 沈黙が続いた。黙々と歩く私と不破くん。あれ、どうしてだろう、空気が重い……!?
 不破くんの後ろを歩きながらソワソワしていると、不破くんが振り返った。

「つ、疲れてない!? 大丈夫?」

 焦ったような表情で私を見つめてくる。えっと、まだ学園を出たばかりなんだけど……どうした不破くん。

「だ、大丈夫だよ!」

「そ、そっか! 疲れたらすぐに言ってね!」

 もしかして、私が動きづらい格好をしているから気を遣ってくれているのか……!? 不破くん、好きだ。

 手を――繋いでしまおうか。

 ふと、そんな考えが過った。恋人らしくいちゃつきたい、不破くんに触れたい。だから私はそっと不破くんの手を取ろうとした。

 ――その時、背後に殺気を感じた。

「……チッ」

 思わず舌打ちをしてしまう。

「ど、どうしたの? ちゃん?」

 私の舌打ちに気付いた不破くんが不安そうに目を瞬かせた。

「ちょっと急ごう、不破くん! 私、早く雑貨屋さんに行きたいなっ!」

「う、うん……!」

 不破くんを急かしても、こいつを撒けるとは思えない。だけど、だからといって後をつけられながらこんなひと気の無い場所をのんびり歩いている気にはなれない。そして、不破くんはきっと気付いていないだろう。
 くっそ、鉢屋てめーこっそり後つけてきてんじゃねーよ! 畜生あいつ今度は何をしてくるつもりなんだ!



※ ※ ※ ※ ※



雑貨屋さんに着き、テンションが上がった。色とりどりの可愛い小物たちに囲まれて思わず頬が緩む。

「見て、これなんてちゃんに似合いそう!」

 いつもより若干声のトーンが高い不破くんが、桃色の簪を手に取った。可愛いデザインのものだ。やばっ! 不破くんが選んでくれた! か、か、買ってしまおうかしら。

「可愛いー! 私の好み、よく知ってるね!」

 まぁ、不破くんが選んでくれたものならなんでも好きだけどな!

「だって、僕は前からちゃんのこと気になってたし、いつも見てたから……」

「不破くん……」

 何それそんなの初めて知った!! えぇ!? ということは前から私たちは両思いだったの? うぐぐ、もっと早く告白していればよかった!

 そう思った時、再び背後から鋭い殺気を感じた。
 振り返ると、お店の入口でこちらを覗いている鉢屋と目があった。

「…………」

「…………」

 鉢屋め、やっぱりついてきやがったか。何気に苦無をチラつかせてやがる。人の恋路を邪魔する最低野郎め! 臍噛んで死ね!

「不破くん、そろそろ次に行こうか!」

「えっ」

 簪を置き、不破くんが不思議そうに私を見た。ごめんね不破くん。
 鉢屋にいつ攻撃されるかわからない、死角の多いこの場所に留まるなんてそれすなわち敗北なんだよ。



※ ※ ※ ※ ※



 結局、どのお店に行っても鉢屋がついてきた。
 お昼に美味しいと評判のうどん屋に連れて行ってもらっても鉢屋が店員に変装してて……とにかく全くデートに集中できずにいた。あいつマジでいつかぶっ殺す。

「ねぇ、ちゃん……僕とのデート、楽しくないよね……」

 帰り道、まるで一年ろ組の子たちの様な顔をした不破くん。
 しまった! 鉢屋のことを気にしすぎて、デートに集中出来てないことがバレてる。鉢屋あの野郎め、これを狙っていたのか! 不破くんには余計な心配をさせたくなかった。でも、もうここまできたらカミングアウトするしかない。

「違うの……。不破くんは気付いてるかわからないけど、私たちずっと鉢屋につけられてるから気になってしまって」

「えっ、三郎……?」

 私の言葉に不破くんは辺りを見回し、ある一点を見つめてため息をついた。

「なるほど。ちゃんがずっとソワソワしてた理由はそれだったんだね……」

 うわわわわわわ、不破くんを落ち込ませてしまった!私がもっと上手く鉢屋を対処できてれば……。

「ごめんね不破くん。もっと早く言えばよかったね……」

「ううん、僕こそごめん。言われるまで気付けなくて。言い訳になっちゃうけど、ちゃんとデートできることに一人で浮かれちゃってたんだ」

 なんて嬉しいことを言ってくれるのこの天使。

「私だって! 鉢屋の存在に気付くまではすごく浮かれてた! なんていうか、鉢屋が邪魔してくるのはいつものことだけど……初デートだったのに、なんだか悔しいよね」

 鉢屋に邪魔されなければ、もっと素敵なデートになったかもしれないのに。もっと不破くんに触れたかった。手を、繋ぎたかったなぁ。

「それじゃあ……三郎に見せつけちゃわない?」

「え?」

 そう言って不破くんは私の手を取り、指を絡めてぎゅっと握った。温かいというより、熱い不破くんの手に驚いて不破くんの顔を見ると、真っ赤になりながらもう溶けてしまうくらいに汗だらだらだった。
 すごく勇気を振り絞って手を繋いでくれたんだ……!

「不破くん!」

「あっ、あの……!今は、僕だけのことを考えて欲しいから……!!」

 どうしよう、私、今死んでも普通に成仏できるわ。

「――うん!」

 私の頭の中はいつだって不破くんでいっぱいなんだぜ!
 それ言ったら流石に引かれると思ってた私は自重した。



執筆:13年07月25日