マーレンのことがあってから、ヒューバートは同じ部隊の人たちとも上手くやっている。
以前よりもあたしといる時間が減った事は正直寂しいとは思ったけれど、これでいいんだよね。
それと、マーレンは正式に軍を辞めて宝石練磨の修行にセイブル・イゾレへ行ってしまった。
仲の良かった人たちがだんだんあたしの傍からいなくなってしまうなぁと、正直悲しくなってくる。
いつもヒューバートかマーレンと一緒だったから気づかなかったけれど、
あたしは二人以外、上辺だけの付き合いである友達しかいなかったのだ。
救護部隊の人たちだって、多くを語れるほど仲が良いわけじゃない。
だから、度々あたしの部屋に遊びに来てくれるヒューバートには心から感謝している。
それと同時に、あたし自身も人付き合いを改めて頑張らなきゃなって決意した。

「あ、見て。ヒュー様よ!」

「本当!ああ、ヒュー様今日もカッコイイですわ!」

グミなどの消耗品を買いに出ていたあたしとヒューバート。
あたしの隣を歩くヒューバートは年頃の貴族の娘さんたちに大人気の様子だ。
ここのところ任務で大活躍なヒューバートはその功績で
着々とお偉いさん方や貴族からの信頼を確立させていっている。
一部では早くも兵長に昇進するのではないかという噂もあるというし…。

「あーあ、最近ヒューバートの評判が良すぎてちょっと嫉妬しちゃう。」

「…まぁ、ぼくだって頑張っていますから評価されないと困ります。」

眼鏡をくいっと上げるヒューバートを横目にあたしはため息をついた。
とにかく、あたしは焦っていた。
味方を回復、援護するだけのこの救護部隊での昇進は至極難しい。
どんどんあたしとの差をつけて上へと行ってしまうヒューバートとは、いつまで対等な関係でいられるだろうか。
いつかヒューバートに「様」をつけて呼ばないといけない日が来るのかと思うと笑えない。

「…よし!今からヒューバートの評判を落とす作戦を考えよう。
ヒューバートは毎日ハナクソほじってそれを壁につけてコレクションしてるという噂を流したらどうかな。」

ニコニコ笑いながら首を傾げれば、ヒューバートはあたしの背中をバシッと叩く。

、本気で殴りますよ?」

「いやもう殴ったじゃん。背中がすごく痛いですー。」

荷物で両手が塞がっていて、ヒリヒリする背中を擦りたくても擦れないもどかしさ。
あたしが喚いていると、ヒューバートは小さく笑った。
仕方が無いから一旦荷物を近くにあったベンチに下ろし、背中を擦ろうと頑張る。 

「それにしても、モテモテだね。」

なかなか届かなくて結局擦るのを諦めた。
もう、ほとんど痛みは退いていた。
ヒューバートはあたしの言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。

「う、鬱陶しいだけですよ。耳障りだし、イライラします。」

「嬉しくないの?大勢の女の子がヒューバートのことを好きなんだよ?」

照れ隠しだな、これはと思ってニヤニヤするあたし。
しかし、ヒューバートは心底迷惑そうな顔をした。

「ぼくは女好きではありません。心に決めた女性だけに好かれるだけで十分です。」

まさかの爆弾発言にあたしは耳を疑った。
それと同時に、心の中でドロドロとした感情が渦巻いた。
心に決めた女性?何それ、何だろう、何でかな。すっごく不快だ。

「…ヒューバートには心に決めた人がいるの?」

恐る恐る訊ねれば、ヒューバートの顔はどんどん赤く染まっていく。

「そ、それは…!」

この反応。これは、図星だ。
あたしの中のドロドロが大きくなるのを感じる。
確かにあたしはヒューバートのことが好きだ。
だけど、それは人として親友としての好きであって、そこに恋愛感情は一切無い。
ヒューバートが人のものになってしまい、あたしは夢を叶えられなくなってしまうのではないかという不安。
ヒューバートが他の誰かと付き合うようになってしまえば、
彼はあたしと一緒に戦うっていう夢を疎かにしてしまうのではないかと思った。

「…?」

ううん、あまり考えないようにしなきゃ。
きっと今あたしの顔は強張ってる。ヒューバートが心配そうにあたしのこと見てる。

「…ごめん、やっぱりそういう話は怖いから聞かなかったことにしよ。うん。」

あたしはとりあえず誤魔化し、あははと笑った。
そそくさと荷物を持ち上げて歩き始めると、その次の瞬間いきなりヒューバートに手を引かれた。
どさっと荷物が落ちて、あたしは反射的に振り向く。
ヒューバートとの距離が大変な事になっていた。
今迄で一番近くに感じた。

「ど、どうしたの?」

何か買い忘れたものでもあるのだろうか。
でも、ヒューバートの表情と雰囲気はそういうのとは違う感じだった。
何か緊張している、というのが正しいと思った。

「貴女のことが好きです。」

あまりにも突飛な言動にあたしは驚愕した。
その好きという意味は、人としてなのか、異性としてなのか。
一瞬だけ混乱したものの、すぐに呼吸を整えて落ち着きを取り戻す。
恐らく後者だろうなぁと冷静に考えていたあたしだが、もちろん告白されるというのは初めての経験だ。

「あの、ありがとう。でも、あたしヒューバートのことそういう風に見てなかったから…吃驚しちゃった。」

あたしの手を掴んでいるヒューバートの手は震えている。
彼の緊張が伝わってくる気がした。
何を思ってあたしに好きと伝えたのだろう。

「そう、ですよね…。すいません、迷惑でしたね。」

「ち、違うよ!迷惑なんかじゃない!すごく、嬉しいんだよ。」

安心したという気持ちもあった。
ヒューバートが他の女性に取られてしまうという心配がなくなったからだ。
だけど、ヒューバートがあたしを好きということは…あたしとお付き合いしたいということだよね。
異性として意識して、愛を育んでいくってことだよね。
…残念ながら今はそれはできない。
ヒューバートとそういう関係になってしまったら、夢が叶えられない気がした。
だから…心から謝るよ。

「でも、ごめん。付き合うとか、異性として意識するとか
そういう意味ではまだヒューバートの気持ちに応えられないの。
今はただヒューバートとの夢を叶える事だけを考えたい。だから、返事は…夢を叶えてからでもいいかな?」

ヒューバートは黙ってしまった。
俯いてしまっていて、表情はわからない。
傷つけてしまっただろうか。もう、今までのような関係ではいられないのだろうか。
不安が過ぎった。
しばらくして、ヒューバートはあたしの手を握る力を強めた。

「ヒューバート…?」

「…待ってますよ。いつまでだって。」

そう言って微笑した彼の目は潤んでいた。
なんだか、あたしまで泣きそうになってしまう。

「…ありがとう、ヒューバート。あたし、今まで以上に頑張って、あなたに追いつくから。」

涙をこらえながら、ヒューバートの手を握り返した。



10:いつか応えたい想い




(しかし、何でいきなり告白なんてしたの。)
(前々から告白しようとは思ってましたが、先日マーレンに告白されて、ぼくも頑張ろうと思って…勢いで。)
(え、何、マーレンに!?そんな話聞いてないよ!?)





執筆:11年2月16日