田村くんのことを好きだというくのたまの後輩と田村くんが、一緒に昼食を食べていた。二人はまだあたしに気付いていない。だからあたしはコッソリと食堂から抜け出した。
最近、田村くんと例のくのたまが一緒にいることが多くなってきた気がする。それは別に悪いことじゃない。きっといいことなんだ。だって、二人がくっつけばあたしはようやく田村くんから解放されるのだ。
――もう、追いかけられることもないのだ。
「田村先輩とあのくのたま、仲良いですよね」
「三郎次くん」
三郎次くんも昼食を食べ終えたところなのか、食堂からひょっこりと出てきた。
「先輩も、久々知先輩に対してあんな風に積極的になればいいのに」
「な、何言ってるの! 三郎次くん!」
三郎次くんはどうも私と久々知先輩をくっつけようとしているようで。最近はそれが特に顕著になってきた気がする。
「僕は先輩と久々知先輩が恋仲になればいいと思うんです。だって、久々知先輩は先輩が委員会に来るとすごく嬉しそうなんですよ。ちなみに、伊助も僕と同意見です」
「久々知先輩が……」
もし、それが本当ならどんなにすごいのだろう。憧れていた久々知先輩と、両想い……。でも、そしたら田村くんと私の関係ってどうなってしまうのだろう。
――いや待てオイ、田村くんは関係ないだろ何考えてんだお前はバカなの死ぬの?
そうだ、田村くんなんて関係ねーよ! あたしと久々知先輩が畏れ多くも仮に両想いだったとして、もし付き合うとかなったら、田村くんなんて関係ないから!!!
「……先輩、大丈夫ですか?先ほどからゴ●ゴみたいな顔になってます」
ゴル●ってゆーな。
「大丈夫だよ、三郎次くん。突然の脳内会議が始まっただけだから。発作みたいなもんだから」
三郎次くんにジト目で見られて、私は苦笑いした。
「ちゃん、三木ヱ門くんといつくっつくの?」
突然、タカ丸さんが心配した様子であたしの顔を覗き込んだ。
うおおおおおおタカ丸さん、いつからそこに! やるじゃねぇかタカ丸さん! ってか、まってまってタカ丸さん。何故あたしが田村くんとくっつかねばならないの。
「タカ丸さん、何を言ってるんですか。先輩は久々知先輩の彼女になるんですよ! 頭大丈夫ですか?」
「ひ、ひどいよ三郎次くん……」
三郎次くんの暴言に、タカ丸さんは思いっきりヘコんだ。相手がタカ丸さんとはいえ、先輩に対して物怖じせずにすげーな三郎次くん。将来が楽しみだ。きっと大物になりやがるぜ。
「でも、このままじゃダメだよちゃん。もし仮に、三木ヱ門くんが他の女の子と恋仲になっちゃったら、どうするの? 今までみたく、ユリコちゃんたちの散歩もできなくなっちゃうんだよ?」
――ユリコちゃんたちとの散歩。
それは、もうあたしの生活ので一部で日課になっていたことだった。田村くんが他の女の子と……あのくのたまの子と恋仲になったら、もうそれもできないんだ。逆に、あたしが久々知先輩と付き合っても、それはできなくなってしまうだろう。田村くんとは今までのような関係ではいられなくなるんだ。
……いや、でも、田村くんは最近あのくのたまとよく一緒にいるし、二人が付き合うのも時間の問題なんじゃ。
「……そんなの、あたしは別に構いません!」
構わないはずなのに、すごくイライラする。
「!こんなところで何してるんだ? ……って、タカ丸さんと池田に挟まれて!? 浮気か、浮気なのか-----!!」
そんなイライラしているところに、田村くんがやってきた。そのすぐ後ろにはあのくのたまがいて。
「は? 浮気? あたしが誰といようと田村くんに関係ないじゃん。彼氏面しないで!」
「機嫌が悪いのか……もしかして、月の物?」
「死ね!!」
デリカシーのない田村くんを蹴り飛ばし、私はギリギリと歯ぎしりをしながら自分の部屋へと戻った。
※ ※ ※ ※ ※
放課後、田村くんのクソヤローのせいでイライラはするけれども今日は火薬委員会の活動の手伝いをすることになっていたので、委員会にはしっかり出ていた。
「今日はご機嫌ナナメだな」
火薬の在庫を数えていると、久々知先輩がぽんぽんと頭を撫でて下さった。突然のことに、私は目を丸くする。
「い、いえ! 別にそんなことはっ」
「いつも綺麗な字を書くのに、今日は一年は組の加藤団蔵のような字じゃないか」
「おうふ……」
久々知先輩にバレバレだった。くそう、久々知先輩に変な姿見せちゃったぜ。
「……少し、休憩にするか」
「はい」
私は優しい久々知先輩に連れられて煙硝蔵を出た。外は晴れていて、風も気持ちよくて、これはお散歩日和だなぁって思った。
田村くんは今頃、ユリコちゃんたちの散歩をしているのだろうか。
……って、だから何でいちいち田村くんのことを考えるんだあたし!?
「最近、田村と一緒にいないんだな」
しかし、久々知先輩も考えていたのは田村くんのことだった。
「まぁ……最近はあたしを追いかけるというより、あるくのたまに追いかけられてますから、彼」
「それでも、私が好きなのはただ一人だけどな!」
そして現れた、田村くん。いやいやいや、お前ずっとその木の陰に隠れてたのかよ。
「……何でそんなとこにいるん」
「あの子から逃げ隠れてたのと、に会いたくて……来ちゃった」
語尾にハートをつけてウインクをバチンッとしやがる田村くんに、あたしと久々知先輩はドン引きした。しかし、田村くんはそれに構わず、木の陰から出てきて早速あたしに抱き付いた。
「はぁー、やっぱり私はの傍が一番落ち着く……早く祝言を挙げよう、?」
そして、抵抗するあたしに己の唇を近づけてくる。
「ギャアアアアアアアア!!!」
「そこまでだ、田村」
久々知先輩が火薬壺で田村くんの頭をぶん殴り、あたしの唇は守られたのだった。久々知先輩こそが、あたしの英雄だ。王子様だ。
「げげ! また田村先輩が先輩にちょっかい出してる!」
騒ぎを聞きつけた他の火薬委員たちが集まり、地面に伏している田村くんを見て各々反応した。伊助くんは顔を真っ青にして、三郎次くんは田村くんをすごい目で見てる。タカ丸さんはすぐに田村くんに駆け寄り、「大丈夫?」と田村くんの身体を支える。天使か。
「久々知先輩、邪魔しないでください! 最近私は邪魔されてばかりでとのスキンシップが足りな過ぎて瀕死なんですよ!」
田村くんがタカ丸さんに支えられながらよろよろと立ち上がる。
いや待て、どちらかといえば、だ。
「田村くんの存在が今火薬委員会の邪魔をしているんですがね?」
あたしの放った一言に、田村くんがダメージを受け、「そんな……ひどいよ……!!」とわんわん泣き出す始末だ。まったくもう。
「わかったよ、田村くん。委員会が終わったらあとで一緒にユリコちゃんたちの散歩に行こう? だから、今はおとなしくしてて?」
「ええええ、一時間一分一秒たりともと離れたくない……!!」
「はぁ……三郎次くん、伊助くん。委員会活動の邪魔になるから田村くんを追い返して」
「「は、はいっ!」」
田村くんはそのまま伊助くんと三郎次くんに引きずられていった。
※ ※ ※ ※ ※
そして委員会が終わり、あたしは田村くんのところへと向かったけれど
――田村くんは姿を見せなかった。
執筆:14:年9月24日