目の前には今より少し幼いヒューバートがいた。
ヒューバートもあたしも、頬を赤くしながらお互いを真剣に見つめ合っている。
懐かしい、これは…昔の記憶?
『返事は…夢を叶えてからでもいいかな?』
『…待ってますよ。いつまでだって。』
ああ、そうだ。
あたしは、夢を叶えたらヒューバートに伝えるんだ。
あの時出来なかった、告白の返事を―――。
そこで目が覚めて、あたしは咄嗟に体を起こした。
動悸が激しくなるのにも構わず、ベッドを降りて足早に洗面所へ向かう。
夢を見た。
あの日、ヒューバートに告白された時の夢。
もうすぐ夢が叶う。
つまり、あたしはあの日の返事を伝えなければならない。
確かに、ヒューバートは待ってると言ってくれていた。
忘れて、ないよね?
まだ、ヒューバートはあたしのことを好きでいてくれているのだろうか。
あの時の気持ちのままで、まだ待っていてくれてるのだろうか。
蛇口をひねり、冷たい水を顔に掛ければ頭が冴えてくる。
2年も、だ。
ろくに口もきかずにいたんだから、もしかしたらヒューバートはもう…。
「待ってるわけ、ないか。」
それに、あたし自身まだヒューバートのことをどうおもっているのかよくわからない。
ずっと、親友だと思っていた。
告白されても、夢が叶わなければまだ親友でいられたから。
ちゃんと、真剣に考えた事がなかった。
あたしは、ヒューバートのことを好き、なのかな。
友達以上恋人未満とは本当に上手くいったものだと思う。
まさにあたしの中でのヒューバートはそんな感じの存在だ。
とりあえず…今は急いで準備しなくちゃ。
考えるのは後だ。まずは、リチャード陛下を止めなければならないのだから。
返事については…その後だ。
顔を拭き、身支度を整えていると部屋のドアがノックされた。
ヒューバートや、アスベルさんが迎えに来たのだろうかと思ったら自然と笑みがこぼれてしまった。
だけど、ドアの向こうから聞こえてきた声は聞き慣れた、あたしの部下であるセシアの声だった。
「ウォーフ中尉!」
「…あ…は、はい?」
呆気にとられながらドアを開けば、セシアが真っ青な顔であたしを見つめた。
「も、申し訳ありません、急ぎ大統領府へ向かって下さい!」
この様子からすると、何かが起こったことには間違いない。
だけど、どうしてあたしのところに…。
「ど、どういう事…?あたしはこれからアスベルさん達と共にフェンデルへ向かうんだけど…。」
「それが、スティール大尉が魔物に…。
救護部隊で代わりに現場の指揮を取れるのは今ウォーフ中尉しかいないのです!」
もう少しだったのに。
仕方がないとは言え、悔しさで胸が張り裂けそうだった。
どうして、こんな時に限って。
口に出したくても、この状況が覆るわけじゃない。
「そう、なんだ…。」
あたしはやり場のない激情を押さえつけながら、唇を噛み締めた。
セシアが心配そうにあたしを見ている。
「…ウォーフ中尉。」
「ごめん。大丈夫だから…。このことは大統領もご存知なの?」
「はい。リチャード陛下の件につきましては、オズウェル少佐とアスベル殿ご一行に任せるとのことでした。」
「…そう。」
あたしは急いで身支度を整えて、足早に大統領府へ向かった。
大統領から魔物討伐の命を受けたあと、宿屋の前にいたヒューバートたちを見つけた。
ヒューバートもあたしに気づき、こちらに足を進めてくる。
「話は聞きました。一緒に行けないのは残念ですが…そちらも頑張ってください。」
「申し訳ありません、オズウェル少佐。後のことは…お願いいたします。」
客観的に見れば、事務的なやり取りだった。
だけど、お互いの表情は悔しさが隠しきれていなかった。
それに気づいたアスベルさんが心配してくれる。
「いいのか?二人とも。」
「…仕方が、ありません。救護部隊は人手が足りていないのです。
こちらにはシェリアもいますし、ぼくも少しなら回復の術を心得ていますから。」
ヒューバートが淡々と答えれば、アスベルさんは少しムッとした様子でヒューバートを睨んだ。
「俺が言ってるのは、そういうことじゃない。と一緒に戦うのがお前の、二人の夢じゃなかったのか!?」
アスベルさんが言っている事は間違っていない。
実際、あたしもヒューバートもできれば一緒に戦いたかった…夢を叶えたかったのだから。
「兄さんには関係ありませんよ!ぼくだって…できることなら…っ!」
ヒューバートがアスベルさんに掴みかかる。
あたしは慌ててヒューバートを制し、アスベルさんに微笑みかけてみせた。
「アスベルさん、いいんです。チャンスはこの先まだあると思うので…。
オズウェル少佐、まだ…あたしは夢を諦めませんからね。」
「…ッ。ぼくも…諦めませんよ。」
アスベルさんたちに見守られる中、あたしはセシアを連れて任務の地へと向かった。
ユ・リベルテを出てしばらくして…道中、あたしはこっそりと泣いた。
15:絶対叶うと信じて
執筆:11年6月20日