会計委員長の潮江先輩に呼び出された。何かやらかしてしまったのだろうかガクブルとしていたら、そうではなくどうやらただ会計委員会の手伝いとして帳簿の記入を手伝ってほしいらしい。
 ちょっと待って下さいよ。昨日は火薬委員会の手伝いで今日は会計委員会の手伝いとか、あたしに放課後の自由はないのか!
 しかし、予算会議でかなりの粗相をしてしまったから逆らうわけにはいかないので、仕方なく手伝いに来たけど……この状況は何だね。安藤先生のお部屋の前で潮江先輩が仁王立ちしていてその隣には左門くんが控えている。

! ようやく来たか!」

 嬉しそうにニコニコ笑う潮江先輩。すいません、不気味です。

「何ですか、どうして部屋の前で待ち構えているんですか」

「……少し事情があってな」

 潮江先輩にこっそり中を覗いてみろと言われ、何故か閉められていた襖を少しだけ開いて中を覗く。部屋の中には田村くんと、田村くんにピタッとくっついてウットリしているくのたま。
 よく知らないけど顔は見たことある。後輩だ。
 田村くん、目の下に隈ができてる。潮江先輩みたいで可哀想。きっと徹夜で死んだんだな。それにしても、あのくのたまは一体……もしかして、そういうことか!

「なるほど、やはり田村くんも顔だけはいいからモテるんですね。いやぁよかったよかった」

「よくねぇだろ!!」

 あたしが一人で頷いていると、潮江先輩が殴りかかってきたので間一髪のところで避ける。ちょっと、乙女になにしやがるんですかこの野郎!

……あのくのたまをなんとかしろ。昨日からずっとあの調子で田村はもちろん俺たちも仕事が捗らん! お前、田村の嫁だろ?」

 ホワァァアッツ!? 何言ってるんですかきもんじ先輩! 誰が誰の嫁ですってあああああああああああん!?
 ――などと言えるはずもなく。

「……よ、嫁じゃないです」

 運命は時に厳しい。

「そうなのか? 田村の奴、お前の父親の照星さんに結婚の許しを貰ったから結婚するんだと浮かれていたぞ? お前のこと、嫁と呼んでいたし」

 な ん だ っ て ! ?

「田村貴様そこに直れエェアアアア!!!」

 スッパーーーンと勢いよく襖を開け潮江先輩から10kg算盤を強奪し田村くんに投げつけた。
 あたしはまだ独身だ!! ちなみに恋人もいない! おかしいな、自分で主張しておきながら悲しくなってきた!

「あべしっ!?」

「きゃーっ! 田村先輩!しっかりしてください!」

 10kg算盤は見事に田村くんの顔面にクリーンヒット。田村くんは気絶し、それを後輩のくのたまが介抱しだした。あたしは何事もなかったかのように襖を閉めて潮江先輩に向き直った。

「……それで、事の経緯は」

「お前容赦ねぇな。神崎、説明してやれ」

「はい! 説明させて頂きます!」

 左門くん曰く、先日田村くんと左門くんが忍たま長屋に迷い込んできたあのくのたまを保護した。二人でくのたま長屋まで送り届けたのだが、昨日左門くんがくのたまと食堂で再会したところ、いきなり田村くんのことについて色々聞いてきたらしい。
 そして何故か放課後の会計委員会の集まりについてきたとのことだ。つまり、迷子になって田村くんに送ってもらって田村くんに惚れちゃったのだろう、そのくのたま。

「手伝うと言ってくれたから仕事を任せてみたら、ミスばかりでな。しかもそれを指摘したらすぐに泣いて田村にベタベタしやがる。正直言って邪魔だ」

「……はぁ」

 そりゃあ、ミスばかりの使えない子な上にぴーぴー泣かれたらイライラして仕事どころじゃないよね。田村くんも大変な子に惚れられたんだなぁ。そしてあたしが呼び出されたのか。把握。いい迷惑である。

「そこで、お前が如何に田村に愛されているか見せ付けてあのくのたまを追い出してくれ」

「……追い出すだけでいいんですよね」

 あたしの言葉に、潮江先輩が「あ…ああ」と頷いた。
 策がないわけではない。一番手っ取り早い方法で一気に片をつける。はっきり言って今あたしはすこぶる機嫌が悪い。
 再び襖を開けると、田村くんを膝枕していたくのたまが驚いた表情であたしを見上げた。さっきのことがあるせいか、その目は酷く怯えているけれど健気に田村くんを守ろうとしている。だけどあたしはそれに構うことなく二人の前にしゃがんで田村くんの体を揺すった。

「田村くん、起きて」

 超笑顔で、優しい声で起こすと田村くんはゆっくりと目を開けた。

「う…………?」

「邪魔だからさぁ、寝るなら保健室か自分の部屋に行きなよ」

 あたしが田村くんを睨み、ドスのきいた声を出すとようやく自分の置かれた状況を理解したのか、田村くんは慌ててくのたまの膝から起き上がり、あたしの肩を掴んだ。

「はっ! いや、違うんだ! この子は私のファンで!! 私は一筋なんだ! 信じてくれえええ!!」

「うん、わかったよ。とりあえず邪魔だから二人で消えて? 会計委員会の仕事が進まないんだよ。田村くんの代わりはあたしが引き受けるからさ」

! それ、わかっていない!! わかってないから!!!」

 あたしに抱きついてわんわん泣きながら「」とあたしの名前を呼び続けた。やばいこの子病気だ。

「潮江先輩、先輩の態度が鬼畜すぎて田村先輩が可哀想になってきました……」

「神崎、奇遇だな……俺もだ」

 部屋の外で傍観を決め込んでいた潮江先輩と左門くんが憐れみの目であたしたちを見ていた。いや、見てないで助けてほしいんですけど……!!

「あの、やめてください先輩! 私が悪いんですっ……田村先輩は全然悪くないんですっ」

 今まで怯えながら黙り込んでいたくのたまが震えながらあたしと田村くんを引き離した。田村くんはその場に崩れ落ちて大げさに泣き喚いていて、くのたまはそんな田村くんを背中に庇っている。
 ハァァァ!? ちょっと! これって完全にあたしが悪者になってない? 大体、この子がしゃしゃり出てきたからいけないんじゃん。あたし、悪いことしてないよね? なのにどうしてこの子が被害者ヅラしているの。
 ……頭にきた。

「あのさ、自分が悪いってわかってるならやめてくれない? あなたがどれだけ会計委員の人たちとそして主にこのあたしに迷惑をかけているかわからないかな」

「ご、ごめんなさい……! でも私、田村先輩のことが好きで……」

「そんなことあたしの知ったこっちゃないから。あなたが田村くんを好きだからって周りの人間を巻き込んで迷惑かけてもいいとでも思っているの? 田村くんもあたしを追い回してくるけど、あなたほど周りに迷惑をかけていないから!」

 額に青筋を浮かべながら威圧すると、くのたまはカタカタと震えだして涙を浮かべた。

「……わ、私、諦めませんからっ!」

 そんな捨て台詞を吐いて、部屋から走り去っていく。それを見ていた潮江先輩と左門くんはほっと息をついて部屋に入ってきた。こいつら最後まで人任せだ。

「……がキレた……私のために争ってくれた……!」

 田村くんはいつの間に泣き止んだのか、目をキラキラさせながら顔の前で手を組んであたしを見つめている。

「……そういうこと、なのかな。わかんないけど、なんかムカついただけだよ」

「……っ! 好きだっ! 世界で一番愛してる!」

 田村くんがあたしを抱きしめる。いつもより抱きしめる力が強い気がした。
 ――あたしは、自分の気持ちがよくわからない。怒った理由は本当にあたしに迷惑がかかったからということだけ?
 もしかして、田村くんが取られそうになったから?



執筆:13年5月4日