叔父上が学園長への用事で忍術学園に来るという内容の文が届いた。追伸にいちいち「パパが火縄銃の撃ち方を教えるので予定を空けておきなさい」とか書かなくても……。しかも「パパ」の所だけやたら強調されているあたり、流石だよね。叔父上はそんなにあたしにパパって呼んでほしいのか。パパなんて呼ばないけど。

「照星さんがいらっしゃるのか……!?」

「うわあああ! どこから現れたの田村くん!」

 あたしの背後からひょっこり現れた田村くん。
 ちょっと待て、ここはくのたま長屋だぞ、あたしの部屋だぞ!? もちろん男子禁制でここまで来るのにえげつない罠が仕掛けられていたはずなのに、それらを全て抜けてきたというのか!?
 とにかく、同室の子がいなくてよかった。あの子がいたら田村くんは死刑確定だ。

あるところに田村三木ヱ門ありだ!」

「決め顔でカッコイイこと言おうとしてんじゃねーよ、ただの不法侵入じゃねーか。それと、勝手に人の文を読まないでくれる?ストーカーに不法侵入にプライバシーの侵害……田村くんは押しちゃいけないボタン押しすぎだよね?」

 あたしが鋭く田村くんを睨みつけるも、田村くんはニヤリと余裕の笑みを浮かべて腕を組んだ。

「敵に隙を見せ情報を盗まれてしまうとは、も甘いな。だがそこが可愛いんだよなぁー! ドジっ子に私は萌えキュンだ! あぁ、なんて可愛いんだー!」

「なら、情報を盗んだ敵を消してしまえば解決だよね。よし、消えろ田村くん!ひな子ちゃんファイアー!」

「わぁあぁああ!! すまなかった! 許してくれ!!」

 ひな子ちゃんの銃口を田村くんに向けると、田村くんは悲鳴を上げて部屋の隅に逃げた。まったく。
 ひな子ちゃんを収めて田村くんに座るように促すと、田村くんは大人しくあたしの前に正座した。

「今、叔父上は学園長とお話中なの。そのあとに火縄銃の扱いを教わるんだけど、田村くんも来るよね?」

「私もいいのか!?」

 あたしが誘ったことが意外だったのか、田村くんは目を丸くする。大好きな「照星さん」に会えるのだから田村くんなら完全拒否してもついてくると思ったのに……そのつもりはなかったのか。そういえば、田村くんって叔父上の前だと妙に大人しかった気がする?

「え……だって田村くんは叔父上のこと大好きでしょ? いいに決まってるじゃない」

の方が大好きだけどな!」

「……っ!」

 何でそういう恥ずかしいことを堂々と言えるのかな、田村くんは!!

「あ、赤くなった! 本当に可愛いな、は! 早く私のお嫁さんになってくれよ!」

「田村くんと結婚する予定はあたしの未来予想図にはないし、いちいち抱きつくなっつーに!!」

 田村くんの甘い言葉に思わず赤くなったあたしと、それに気付いて抱きついてくる田村くん。大体、付き合ってすらいないのにお嫁さんとか気が早すぎる。
 田村くんはあたしの返事に落胆したけれど、すぐに立ち直った。

「ところで、はいつまで照星さんを叔父上と呼ぶんだ? 前にも言ったが、父上と呼んで差し上げたらいいのに」

 そして、痛いところをついてくる。この話は前にもしたけど……どうしても恥ずかしくて父上って呼ぶことができないんだよね。

「……そりゃ、あたしも父上って呼びたいよ。だけど、今更呼び方を変えるなんて、なんか変じゃないかなって思って。そう思ったらもう今更父上なんて呼べないなぁ……なんていうか、気づくのが遅かったのかもね」

 そう自嘲すると、田村くんは少し考えてからあたしから離れた。座ったまま抱きつかれていた為地味に体重を掛けられていたので、田村くんが離れた瞬間ふわっと軽くなった。

「いや。の場合は、呼び方を変えたい気持ちがあるのだからあとはきっかけさえあればいいのだと思う」

「きっかけかぁ……そもそも、きっかけを作ること自体大変だよ?」

「なら、私がに『照星さんのことを父上と呼べ』と言ったから。それをきっかけにしたらいいんじゃないか?」

 つまり、田村くんをきっかけにして父上と呼んでみろと……そういうことか。確かにそれだったらいきなり「父上」って呼んでもあまり恥ずかしくない。

「田村くんに言われたから、父上と呼ぶ……うん、頑張ってみる」

なら上手くいくさ! よし、決行はこの後照星さんに会ったときだ!」

 田村くんは楽しそうに腕を挙げて「頑張れ!」と声を上げた。



※ ※ ※ ※ ※



 しばらくしてから、学園長と叔父上が話を終えたとの連絡を受けてあたしと田村くんは叔父上との待ち合わせ場所である練習場へと向かった。

「照星さん!」

 叔父上の姿を見つけ、二人で駆け寄る。すると叔父上は表情を緩めて火縄銃を取り出した。

「田村三木ヱ門も来たか。よし、今日は二人まとめて教えよう」

「はいっ! よろしくお願いします! 照星さん!!」

 田村くんが叔父上に礼儀正しく頭を下げた後、ちらりとあたしを見る。合図だ……!

「あの、よろしくお願いします……父上!」

 一瞬、時間が止まったように思えた。叔父上が目をこれでもかというくらいに見開いて、あたしを凝視している。

「……、今、何と……!」

「ち、父上と呼んだことですか!? えっと、これは田村くんがそう呼んで差し上げろと言ってきて……!!」

 急に恥ずかしくなってしまい、あたしは叔父上から目をそらした。田村くんに助けてと目で訴えるも田村くんはただ微笑んでいるだけ。どうしよう、叔父上を驚かせてしまったよね……!?
 あたしが不安に思っていると、叔父上はゆっくりとあたしを抱きしめて嬉しそうに微笑んでくれた。

「それでも、父と呼んでくれた。ありがとう、

「父上……」

 喜んでくれた。やっと父上と呼べた…。この達成感。父上のことは大好きだったけれどどこか壁を感じていた。だけど父上って呼んだら、その壁がなくなった気がする。
 きっと、あたしが自分で壁を作っていたんだ。なんて愚かだったのだろう。ようやく、あたしと父上は親子になれたんだなって思った。



※ ※ ※ ※ ※



「あの、照星さんにお話したいことがあります」

「……どうした、田村三木ヱ門」

 父上が帰る間際に田村くんが父上を呼び止めた。

「はい、その……のことなのですが」

「は? あたし?」

 田村くんが畏まって父上にあたしの話をするって何だ、どういうことだ。嫌な予感しかしない。
 あたしと父上は顔を見合わせて田村くんの次の言葉を待っていると、田村くんは突然父上の足元でズザァ!と音を立ててスライディング土下座を決めた。

「私、田村三木ヱ門はのことを愛しています! を私にください!」

「田村ァァァアアアアア!! いきなり何を言い出すんだコラァァアアアア!!」

 父上の前では大人しく常識のある友人・田村くんだと油断していたあたしがバカだった! いや、大バカでした!田村くんはやっぱり田村くんだった! 父上と呼べるようになるきっかけを作ってくれたことに感謝してたけど、一瞬で感謝の気持ちが吹き飛んだわ!

「すまない、。今大切な話をしているんだ。少しだけ黙って聞いていてほしい」

「……う」

 あれ、何だろうこのふざけているようで真面目な雰囲気。あたしは思わず息を飲んで田村くんを殴り飛ばそうとしていた拳を静かに下ろした。

「……」

 父上は父上でじっと田村くんを見ている。うわぁ、なんだこの結婚の許しを貰いに来た彼氏を見るような父親の目をした父上は。なんだかガチっぽいから今すぐに止めてほしい。田村くんはあたしにも黙って聞いてほしいって言ったけどあたしは今すぐここから逃げ出したい。もしくは第三者のフリをしたい。

「今はまだ私はに好かれていませんし、むしろ鬱陶しがられています。ですが、いずれに好きになってもらい、彼女と共に生きていきたいのです。照星さんが大切に育てこられたを必ず幸せにします!」

 ちょっと待て。あたしと田村くんは友達だよね? どうして大切なステップいくつもすっ飛ばしてあたしの親に結婚の許しを貰おうとしてるの? 意味わかんない。いや、思い返してみたらプロポーズ、告白、された気はするけどね? でもそれってあたしの意思はまるで無視だったじゃん!
 でも……こんな真面目な顔をして「幸せにします」なんて言われたらドキっとしちゃうよね……って何を考えているのだあたしは! ウワアアア目を覚ませー!

「もし、万が一に好きになってくれた暁には……私にをください」

「……いいだろう」

 父上がまさかの一発OKを出した。

「ち、父上!?」

 あたしは慌てて父上の腕を掴んだけれど、父上はまったく動じずに田村くんから目を離さない。
 え、二人の世界ですか。すいませーん、一応あたしも関係者なんですけれどー……。

「田村三木ヱ門、君の熱意……そしてへの気持ち。私は君ならば大切なを任せられると思った」

「ということは……」

を頼む。ただし、が君のことを好きになったらの話だがな」

「照星さん……ありがとうございます! この田村三木ヱ門、必ずを惚れさせてみせます!」

 二人で勝手に話が盛り上がっている。田村くんと父上がガシッと握手を交わしているのをあたしはただ呆然と見ているしか出来なかった。
 何故だ、何故なんですか父上。あたしにはわからない。どうして父上が田村くんとあたしの結婚を許したのかが……! 解せぬ。

「父上、何故勝手にそのようなことを……」

、田村三木ヱ門は真剣にお前のことを考えてくれている。あとはお前次第だ」

 父上はどことなく清々しい表情であたしの頭をぐしゃしゃと撫でた。頭巾の中で大惨事。ギロリと田村くんを鋭く睨むと、田村くんはだらしなくえへえへと笑っていた。ダメだこいつ早くなんとかしないと。



執筆:13年5月2日