田村くんがあたしを追い回してこなくなった。あたしが話しかけても素っ気ない。そのお陰で平和なんだけども。なんだか胸にぽっかりと穴が空いてしまったような、そんな感じ。
 同室の友人に相談してみると、「それっては田村に追い回されたいってことじゃん」というありがたいお言葉を頂いた。
 最初はそんなことあるわけねーだろって思ったけど、田村くんの冷たい態度に悩んでいることは事実。どうやら、気付かないうちに田村くんの存在はあたしにとって大きなものになっていたらしい。

「浮かなそうな顔をしてるよ、

「久々知先輩……」

 いつもなら田村くんと一緒にユリコちゃんやサチコちゃんやあたしのひな子ちゃんをぶっ放す練習場に一人でいると、久々知先輩がやってきた。あたし、浮かない顔なんてしてたのか。

「原因は田村?」

「はい、そうです」

 久々知先輩の問い掛けに頷くと、久々知先輩は苦笑いした。

「あいつもしつこいな、が迷惑しているのにいつまで追い回すつもりなんだか……」

「……いえ。逆です」

「逆?」

 あたしの言葉にきょとんとする久々知先輩。そりゃそうだよね。いつも追いかけてくる田村くんから逃げてる姿しか知らないもんね。本当はこの練習場で一緒に火器の練習したり、図書室で勉強を教えてもらったり、普通に友達として接してた時間もあるんだよ。

「田村くんが最近あたしを避けてるんです。田村くんがいないだけで寂しくて…何か違和感があるなぁって。それに最近、田村くんのことを好きだというくのたまが田村くんにべったりだし、田村くんもまんざらでもなさそうだし、あたしは嫌われちゃったのかなって」

 田村くんはあたしを好きだって言ってくれてたのに、あたしは逃げているだけで本気で田村くんの気持ちを考えたことがなかった。
 そりゃあ、自分を慕ってくれるくのたまの方を好きになってもおかしくないよね。
 ――一筋とか言ったくせに、嘘つき。
 あたしの話を黙って聞いてくれていた久々知先輩が苦笑いを浮かべた。

「……それはさ。は田村のことが好きってことなんじゃない?」

 ……え。なんだって!?

「あ、あたしが、田村くんを好き!?」

 驚愕のあまり、あたしは地面に膝をついた。
 いや、まさか……きっとこれは何かの間違いだ。田村くんは友達だよ? いやいやしかし……

は鈍感だから、自分の気持ちもわからないのか?」

「鈍感って……!!」

「俺にはが田村をそのくのたまに取られて嫌だって言ってるようにしか聞こえないんだけど」

「んなっ!?」

 ……久々知先輩の言うとおりかもしれない。あのくのたまが田村くんにくっついてるのを見る度に胸が締めつけられるようだった。そして、何よりあたしは田村くんに嫌われたくない! それは友達を失うのが怖いからではなくて、田村くんを失うのが怖いから。
 ――そっか、あたしは田村くんに恋しているんだ。

「自信持てよ。田村が好きなのは誰がどう見てもじゃないか」

 久々知先輩があたしの肩を叩く。
 だけど、あたしは気付くのが遅かったのではないだろうか。田村くんに避けられてるんだよ? 避けられてから気付くなんて、久々知先輩の言うとおり本当に鈍感だな、あたし。きっと、くのいち失格だ。タカ丸さんに髪を全部切ってもらって出家したい。

「まだ、間に合うでしょうか……」

「間に合うって! 万が一ダメだったら俺のとこにくればいいよ」

 久々知先輩に背中を押され、あたしは駆け出した。だけど、久々知先輩の言葉の意味を考えて足を止める。だって、今久々知先輩は――

「今、俺のとこって……あの、久々知先輩!?」

 振り向いて、久々知先輩の顔を見てあたしは驚愕した。久々知先輩の顔、赤い……。伊助くん、三郎次くん、そして久々知先輩、ごめんなさい。あたしって本当にバカ。

「ほら、いいから行ってこい!」

「は、はい!」

 あたしは何も言えなくて、また走り出した。こんなの、ずるい。あたしも頑張って田村くんに気持ちを伝えなきゃいけないじゃんか!



※ ※ ※ ※ ※



 田村くんを探し回り、数刻後ようやく見つけたのは裏裏山。お前何でこんなとこにいるんだよ。たまたまいけどんマラソン帰りの七松先輩に「田村なら裏裏山で見かけたぞ」って言われなかったら絶対わかんなかったわ。
 いや、当たり前か田村くんはあたしを避けてるんだもんな。あたしとエンカウントしない場所に行くよな。

……私を捜していたのか?」

 あたしの姿を見た瞬間に田村くんはほんの一瞬だけ嬉しそうな顔をしたけど、すぐに悲しそうな顔になった。

「そうだよ。田村くんに言いたいことがあって」

「……お前の言いたいことはわかる。お前は久々知先輩が好きだから邪魔するなと言いたいのだろう?」

 田村くんの口から出た意外すぎる言葉に、あたしは固まった。

「は?」

 何故、田村くんまでもが知っている?正確には憧れているだけだけど、あたしの久々知先輩に対する態度ってそんなにわかりやすかったのだろうか?

「伊助と三郎次から聞いたんだ。が好きなのは私ではなく久々知先輩で、久々知先輩ものことを好きなんだってことも。だから、私はお前から身を引いたんだ」

 ……なるほど、伊助くんと三郎次くんか。あの二人はあたしと久々知先輩にくっついてもらいたがってたし、
二人にとっては田村くんは邪魔だったんだね。
 とりあえず、あたしのことが嫌いになったわけでも、田村くんを慕うくのたまに乗り換えたわけでもないみたいで安心した。
 あたしは大きくため息をついた。

「田村くんのバーカ! 久々知先輩は憧れてるだけで、好きな人とは違うよ」

「でも、久々知先輩はが好きじゃないか!」

 いつもは誰があたしに近付いても「に触るな」「は私のだ」とか言うくせに…弱気だ。こんなの田村くんらしくない。

「ああもう、耳の穴かっぽじってよく聞けよ!」

 今にも泣き出しそうな田村くんを抱きしめ、あたしは言った。心臓の音がドクドク煩いけれど、そんなの知らない。

「あたし、田村くんが好き! あたしが好きなのは田村くんなんだよ!」

「……へ!?が、私を好き……!?」

 田村くんは顔を真っ赤にしてる。でもきっと、あたしも赤くなってるはずだ。好きって伝えることが、こんなにも大変なことだなんて思いもしなかった。田村くんを抱きしめる力に自然と力が入ってしまう。

「ずっと待たせちゃってごめん。まだ、田村くんはあたしのことを好きでいてくれてる?」

 そっと田村くんを離して彼の顔を見れば、嬉しそうに目を潤ませながらじっとあたしを見つめていた。

ーーーーっ!!!」

「ぐぇーーーー!?」

 今度は田村くんに抱きしめられた。それはもう、今まで以上に、力いっぱい。

「ようやく…ようやくと恋仲になれたんだな!! この田村三木ヱ門、絶対にを離さないからな!!」

「よ、よろしくお願いしますー……!」

 苦しいけれど、田村くんに愛されてるんだなぁって思ったら抱きしめられるのも悪くはない……かな。だからあたしは抱きしめてくれている田村くんの背中に初めて手を回した。

 田村くんの好きな人はあたしで、あたしの好きな人は田村くんです。




完結しましたっ!書き始めて約1ヶ月…経ってないの、かな?
田村夢を漁っていたあたしがある日突然自分で書こうと思ったのは。
田村が好きすぎt…げふん、ユリコたちみたく田村に溺愛されるという夢をなかなか見かけなくて、
ぶっ壊れた田村も大好きなあたしは、つい、このようなものを、生み出してしまった…というわけです。撃沈。
当初下ネタで攻めようとしたのですが、変態ストーカーだけど経験のなさそうでチェリーな田村もいいなという葛藤の末、
その設定はなくなりました。たまに名残はありましたが。
展開については、やっぱりライバルは必須、障害はつきもの!
というわけで他ジャンルの連載と同じく、他のキャラが夢主に惚れてたりしておりました…今回は久々知王子が被害者となりました。ごんめ☆
まだ色々未消化な箇所もありますので、番外編で補えればいいなって思います。

それでは、最後までお付き合い頂きありがとうございました!

執筆:13年5月4日