あたしはアスベルさんたちと一緒に、大蒼海石の不調の原因を調べるため、ストラタ砂漠遺跡に向かった。
砂漠はとても暑く、アスベルさんやパスカルさんがへばってしまうほどだった。
こまめに水分補給を行い、なんとか遺跡にたどり着く。
「ここがストラタの大輝石がある遺跡か…。」
ようやく遺跡の入り口まで来ると、ストラタの兵士が声を掛けてきた。
あたしに駆け寄り、眉間に皺を寄せる。
「救護部隊のウォーフ中尉じゃないですか。その者たちは?関係者以外立ち入り禁止ですよ。」
流石にここまで連絡が来ていなかったのか、兵士は怪訝そうにアスベルさんたちを見回した。
あたしはスティール大尉から預かった大統領の勅命状を兵士に手渡す。
兵士は勅命状を広げ、迅速に目を通す。
「この方達は大統領閣下から大輝石の調査を命じられてきたんです。」
「そうだったのですか。失礼いたしました。」
兵士は頭を下げると、元の立ち位置に戻っていった。
そんなやり取りを見ていたシェリアさんが、呟いた。
「人が近づきそうにない辺鄙な場所だけど、流石に軍が警備しているわね。」
「はい、大蒼海石は我国にとってなくてはならないものですので、警護しなくてはならないんです。
防犯と景観保護の為に遺跡はそのままにしてありますが。」
あたしが説明すると、シェリアさんはなるほどねー、と遺跡を見回す。
その隣ではアスベルさんが浮かない顔をしていた。
過酷な砂漠を歩いて疲れが出たのだろうか。
あたしは心配になって声を掛けた。
「アスベルさん、顔色が良くないみたいですけど…。」
「いや、大丈夫だ。ただ、ラントは大丈夫だろうかと思って…。」
「アスベル、今お前が心配しても仕方がない。きっと、ヒューバートが上手くやってくれているはずだ。」
マリクさんがアスベルさんの肩を叩く。
しかし、アスベルさんの表情が晴れることはなかった。
「はい、ですが…。」
「リチャード?」
ソフィさんがアスベルさんに問いかける。
リチャードという名前を聞き、あたしは眉間に皺を寄せる。
リチャードってまさか…。
ふと、2年ほど前に我がパラディ家に来た事のあるウィンドルの王子様の顔が浮かぶ。
「ああ、またあいつがラントを襲っていないか心配だ。」
「リチャード、どうしたのかな。もう…友達じゃないのかな?」
アスベルさんとソフィさんの会話に割り込み、あたしは二人に訊ねる。
「リチャード…って、リチャード陛下のことですか!?」
「あ、ああ。」
少し前に、ウィンドルの国王になったと聞いた。
リチャード陛下とは、あの日に仲良くなったものの、以来1度も会っていない。
また会いたいと何度か手紙をくれたこともあったけれど、結局あたしは会いに行く事ができなかった。
優しく微笑んでいたリチャード陛下の顔はもう鮮明に思い出せないけれど、そんな彼がラントを襲った?
信じられなかった。
ラントの地を守っているヒューバートの身を案じる。
「リチャード陛下がラントを襲ったなんて…。ヒューバート…。」
部下達やレイモン様が一緒だから大丈夫だとは思うけれど、どうか、無事でいて…。
シェリアさんは黙ってあたしの肩を優しく抱いてくれた。
「ヒューバートは強いから大丈夫よ。」
「ありがとう、シェリアさん…。」
あたしはぐっと拳を握り、前を向いた。
広間まで来ると、鈍く輝いている大輝石が見えた。
いつもならもっと青々として輝いているというのに。
「大統領閣下の許可を得て、調査にやってきました。大輝石を拝見してよろしいでしょうか?」
アスベルさんが研究員たちに断りを入れる。
「大統領の許可があるなら構いません。どうぞ。」
研究員たちが、大輝石の根元部分まで案内してくれた。
色々な機器に繋がれているが、あたしには何が何だかさっぱりわからなかった。
パスカルさんが前へ出て、大輝石を嘗め回すように見つめる。
「あ~、なるほどなるほど。こうなってるのか。
見るからに壊れてるところがあるから、ここが変に干渉してるんじゃないかな~。」
そして、パスカルさんは懐からドリルのようなものを取り出した。
「ぱ、パスカル!?」
まさかと思った時には、スイッチを入れて、それを大輝石に宛てていた。
あたしたちはそれをヒヤヒヤしながら見守る事しかできない。
更に、パスカルさんはハンマーをも取り出す。
「最後に、ガッとね!」
ハンマーを振り上げ、大輝石に落下させた。
恐らく、その場にいた全員が絶句していたであろう。
パスカルさんは息をつき、振り返ってニカッと笑った。
すると、大輝石がみるみるうちに輝きを取り戻していく。
研究員達が慌てて機械を弄りだす。
「こ、これは…。」
「適当にいじっただけなんだけど、結果オーライみたいだね。」
どうやら、上手くいったらしく、あたし達はほっと胸を撫で下ろした。
とんでもない直し方だったけれど、パスカルさんってすごい…。
ストラタ国で屈指の研究者達でも直せなったのに、こんなに簡単に直してしまうなんて。
だけど、これでストラタは救われたんだ。
「パスカルさん、ありがとうございます…!」
「いやいやー、こんなの朝飯前だよ?」
その時、遺跡の入り口の方から大きな轟音と悲鳴が聞こえた。
「て、敵襲!」
砂煙の中から兵士の叫び声が上がる。
そして、それと同時に出てきた見たことのない禍々しい魔物。
その上に乗った一人の人間。あれは…。
「リチャード!?…なぜここに!?」
アスベルさんが叫ぶ。
あれが、リチャード陛下…?
以前お会いした時とはまるで違う、別人のようだった。だけど、面影はある。
リチャード陛下はアスベルさんに見向きもせず、魔物と共に大輝石に近づいた。
何をする気かはわからない、だけどとてもいいことをしようとしているとは思えない。
「よせ、リチャード!」
アスベルさんが剣を構えた。
「邪魔をするな!」
リチャード陛下が魔物を差し向けてきて、あたしとアスベルさんたちは応戦する。
だけど、その間にリチャード様は大輝石にどんどん近づいていってしまう。
「リチャード陛下!」
あたしは咄嗟にリチャード陛下に銃を向けた。
しかし、なかなか撃つことができない。相手は一国の王。誤って殺してしまったら…。
銃を握る手が震えた。
「何をする気だ、リチャード!」
リチャード陛下が大輝石に手をかざすと、原素がどんどん取り込まれていく。
ようやく魔物を倒し終えた頃には、大輝石は輝きを失ってしまっていた。
「あ…ああ、こんな、馬鹿な!大輝石が、か、空っぽに…。」
「ダメです!全ての計器が残量なしと出ています!」
研究員たちの悲痛の声が響く。
「そんな…。」
折角、パスカルさんが直してくれたのに。
リチャード陛下はソフィさんを睨みつけると、魔物と一緒に空高く舞い上がり、去っていってしまった。
大輝石の輝きは完全に失われている。真っ黒になってしまった。神聖さも何もない。
これから、この国はどうなってしまうのだろう…。
何もできなかった自分に腹が立つ。ただ、見ているだけしかできなかった。
12:無力と非力と後悔
(ヒューバート、あなたがここいたら、どうしてた…?)
執筆:11年1月8日