「君達にはリチャード陛下の追跡を君達に引き受けてもらいたい。」

大統領がアスベルさんたちに告げた言葉。
あたしとヒューバートはお互いに顔を見て、目を丸くした。
もちろん、アスベルさんたちも驚いた様子でいる。

「君は陛下の事をよく知っているし、お仲間は大輝石に詳しい。適任だと思うんだが。
もちろん、我国は全力を持って君達の行動を支援する。」

大統領の言葉を神妙な面持ちで聞いていたアスベルさんがこくりと頷く。

「わかりました。私たちとしても陛下の事や大輝石のことは気がかりでなりません。
ですから、ご提案を受け入れます。」

アスベルさんの答えを聞き、一旦目を伏せた大統領は次にあたしとヒューバートに向き直った。
あたしは目を瞬かせながら大統領の言葉を待つ。
あたしとヒューバートには、一体どんな任務をあてられるのだろう。
ヒューバートはラントのことがある。
あたしは、一応この件に関わったのだから、関与しないということはないだろう。

「そして、ヒューバートと…君達もアスベル君と行け。」

「え…?」

一瞬、大統領が言った意味を理解できずに頭の中が真っ白になった。
ヒューバートは目を見開き、口を開いた。

「ですが、ぼくは…。」

あたしはヒューバートの声ではっと我に返った。
そうだよ、あたしはいいとして、ヒューバートはラントに戻らなくていいのだろうか。
ラントは今フェンデルに狙われていると聞く。

「いいんですか?オズウェル少佐が同行すれば、ラントの件は…。」

「閣下、の言う通り、ヒューバートがいなければラントは立ち行きません!」

あたしに続いて、アスベルさんが大統領に申し立てる。
すると大統領は苦笑交じりに答えた。

「ラントの後任に関してはヒューバートに一任しよう。それなら問題ないだろう。
君達には調査に専念してもらいたい。今はこの問題の解決が優先だ。」

これならアスベル君も文句はあるまい、と大統領は不敵に笑って見せる。
ヒューバートのことについては納得できたけれど…あたしは、どうなのだろう。
残り最後の大輝石はフェンデルにある。
フェンデルと我国は敵対していて、そこへ行くということは容易ではない。
過去に、何人ものストラタ兵を送り込んだものの、彼らが帰ってくることはなかった。
あたしたちも、もしかしたらもうここには戻って来れないかもしれない。
そんなところに、行く事を大統領が…お父様が許してくれるだなんて…。

「本当に、私も同行するのですか?」

「もちろんだ。官僚達もウォーフ中尉を推している。アスベル君、二人を頼んだぞ。」

大統領はあたしの肩をぽんと叩いた。
その手は微かに震えている。

「は…はい!」

アスベルさんの返事を聞きながらあたしは大統領の顔を見つめる。
大統領はあたしと目が合うと、悲しげに微笑んだ。

ああ、やっぱり心配してくれるんだな。
それでもあたしのことを信じてくれてるんだ。









大統領府を出ると、もう日が暮れていたので今夜はホテルで一泊することになった。
あたしは割り当てられた部屋のベランダで夜空を見ていた。
今日一日だけで色々なことがありすぎた。
ヒューバートのお兄さんであるアスベルさんとその仲間の方と出会って、
久しぶりにリチャード陛下にお会いしたと思ったらリチャード陛下はご乱心で、
そのおかげでヒューバートと再会して会話して…。
そして、明日からヒューバートやアスベルさんたちと一緒にフェンデルへ向かって…。

「フェンデル、か。」

今まで幾度となく実践を重ねてきた。だけど、ストラタ国外に出ることはなかった。
国外に出るのは不安もあるし、正直…怖い。
ましてや、あの敵国であるフェンデルに向かうのだから。
足手まといになりたくない。だけど…身体が勝手に震えてしまう。

そんなときだった。
コンコンと2回扉をノックする音と、その奥から声がした。

、少しお話しませんか?」

「…いいよ。」

あたしは深呼吸をして、気分を落ち着かせようと努めながら声の主の入室を待った。
声の主、ヒューバートは少し照れくさそうな表情をしながら部屋に入ってきた。
あたしと目が合って、ぱっと顔を背けてしまう。

「なんだか、昔を思い出すよ。よくあたしの部屋に来てくれて一緒にお茶してたよね。」

ベランダから部屋に戻り、あたしはゆっくりと窓を閉めた。
ヒューバートは椅子に腰掛けて苦笑する。

「そうでしたね。たった2年前のことなのに、遠い昔のように感じます。」

「うん、あたしも。会えなかった間、話せなかった間ずっと長く感じてたよ。」

ヒューバートと向き合う形でベッドに腰を下ろし、目を伏せた。
そう、本当はこうやってまたヒューバートと話せるのをずっと待ち焦がれていたんだ。
ただ、きっかけがなかった。ずっと話しかけたかったのに、
臆病なあたしは誰かにきっかけを与えられるのを待つしか出来なかった。

「ですが、まさかこんなに早く夢が叶ってしまうなんて。」

「え…?」

とぼくの夢、です。明日から一緒に戦えるんですよ?」

一瞬、あたしの思考回路が鈍った。
ヒューバートと一緒に、戦える?夢が、叶う?

「あ、そっか…!そうだよね…夢、叶っちゃうんだよね!」

フェンデルに向かうことが不安で、忘れていた。
どうして気づけなかったんだろう。
そっか、ついにあたしとヒューバートの夢が叶うんだ。
嬉しさで胸がいっぱいになる。

…だけど、つい先刻まであたしたちは2年間も疎遠になっていた親友同士。
ヒューバートは少佐と言う地位にまで上り詰めていて、あたしは中尉止まり。
実力に差が生じている事は間違いがない。果たしてヒューバートの援護をどこまでできるか…。
そう思ったら、嬉しさがどんどんなくなっていくような気がした。

「どうしたんですか?突然暗い顔になって…。」

ヒューバートが俯いたあたしの顔を覗き込む。


「夢が叶うのは嬉しいの。でもね、あたし、ヒューバートの背中を守れるか心配。
だって、ヒューバートと対等な位置にはもういないんだもん。あの頃とは違うんだもん。」

実戦の数も、地位も圧倒的にヒューバートの方が上だ。

はバカです。ぼくがいない間、何をしてたんですか?」

「な、何!?」

突然、ヒューバートに罵倒されたあたしは顔を上げ、眉間に皺を寄せながらヒューバートを睨みつける。
だけど、ヒューバートは真剣な表情でじっとあたしのことを見つめていた。
その顔がとても凛々しくて、思わず息を飲んでしまう。

「…ぼくはあなたに守ってもらうほど弱くありません。あなたは、ぼくが守ります。
ただ、あなたと一緒にいられれば、それでいいんです。この2年と離れてわかったんです。」

守られてるだけ…?
そんなの、ダメだよ。

「でも、それじゃ…。あたしは、ただの足手まといだよ。」

「そんなことはありませんよ。そもそも、は十分に強いです。
が稽古をしている姿を何度か見かけたことがありますからね。」

「ありがとう、ヒューバート!」

ヒューバートにそう言ってもらえたことがすごく嬉しくて、あたしは咄嗟にヒューバートに抱きついた。
慌てふためいたヒューバートは、顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせた。
そんな彼を見て、あたしはくすくすと笑う。

いつのまにか、色々な不安はなくなっていた。



14:動き出した時間




(ちょ…いい加減離れてくださいっ!!こんなとこ誰かに見られたら…!)
(やーだ。もう少しだけこうさせて?)
(…っ!ああもう、仕方のない人だ…っ。)




執筆:11年6月4日