あたしたちは焦る気持ちを抑えながらユ・リベルテの大統領府に戻る。
お父様…大統領にはありのままを報告するしかない。
きっと、お父様の仕事は今まで以上に忙しくなる事だろう。
「……。」
誰もが無言のまま大統領の執務室に入ると、そこには先客があった。
大統領とその人は、真剣な面持ちで話をしている。
こんな時に先客だなんて、面倒。早くいなくなってくれないかなーと一瞬考えたけれど、
青い髪、整った顔にインテリな眼鏡の先客がこちらを向いた。
「…………っ?!」
あ、あれは…もしかして、ヒューバート?
ラントにいるはずの彼が、どうしてここに…!?
あたし以外のみんなもそう思ったのか、ヒューバートの姿を見て目を丸くしていた。
「。それに、アスベル君たち…戻ったか。」
大統領があたしたちに気づき、目を細める。
アスベルさんは大統領に軽く会釈をすると、すぐにヒューバートに駆け寄った。
「ヒューバート!?お前、どうしてここに…。」
ヒューバートは眉間に皺を寄せ、メガネの縁にそっと触れる。
「状況が変わったんです。」
そう言って、ヒューバートの視線がこちらに向いた。
ソフィさんたちを見た後、あたしとヒューバートの目が合う。
バチっと電流が走ったようだった。
ヒューバートはすぐにあたしから目を逸らし、アスベルさんに向き直った。
…あたし、ヒューバートに避けられてるのかな。
そうだよね、今までずっと疎遠だったんだもんね。
なんとなく、あたしたちの間にぎこちない雰囲気が漂っていた。
「ラント周辺に展開していたウィンドル軍が全て王都に撤退したそうだ。
その理由がまた不可解なのだが、先に君達の報告を聞こう。。」
大統領があたしの名前を呼ぶ。
あたしは、はっと我に帰り、慌てて姿勢を正した。
大輝石は一度パスカルさんのおかげで修復することができた。
だけど、リチャード陛下によって原素を奪われてしまった。
そんなこと、大統領は信じてくれるだろうか、心配だった。
「それが…リチャード陛下が突然現れ、大輝石の原素を…。」
「リチャード国王は、大輝石の原素を吸収していったのではないですか?」
あたしが慎重に言葉を選びながらたどたどしく話すと、横からヒューバートが割って入った。
そして、アスベルさんがヒューバートを凝視する。
「どうしてそれを?」
「それが、ウィンドル軍の撤退理由だからです。
リチャード国王が大輝石のエネルギーを全て吸収し失踪したため、
王都では大きな混乱が起きているようです。」
ヒューバートの説明に、あたしとアスベルさんは生唾を飲みこむ。
まさか、ウィンドルでも同様のことがあったなんて。
「リチャード陛下は何故このようなことをしている?心当たりはないか?」
大統領の問いかけに、アスベルさんたちは顔を見合わせるが、皆は首を横に振った。
「…いえ…。」
その答えに、大統領の表情が曇る。
「ふむ、とにかくこのままにはしておけない。大至急手を打たなければ…。
他の官僚たちとも相談がしたい。少しの間待っていてもらえるか?」
これからのことを考え、対策を練らなければならない。
大統領が急いで部屋を出て行ってしまった。
恐らく、戻ってくるまでは少しばかり時間が掛かる。
そう思い、あたしはそっとヒューバートを見てみた。
どうやらヒューバートもあたしのことを見ていたらしく、目が合ってしまった。
なんとなく恥ずかしくなってしまい、目を背けてしまう。
改めてよく見れば、なんだか大人っぽくなったし、カッコよくなった、かな。
街の女の子たちがキャーキャー黄色い声を上げる気持ちがなんとなく分かる気がした。
「、ヒューバートと仲直りしなきゃ。」
ソフィさんがぐいぐいとあたしの服の袖を引っ張る。
仲直り…。
…そう、だね。今まで疎遠になってしまっていた時間を取り戻したい。
また、前みたいにヒューバートと仲良くしたい。
ヒューバートが今、あたしのことをどう思っているかわからない。
だけど、あたしは…。
「ヒュー…バート。」
あたしは一歩一歩踏みしめながらヒューバートに近づいた。
アスベルさんたちも見守ってくれている。が、頑張ろう。
ヒューバートは目を細めて腕を組むと、ちらりとあたしを見た。
「ひ、久しぶり、ですね。。」
ぎこちなさで、挫けそうになってしまう。
だけど、あたしは必死に声を振り絞った。
「うん。その、ごめんね。今まで話しかけられなくて。」
「それは、ぼくだって同じです。本当はもっと話しかけたかったのですが…その、忙しくて。」
それを聞いて、あたしはホッと胸を撫で下ろした。
嫌われてたわけじゃない。避けられていたわけでもなかったんだ。
安心したあたしは表情を和らげ、手を上げる。
「…とりあえず、おかえり。ヒューバート。」
「…ええ。」
ヒューバートとハイタッチして、お互い微笑む。
アスベルさんたちもそれを見て、安心してくれたのか安著の息を漏らした。
ソフィさんが小さく笑いながら「仲直り、だね」と呟く。
「…しかし、何故が兄さん達と一緒にいるんですか?」
「大統領の命令なの。大輝石が不調でだったでしょ。
パスカルさんが大輝石に詳しいと言うから、遺跡に案内したの。」
「そうだったんですか…。」
2年ぶりのまともな会話。
話したいことはいっぱいあったはずなのに、言葉が出てこない。
中尉になれたってこと、ずっとヒューバートの活躍を聞いてきたこと、その度に嬉しかったと言う事。
そして、あたしたちの夢の事。
「ところで、二人は本当に親友って関係なの?恋人同士じゃなくて?」
シェリアさんが楽しそうに問いかけてきた。
ヒューバートはこめかみをピクつかせながらシェリアを睨みつける。
「ぼくとはそういう関係ではありません。彼女に対して、恋愛感情なんて微塵もありませんから。」
言い切った。躊躇いもなく、動じる事もなく。
2年前に「好きだ」と言ってくれた時の感情は、もうないのだろうか。
…当たり前、かな。2年もの歳月が過ぎて、その間は関わる事もなかったのだから。
何故だか、チクリと胸が痛んだ。
もしかしたら、夢の事ももうヒューバートにとってはどうでもいいものになっているかもしれない。
それなりの地位についても、未だに共闘する事はできていないのだから、
これから先もきっと…ないのではないだろうか。
あの時、告白を受けていたら結果は違ったのかな。
「…、少しいいですか?」
「え?」
突然、ヒューバートがあたしの手を引く。
呆然としているアスベルさんたちをすり抜けて、執務室を出る。
そして、人のいない個室にあたしを無理矢理押し込んだ。
「ヒューバート…?」
ヒューバートは静かに扉を閉めて、あたしをじっと見た。
「は忘れてしまったかもしれませんが、前線でぼくと戦うという夢…。
ぼくは今でも叶えたいと思っています。ぼくがを守り、はぼくの援護をしてくれる…。
今まで沢山の人に背中を預けてきましたが、やはりほど信頼できる方はいませんでした。」
ヒューバートの瞳が揺れる。
嬉しさがこみ上げてくる。
あたしは両手で口元を押さえ、泣きそうになるのをぐっとこらえた。
もう忘れてしまったのかと思った。でも、そうじゃなかった、ずっと覚えててくれてたんだ。
「覚えてて、くれてたんだ…?あたしだって、ずっと叶えたいって思ってたよ。
だから、今までずっと頑張って来れたんだから。」
ヒューバートがあたしの手を取り、じっと見つめてくる。
「ぼくが、忘れるわけないじゃないですか…夢を叶えて、そして…。」
ほんのりと紅潮したヒューバートの頬。
そして、真剣な表情。
「ちょっと、パスカル!そんなに押したら気づかれちゃうわよ!」
「しーっ!シェリア、声が大きい!」
扉の方から声が聞こえてくる。
あたしとヒューバートは扉に目を向けると、閉めたはずの扉がほんの少し開いていた。
呆れ返ったヒューバートはあたしの手を離してつかつかと扉まで歩いていき、勢いよく扉を開く。
するとアスベルさんたちがドミノ倒しのように重なって倒れていった。
「あなたたち…盗み聞きとは…。」
「ヒューバート、顔が赤いぞ?」
「兄さん!!」
そんなやり取りが可笑しくて、あたしは思わず噴出してしまった。
13:やはりあなたじゃないと
(夢を叶えたら、何だったんだろう…。)
執筆:11年3月31日