予算会議と書いて合戦と読む。いつだったか潮江先輩がどや顔で言い放っていたことを思い出した。各委員会がそれぞれ少しでも多くの予算をもらうために会計委員会に提出した希望予算について申し開く、忍たまたちのイベントだ。
 まさかその合戦にくのたまのあたしが参加することになるとは思いもしなかった。そりゃあ、憧れの久々知先輩に「も出てくれるよな?」って言われたら出るしかない。久々知先輩ファンのくのたまたちは怖いけど、断った時の久々知先輩の方が怖かった。久々知先輩の大好きな豆腐をあたしに差し出してきてこの世の終わりのような顔で「、とっておきの豆腐をあげるから頼む……!」ともう必死だった。
 あたし、そこまで豆腐に愛はないのですが……!
 結局久々知先輩に押し切られて参加することに。



※ ※ ※ ※ ※



 参加してみて思ったのは……こりゃ酷ぇ! まだ体育委員会しか見てないけれど、本当にここは戦場かと錯覚するほどに会計委員会と体育委員会が戦っていた。遠目からだったものの田村くんはそれに臆することなく進行をしていてカッコイイなぁと思ったけど、途中で平くんが出てきてから暴れだしたため、安定の田村くんだな…と目を細めたあたしだった。
 そして体育委員の七松先輩が大暴れした後、我ら火薬委員会の順番が回ってきた。

「次の方、どうぞ……って、!?」

「やっほー。田村くん」

 田村くんがあたしを見て目を見開いている。うんうん、ビックリしてる。昨日田村くんがユリコたちやあたしそっちのけで忙しそうに予算会議の準備してるからなんとなく会計委員会を手伝ったけど、今日のことは言ってなかったしね。
 田村くんの後ろでは会計委員の面々もハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。

はいつも火薬委員会の仕事を手伝ってくれているから、今回の予算会議にも来てもらったんだよ。彼女がいれば、田村は容易に釣れるしね」

 久々知先輩がにこりと笑った。出た! 久々知スマイル! 説明しよう、久々知スマイルとは久々知先輩がどんなにゲスい言葉や腹黒い言葉を吐き出しても何故か全てを許してしまえる久々知先輩必殺のサワヤカな笑顔である! 但しこれは女性と一部の男子にしか効き目はない。(当社独自の調べによる)

「なるほど、を使ってうちの田村をたぶらかす作戦だな。久々知……お前も相当汚いな」

「使えるものは何でも使うのが、忍者ですからね」

「ほう……。しかし、そう簡単に予算は渡せんな」

 久々知先輩と潮江先輩が一触即発な空気を作り出している。普段人のいい久々知先輩があのおっかない潮江先輩と対等に渡り合ってるなんて……久々知先輩は本気だ! こうなったらあたしも自分の忍務を全うしなければ!

「火薬委員会に予算をくれないの? 田村くん」

「うっ……」

 あたしが首を傾げると、田村くんが息を飲んだ。もう一押しかな。ここいらでくのたまの実力を見せつけよう。あたしは田村くんに寄り添い、田村くんの忍装束をきゅっと握った。トドメに、必殺上目づかい。

「火薬委員会に予算欲しいなー……?」

「よし、火薬委員会に予算を回そう」

 田村くん攻略完了。

「田村ァァァァァァァ!!!」

 しかし、最後の砦……いや、魔王は黙っちゃいなかった。潮江先輩は10kg算盤で田村くんをぶん殴ったのだった! 容赦ねぇ!!

にホイホイされすぎだ! 田村貴様それでも忍者か!? 、お前も何故火薬委員会に組する! 会計委員会の手伝いもしていただろうが! こうなったら正々堂々俺と戦え!」

「えーと、それは無理ですね。まるで勝てる気がしません」

 潮江先輩が喚くも、あたしは久々知先輩とタカ丸さんの後ろに隠れて「てへぺろ☆」と可愛くウィンクしてみせた。潮江先輩はイラっとしたようで更に怒ってしまったみたいだけど田村くんは違い、なんと潮江先輩に掴みかかった。

「潮江委員長! は悪くありません! は可愛いから何をしても許されるんですよ!? 可愛いは正義です! 火薬委員会に、いやむしろに予算を回しましょう!」

「田村、わかった。お前はちょっと黙っててくんねぇかな。うぜーわ」

 潮江先輩は掴みかかる田村くんをいとも簡単に引き剥がし、ため息をついた。

「思ったより田村は使えませんでしたね、タカ丸さん」

「そうだね、残念だねぇ、久々知くん」

 久々知先輩とタカ丸さんがその様子を見て苦笑していると、田村くんが怒り出す。

「そもそも久々知先輩! あなたいつの間にかを名前で呼び捨てにしていますがどういうことか説明して下さい!返答によっては蜂の巣にします!」

 え……あたしが久々知先輩にって呼ばれてたって!? 一体いつ!? そんな、全然気付かなかった……しかし何故。
 慌てて久々知先輩に目を向けると、久々知先輩は真面目な表情でまっすぐに田村くんを見ていた。

「……その理由は田村、お前が一番よく理解出来るはずだよ」

 なるほど、田村くんを挑発させる作戦か! 案の定、田村くんは久々知先輩の挑発に乗って火縄銃を構えだして団蔵くんと左吉くんに止められている。久々知先輩はあたしを見てニコッと笑った。
 それにしても、折角名前で呼ばれていたのに気付きもしなかったあたしのバカ。勿体無すぎだ!

「久々知先輩殺す! 末代まで呪う!」

 田村くんが声高々に殺人宣言した。えーー……名前で呼んだくらいでそこまで怒らなくてもいいんじゃないかなぁ。タカ丸さんにだってちゃん付けではあるけれど名前で呼ばれているし。

「たかが名前を呼んだくらいで、田村くんも仕方ないね」

 あたしが苦笑したら、何故か伊助くんと三郎次くんにため息をつかれた。

先輩、わかってないですね」

「鈍すぎですよ、先輩」

 二人はが呆れた顔で声をあせて「ねー」と言いった。
 鈍い? どういうことなの。普段あまり仲がよくないこの二人をシンクロさせてまで呆れさせるとかこれはかなり重大なことなんじゃないか!? 田村くんがあたしを好きで、そのあたしを名前で呼んだ久々知先輩に嫉妬してるんでしょ? あたし、ちゃんとわかってるよね? それとも他の理由……?

「ちっ、田村が使い物にならねぇ! 火薬委員会、お前たちの雑費はなしだ!!」

 収拾がつかなくなり、潮江先輩が声を上げた。
 結局、火薬委員会は最低限の予算で今期を乗り切らなくてはいけなくなりましたとさ。



執筆:13年5月1日